「品質立国日本再生」に向けての提言

「品質立国日本再生」に向けての提言

2019年7月
一般社団法人日本品質管理学会
会長 棟近 雅彦

  
はじめに
 近年報道が相次ぐ産業界の品質不祥事問題は、日本の産業界が長らく大事にしてきた「高品質なもの作り」という強みが失われつつあることを意味します。「品質立国日本再生」に向けて産業界が総力を挙げて動き出すべき時であると考え、日本品質管理学会(JSQC : The Japanese Society for Quality Control)は広く社会に対して以下の提言をいたします。
1.品質不祥事の内容
 優良といわれる多くの企業が品質不祥事を起こしていますが、一口に品質不祥事といっても内容によって次の3つに分けられます(資料1参照)。
(1)品質不良品問題
 企業の品質管理が弱体であることから、製品出荷前に品質不良品を発見できず、不良品が顧客・社会に流出して社会的に大きな問題となったケースである。その過程では、意図的な不良品の出荷や法律違反の認識はなく、トップの関与も必ずしも明確でないため組織的な不祥事とはいえないものである。
(2)データ改ざん問題
 企業の製造工程内、あるいは出荷検査において、意図的にデータを改ざんしたケースである。お客様と取り決めた仕様を外れても実際の使用では実害が生じないなどと勝手に判断して出荷したもので、明らかに意図的な品質不祥事として社会から指弾されている。
(3)法律違反問題
 法律あるいはJISが定めた規格、検査方法、性能などについて法律違反であることを認識していたにもかかわらず出荷したケースである。品質を犠牲にしてでも納期を優先したい、追加作業にかかるコスト増を避けたい、遵守すべき規定が古くて実際には過剰品質であるなど、企業の身勝手な考えで出荷した確信的な不正である。
 (2)、(3)はトップの関与の有無にかかわらず、企業活動において最も優先されなければならないコンプライアンス違反の不正です。
2.品質不祥事の要因
 品質不祥事の内容は様々ですが、企業の生産工程(プロセス)から全品良品が得られれば、いずれの品質不祥事も生じないことは自明です。ところが実際の生産工程は、作業の動作、設備の加工条件、材料の配合比などの無数のばらつきや変化の要因により、良品をいつまでも継続して作り続けることが不可能な現実の中にあります。そこで、企業は工程(プロセス)で全品良品を作ることを目指すと同時に、出来てしまった不良品の流出を防止し、顧客には100%良品を提供する活動が求められます。
(1)品質不良品問題の要因
 「品質は工程で作り込む」という原則は、産業界現場で実践されない状況になりつつあります。また「品質は検査で保証する」取組みも希薄になっています。戦後日本の産業界が血道を上げて取り組んだ品質管理がこの30年間、多くの企業で忘れ去られようとしていますが、重要な要因には次のようなものがあります。
1)「プロセス保証」の仕組みが弱い。
2)業務の標準化がされてないか、弱い。
3)標準を守る活動が弱い。
4)品質管理教育が軽視されている。
5)品質を重視する組織文化の醸成が弱い。
(2)データ改ざん問題の要因、及び
(3)法律違反問題の要因

 企業は、工程(プロセス)で全品良品作りを目指す、さらに出来てしまった不良品は検査で選別し、顧客には100%良品を提供するべきであるにも拘らず、企業内の品質ガバナンスの弱さから不良品を流出させています。社長から売り上げ確保、利益の増大を毎期指示されると、「不良品の発生している現状」の報告はしづらい雰囲気が社内には満ちていきます。社長が率先して「悪い情報を吸い上げる」工夫をしない限り、部下は上司を“忖度”して本来取るべき活動を怠ります。そこには、管理層が現場の実態を把握していない、把握していても上位職に報告せずやり過ごしてしまうことが少しずつ横行します。数年の間それで問題なく過ぎていきますと、不良品を正規ルールで処理しなくてもよい、という歪んだ慣行が組織内にできてしまいます。
 その要因には、次のようなことがあると考えます。
1)社長と現場とのコミュニケーションの欠如
2)現場のリソース(人員、資格者、設備など)不足
3)育成・教育(法律教育、人材教育、倫理教育)などの手抜き
4)不都合なことに真正面から向き合わない企業文化
5)社長のコンプライアンス意識不足
6)規格外でも使用品質に影響しなければ問題なしという倫理観
7)企業創立時の理念、ビジョンの変質
8)企業収益第一主義の蔓延
3.品質不祥事への対応
 昨今の企業の品質不祥事への対応は、2項で分析した要因の一つひとつに対応するものでかつ有効に要因を取り除くものでなければなりません。次のような対応が有効であると考えます。
(1)品質不良品問題への対応
 ここで分析した品質不良品問題への対応は、JSQCが発行している下記規格の内容を実践することで有効に対応することができます。
1)プロセス保証の指針
2)日常管理の指針
3)方針管理の指針
4)小集団改善活動の指針
5)品質管理教育の指針
6)新製品・新サービス開発管理の指針
企業は現状を分析する中から、自社に有効であると判断した活動を1)~6)の中から取捨選択して実践することが望まれます。
(2)データ改ざん問題への対応、及び
(3)法律違反問題への対応

 ここで分析したデータ改ざん問題・法律違反問題への対応は、唯一に社長の意識改革と率先行動が必要であり、有効です。
社長が品質への重要性を取締役会で言い続ければ、1)~8)の要因は次のような対応となって現れます。長い目で品質を大切にする組織文化を醸成していくことを前提として;
1)社長は、自ら現場へ出向き現場の意見を聴き、実態を知る。
2)社長は、現場の実態を知ることから現場のリソース(人員、資格者、設備など)不足に手を打つ。 3)担当役員は、法律教育、人材教育、倫理教育などを計画し実践する(資料2参照)。
4)取締役は、不都合な情報こそ上げろと部下に指示を出す。
5)社長は、内部通報制度を促進し、コンプライアンス重視の風土を醸成する。
6)現場は過剰品質となる規格改定の声(報告)を上げる。規格改定が承認されるまでは規格外品は出荷しない。 7)社長は、企業創立時の理念、ビジョンを蘇らさせ、必要に応じて修正をする。
(8) 社長は、企業収益は品質確保の結果に得られるものであることを徹底する。
 2002年に起きたある大企業のデータ改ざん不祥の社長会見は、次のようなものでした。 「今回の問題は、事故やうっかりミスによるものではなく、それ以前の「モラルや倫理面の問題」であり今後は組織風土の改革を進めようと考えている。

(1) 社内の情報の流れを円滑にし、風通しを良くするということ。徹底したディスカッションを通じて意識の共有ができる職場の雰囲気づくりを進めながら、経営の意志をわかりやすく社内へ伝えていく。
(2) 「開かれた企業」つくりをめざし、積極的に地域活動へ参加することや、情報公開のあり方などについて社外からご意見を伺うモニター制度を拡充する。
(3) モラルの徹底をはかり、協力企業等とのパートナーシップを醸成する。」
しかし、この企業では3年後に同様な事例が発生し、社長の決意はもろくも崩れ去ってしまいました。なぜ、再発したのでしょうか。この例では社長は決意したように見えますが、実は社長自らの対応が弱かったと分析します。長年に渡って染みついた不正の習性(癖)は簡単には変わりません。社長の強い意志、言い続け・やり続ける強力なエネルギーが必要なことをこの事例は物語っています。

4.まとめ
 品質とは顧客価値創造です。日本はかつて、高度経済成長期に「Japan as No.1」(1980年)と称賛されるまで、品質重視の経営を実践していました。当時、高品質の実現には、トップの現場巡視、QCサークル活動などの現場を重視する経営がその一端を担っていました。21世紀に入り日本を取り巻く国際情勢は目まぐるしく変化していますが、日本が競合国の台頭を押さえて、これからも世界をリードしていくための基盤となるのはやはり“もの作り”であり、その中核に「品質」をおく戦略が不可欠であると考えます。
 企業の中にそのような考えを持つトップ人材を配置するためには、国としての中長期の戦略が必要であると考え、次の提言を各界にしたいと思います。 (1)企業における品質経営の推奨
- 社長のリーダーシップによる方針管理の推進
- 標準化及び日常管理の推進と徹底
- 小集団改善活動の推進
- 品質管理教育の強化 (2)小中学校から大学までの品質管理教育の強化
- TQM(総合的品質管理)教育の実践
- 品質管理は科学的活動であるが、倫理の遵守教育も含む このような戦略が実効的な成果を生むには向こう10年の歳月が必要です。10年後に「品質立国日本再生」が実現されるためには、産学官の連携された総合的な行動が必要であり、JSQCはその一角を担いたいと思っています。
以上

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