私の提言 「大きな背中」
積水化学工業 飯塚 裕保
私がまだ駆け出しの技術屋だった頃に、自分で開発した製品で大クレームを起こしてしまったことがあります。苦労を重ねて開発・上市したのですが、漸く上市したところ直ぐに販売量が増加、日勤帯のラインだけでは生産が追いつかず、毎週夜勤帯に自分で材料を仕込みながら生産を続けていました。
そんな状態が数ヶ月続いて夏場に入り、製品設計に起因するクレームが突然、それも全国各地で同時多発してしまったのでした。設計段階で十分リスクを抽出し評価したつもりでしたが、まだまだ実際の現場での「使われ方」や「さらされる環境条件」の想定に抜け漏れがあったのでしょう。ともあれ事業部全体に波及する大クレームでした。
工事現場が滞り、多大なるご迷惑をお掛けしているお客様はもとより、そのお客様への謝罪と製品差し替えに奔走してくれている全国の営業マン、度重なるリカバー生産の為工程調整や納期対応を一丸となって進めてくれる工場各部署の皆さん、新婚旅行をドタキャンしてまでこの仕事に埋没する私に一言も不平を漏らさない家族、どちらを向いても申し訳なく、このまま消えてしまいたい気持ちでいっぱいでした。が、この時の上司は一切私を責めませんでした。彼が掛けてくれた言葉を、私は一生忘れません。「この弱点を克服できれば、製品がもっと良くなるぞ。」
何て強気な言葉でしょう。それにこの言葉は私には意外でした。当然ですが上司は今回のクレーム全ての責任者として、相当苦しい立場におられたからです。そして何よりこの言葉には「お前に任せるよ、責任は全て俺が取るから。」という、絶対的な信頼感と安心感がありました。お陰で私は気持ちを前向きに切り換え、程なく改良品も上市出来ました。残念ながら彼は去年急逝してしまいましたが、「大きな背中」を見せてくれた大切な方です。
部下が失敗をしたとき、責任を全て飲み込んで彼らを鼓舞し、前向きに動機付けし直す事は簡単ではないと思います。責任感で押し潰される部下や、責任転嫁する部下もいるかもしれません。この時の上司のように振る舞えるか、私はいつも自問しています。問題が起きた時こそ、部下や後輩に安心感を与えられる、「大きな背中」を見せられる存在になりたいものです。
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