会長就任にあたって

(独)統計センター 理事長 椿 広計

 敗戦後、米国から日本に“Q遺伝子”が組み込みまれました。日本の先達は、着実なQマネジメントをQ活動自体に適用し、学習と実践の積み重ねを通じて、独自の日本型遺伝子(JQ遺伝子)に進化させるコトに成功し、産業界国際競争力を裏支えしました。欧米はこの急速かつ自律的進化を日本の奇跡と称し、1990年代以降JQ遺伝子の自国産業界・学界・教育への組み込みを行い、変異させました。工程改善はシックスシグマ(QCストーリーは、DMAIC)に、方針管理はバランススコアカードに変容しました。一方、日本はこの四半世紀、その前の四半世紀に比してJQ遺伝子を現場やマネジメントに継承し、進化させ続けるコトを重視しなくなりました。結果として、Q指導者の高齢化、Qに関わる研究教育拠点減少が進んでいます。近年、Q不祥事に企業品質保証部が加担し、QCの社会的信頼を失墜させ、先達の努力を汚すことも生じています。このままでは、自律的に進化し、世界の称賛を得たJQ遺伝子は、次の四半世紀で絶滅するのではないでしょうか。
 このような中、第44年度大久保尚武会長は、4つのSHINKA、「真価、深化、新化、進化」を図る中長期計画を策定しました。特に、大久保前会長は、Qを重視する産官学の緩やかなNetworkとして“Japanese Association for Quality(JAQ : 仮称)”を創設するコトを2015年6月に日本科学技術連盟(JUSE)主催の第100回品質管理シンポジウムでJSQC会長として提言されました。JAQ創立はSHINKA計画最大の柱ですが、全日本のためのコトつくりをJSQC単独で行うことは不可能です。JAQ2018年設立を目指し、JUSE、日本規格協会(JSA)、JSQCの3者が協力してコトに当たることを合意し、JAQのグランドデザインに当たる3者調整委員会も設けました。JSA、 JUSEに限らず、Qのあるべき実践・必要な研究・標準化・教育啓発に意の有る全ての企業・教育機関・政策部局・学会・有志がJAQに参加することが期待されています。JAQ創生は、次世代のQエキスパート・指導者・研究者を形成する教育研究拠点復興と日本のあらゆる分野でのJQ遺伝子進化のサイクル構築に資するものとなるでしょう。
 そして、2015年11月統計家の私が、JSQC第45-46年度会長に就任しました。Q専門とは申せませんが、JSQCがJQ遺伝子の自律的再進化の触媒となるべく、Q専門の理事の方々と共に尽力する所存です。
 すなわち、JSQCは、そのSHINKA計画に従い、JAQの歯車に徹するために、46年度から活動を重点化します。JAQ創生に向け、Qの深みを究め(究深)、新しきQの分野を求め(求新)、再び急速な進化を実現し(急進)、以て危機に瀕する我が国のQの真価を救う(救真)体制を築くための質改善活動を進めるのです。本部活動は、会員のボトムアップ活動以外は、Qに影響を与える情報環境変化等に対応する次世代Q研究と、サービス・情報・公共政策など質の追求原理の開発が求められている新分野Q開拓研究に重点化します。出版・事業・広報などもそれを支える活動に限定します。これまでの普及啓発事業は例外的とし、JSA、JUSEの普及啓発事業を公的に支援する立場に徹します。また、支部活動は、産業界等が抱える難易度の高いQ問題にソリューションを提供し、共有する産学協働を中心とします。45年度は過渡期として、体制整備を行います。
 Q問題の多様化・複雑化の中、これら重点項目ですら、JSQC単独で支え切れるものとは考えられません。しかし、Q活動に必要な学術・技術は他学会から人財を招へいし、将来的にはJAQに参加して頂けるような関係性構築にも努力したいと考えています。ぜひ、JSQCの新たな方向性・役割を会員の皆様にご理解いただいた上で、忌憚ないご批判・ご意見をお願い致します。