トピックス ISO 9001:2015の次期改訂動向

テクノファ 代表取締役/ISO/TC 176/SC 2/WG 29(ISO 9001改訂)エキスパート
須田 晋介

 ISO 9001:2015の改訂プロジェクトがISO/TC 176/SC 2/WG 29のもと、2023年11月から本格的に動きだした。

■ スケジュール

 改訂版の発行は、2026年9月を予定している。当初は2025年11月であったが、CDにおいて、コメント処理に難航しスケジュールが延期された。以下に改訂スケジュールを示す。(本記事掲載時)

2023年11月 New project approved
12月 WD(作業原案)発行
2024年4月 CD(委員会原案)発行
(以下、予定)  
2025年1月 CD2発行
7月 DIS(照会原案)発行
2026年4月 FDIS(最終国際規格案)発行
9月 IS(国際規格)発行

■ 設計仕様書

 ISO 9001では規格改訂時に設計仕様書を作成している。これは改訂方針や改訂に当たっての具体的仕様を定めた文書である。今回の設計仕様書では、規格の目的、タイトル、構成やプロセスアプローチの採用など、規格の根幹となるところについては、変更しないこととした。その中で改訂に当たってのインプットとして複数の事項が挙げられており、特に重要となるのが、「品質における新たなトレンド」と「リスク及び機会」の2つである。

■ 品質における新たなトレンド

 ISO/TC176/TF4(Emerging trends in quality)において、14のテーマを取り上げた「品質マネジメントにおける新たなテーマ(Emerging themes relating to quality management)」のペーパーが発行されている。以下が14のテーマである。
 (1)顧客体験、(2)人々の側面、(3)関係性の管理、(4)人口動態の変化、(5)変化のマネジメント、(6)統合、(7)機敏さ、(8)ナレッジマネジメント、(9)革新、(10)情報の側面(11)循環型経済、(12)新しいテクノロジー、(13)倫理及び誠実さ、(14)組織文化
 これまでのWG29の会議では、これら14のテーマについて次の規格改訂に反映するかどうか、する場合はその方法について議論をしてきた。そして、「変更のマネジメント」、「倫理及び誠実さ」と「組織文化」を要求事項へ反映することがCDにおいて合意された。
 (5)変更のマネジメント: 6.3(変更の計画)のビュレットとして、有効性の監視、結果のレビューを追加
 (13)倫理及び誠実さ、(14)組織文化: 5.1(リーダーシップ及びコミットメント)のビュレットとして、トップマネジメントが促進する事項として追加。ただし、組織文化は品質文化とした。

■ リスク及び機会

 6.1(リスク及び機会への取組み)については、ISO 9001:2015に対するユーザー調査でも要求事項の明確化の改善が必要であることが示されていた。また、TG4において、Risk concept paperが発行されており、この文書で示された考え方を考慮した改訂が検討された。もっとも特徴的なことは、リスク及び機会を「de-couple」することである。すなわち、分けて記述することである。Risk concept paperでは、リスクは悪影響を考えることが一般的であり、機会はポジティブなリスクではないなどの考えが示されている。このことから、CDではリスクと機会を6.1.1.1(リスクの決定)及び6.1.1.2(機会の決定)と箇条を分けて記述した。(なお、CD2に向けた議論では、6.1についてHSへの準拠を考慮する必要があるとの意見があり、6.1をこのように大幅に変更するかどうかはまだ不透明である。)

■ まとめ

 ISO 9001:2015の改訂はまだCD段階であり、今後内容が変わる可能性が十分にあることに注意する必要がある。今回の改訂は大幅な改訂とはならないが、倫理や文化に関わる要求事項を追加する方向で議論は進んでおり、QMSにおける社会的・規範的側面に関わる要求事項が強化される方向である。リスク及び機会については、要求事項の明確化が進み、ユーザーにとってより使いやすい規格になるとよいだろう。

 

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jimukyoku01
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