品質に関する技術と知識の共有、創出をめざして
慶應義塾大学 理工学部
山田 秀
第54、55年度日本品質管理学会会長を拝命しました慶應義塾大学理工学部 山田 秀です。日本品質管理学会(JSQC)は、私が初めて所属した学会であり思い入れの大きな学会です。その会長という大任を、緊張と希望を抱きつつ、役員、会員の皆様のお力添えを得ながら務める所存です。
一般に学会には、同じ興味を持つ方々が何らかの形で一堂に会してそれまでの技術や知識を共有し、新たなものを創出する機会を提供する役割があると考えます。また、見識ある専門家がそれらの技術や知識を正確に発信することで、社会に安心感を与えるのも学会の役割と考えます。
JSQCが対象とする品質に関する技術や知識の特徴のひとつは、分野横断的な管理技術なので固有技術と比較して共有が容易であることです。共有の機会があると、ある企業でうまく行っているやり方を、他の企業でも導入でき、ひいては社会全体のレベルアップにつながります。日本における品質管理の成功要因として共有の成功があり、これは今後も重要です。
ふたつ目は、経営環境の変化に適応して品質に関する新たな技術、知識を創出する必要があることです。例えば、働き方改革のなかでの小集団活動の推進方法の明確化、オープンデータや大量データの解析手法の開発、AIの改善や日常管理への適用方法の確立、ビジネスモデルの複雑化に伴う複数の企業による品質保証体系の整備などさまざまなものが挙げられます。このような技術、知識の共有と創出がJSQCの根幹であることを念頭に、これからも活動を進めていきます。
社会への正しい発信という側面では、JSQC会員が考える品質管理に比べ、社会全般で捉えられている品質管理は非常に狭いものになっていると思います。例えば、私が担当している講義の出席学生339名のうち88%にあたる300名が、工場、製造部門、検査活動など品質管理の目的、対象、範囲を狭く捉えていました。また、ISO 9001知らない、ほとんど知らないという学生が84%です。品質管理、JSQCの活動内容を社会に正しく伝えることが、長期的にはJSQCの社会における存在感を向上させ、また、JSQCが品質を通して社会に貢献する手掛かりになると思っています。
視点を直近に移します。54、55年度は、若林宏之前会長が掲げられた旗印「品質の仲間づくり」と、設定された中期計画を引き継ぎます。中期計画の具体的な柱として、次のA)、 B)、C)があります。
A) 会員・賛助会員にとって魅力ある学会作り
B) 品質管理の正しい理解と普及の促進による安心で豊かな社会の実現への貢献
C) 更なる会員サービスの向上に向けた内部強化
53年度までの成果を踏まえて、活動の継続、加速、新規導入を考えます。 JSQCの強みの一つは、各種研究会、部会、特別委員会が強力に機能していることですので、これをこれまでどおり後押しします。
また、53年度から新たに展開しつつあるものを加速させます。A)の例として、AI品質ガイドラインの普及、啓発、工程ビッグデータによる品質管理手法の研究、B)の例として、AI、ビッグデータ活用へ繋がる小・中・高への品質・統計教育支援などがあります。
さらにC)として、今年度からJSQCの持続性確保を目指し、ICT活用による事務効率化や、活動成果の外部発信体制の強化 に取り組みます。
53年度にはJSQCが主催組織となり、Asian Network for Qualityの総会が、217名の参加者、122件の発表を含め盛況に開催されました。また、日本クオリティ協議会の設立により、品質に関連する組織の大きな傘ができました。品質仲間作りの一環として、 JSQCのアジアでのあり方や、品質を通じた日本の繁栄を目指し、日本クオリティ協議会の傘下での活動方針を明確にします。
目指すところは、品質に関する技術や知識の前向きで楽しい共有、創出です。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
一般社団法人 日本品質管理学会
山田 秀