私の提言 これからの「現場」
日野自動車(株) 鈴木 直人
筆者はメーカーの人間なので「現場」をとても大切に思っているし、「現場力」という言葉が好きである。
日本が持つ現場力は、坂根正弘 日本科学技術連盟前会長が言っておられた「ビジネスモデルで先行し現場力勝負へ持ち込めば、日本はまだまだ勝てる」の言葉がまさに示すとおり、そう簡単には他国に真似され、座を脅かされるようなことのないもの、持って生まれた日本(人)の特性であり文化的財産と言っても過言ではないと筆者は思っている。
競争力で一番大切なのは、「簡単には真似されない」ことである。どんな「競争優位」も真似されてしまえばそれは瞬く間に「一般水準」だ。かつて世界を席巻した日本の様々な優位性が、残念ながらいま失われつつあるのも、新興国などが「真似ができるレベル」に能力を高めてしまったことが大きな一因ではないかと思っている。
さて、そんな中でも日本が依然優位を保っている現場力であるが、最近この「現場」の言葉が指す対象にどうやら異変が起きている。まだまだ先と思っていたDXが、コロナ禍もあって当初想定を超えるスピードで私たちの日常に浸透しており、会議のリモート化などは序の口で、商取引から決裁、人材育成からデザインに至るまで、多くの仕事が「場所の制約」から劇的に解放されてきた。
そうなると「現場」とはいったいどこを指すのか? 業種業界によっては、業務のほぼすべてがリモート化され出勤先もない、つまり物理的な意味での「現場」など存在しない例も出て来そうだ(既にあるかもしれない)。
そして製造業、そこには「製造現場」が存在し続けるではないかと思うかもしれない。しかし、もしかしたらそれさえも、5G以降いろいろな遠隔処理が可能になってくると、従来概念とは全く違う製造現場が出現することも充分考え得るのではなかろうか。
そう簡単には真似されまいと思っていた日本の現場力、しかしその肝心の「現場」がいま大きく変わろうとしている。競争地図が一変するのは「ゲームチェンジ」が起こるときだが、日本はどうもこのゲームチェンジにめっぽう弱いらしい。新時代の現場感の中でも日本はその緻密な現場力を強みとして発揮し続けることができるのだろうか。
DXとコロナという歴史的変革の渦中で、どうチェンジをチャンスに変え競合先を迎え撃てば良いのか、まさに真剣な議論が必要な時である。
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