5月開催の研究発表会レポート

~講演とパネルディスカッションで品質管理を深堀するシンポジウム~

チュートリアルと研究発表で構成される「研究発表会」。
今回は、5月に開催した「研究発表会 」をご紹介します。

コロナも明けて、研究発表会も以前のように現地開催できるようになりました

▼東京メトロ丸の内線 東高円寺駅を出て・・・

▼青梅街道を新宿方面に歩いていくと・・・

▼日本科学技術連盟 東高円寺ビルに到着します

チュートリアル1 ISO9001の改訂動向及び品質マネジメントシステムの今後の方向性 テクノファ 須田晋介 氏

須田様が感じるISO 9001の動向について、語って頂きました。

テクノファはISOの認証が始まった当初、平林氏が創業し、マネジメント関係の研修・コンサルティングをしています。

[blogcard url=”HOME – 株式会社テクノファ (technofer.co.jp)“]

須田氏はテクノファで25年のキャリアをお持ちです。ISOの改定では、国際会議も含め、多数参加されています。次期改定のエキスパートにも認定されています。

ISO 9001:2015の改定の経緯

ISO9001は直近では2015年に改定されました。ISO企画は5年に1度見直しされるといわれていますが、2020年は広く意見を集めたところ、改定の必要性が薄いとされ、いったんは「確認」という改定しないステータスになりました。

しかしその後、改定の必要性が高まったため、設計仕様書案に沿った適用範囲での改定を開始しています。

改定のワーキンググループが発足し、日本からもメンバーが参加しています。

ちなみにISOも会議を一部Webでも行うようになったそうです。

ISO 9001:2015の改定の主要インプットとQMSの方向性

ISO改定の際は「設計仕様書」作ります。設計仕様書を簡単に説明すると、「何をどこまで改定するか」が書いてある文書です。今回は、規格の目的・タイトル・構成については変更しない方向です。

附属書SL も改定のインプットです。附属書SLはISO9001だけでなく、すべてのマネジメントシステムを対象としています。

附属書SLに気候変動にかかわる要求事項が加わりました。組織は、気候変動に関連する課題であるかどうかを決定しなければなりません。気候変動はサステナビリティ(事業継続)と関係が深い内容です。

ちなみに、ISO9001の改定作業において、変更の必要性について議論が拮抗した場合、以下の3つの観点で採点して検討するそうです。


(1)変更を実現するための努力の必要性が高いか⇒高い場合、利用者の努力が必要なため点数が下がり、改定の必要性が低下します

(2)ユーザへの改善の貢献度⇒高い場合、有益とみなされ改善の必要性が上昇します

(3)設計仕様書に示されているインプットに対応しているか⇒対応していると改善の必要性が上昇します

一定の点数を満たさない場合は検討しません。点数を満たしている場合は検討を継続します。高い点数の場合は変更を受入れる方向に進むそうです。

設計仕様書には、さまざまなインプット項目があります。

こちらも新たなテーマがあります。

顧客体験、循環型経済、新しいテクノロジー(ITやDX・AIなど)、倫理・・・

顧客体験は、従来のような製品・サービス自体の顧客満足だけでは十分ではありません。たとえば、セミナーの受講を例にすると、セミナー自体だけでなく、申し込み方法も考慮しなければなりません。申し込み方法がわかりやすくスムーズに手続きできれば顧客体験としてプラスになります。同様にセミナー終了後の請求書や受講書類の発送なども重要になります。

また、「統合」も重要になるのではないでしょうか。統合は企画同士の統合ではありません。事業プロセスとマネジメントシステムの統合を意味します。

品質不正が発生していますが、コンプライアンスや人間の内面が重要になります。海外も同様であるように感じます。航空・宇宙など各セクターの代表が集まって議論をします。倫理や誠実といった人的資本における内容はあらゆるセクターで重要になっているのではないでしょうか。

このほかにも、最新のQMSの動向などの解説がありました。

チュートリアル データを見る目と使い方の鍛え方 トヨタ自動車 小茂田 岳広氏

小茂田氏は、2年前にクオリティトークにも登壇されています。今回はトークの後、チャレンジされたことを中心にお話いただきました。

小茂田氏は東京工業大学の宮川研究室に在籍中に日本品質管理学会に入会しました。卒業後はトヨタ自動車に入社し、工場の品質管理でキャリアをスタートされました。統計学の知識も活用して業務をされています。現在はデジタル変革推進室も兼務し、大学で学んだ数理最適化を活用し業務の平準化などにも取り組まれています。平準化がうまくいくと、モノづくりの際にバラツキをすくなくすることができます。平準化をする業務は人に依存しているため、平準化業務をする人がベテランと若手で平準化のレベル感が大きく変わるそうです。

▼ご参考 トヨタの数理最適化に関する記事 トヨタのエンジニアが「アルゴリズム」を学ぶ理由

[blogcard url=”https://dentsu-ho.com/articles/8536″]

「問題をどのように設定し、解決手段をどのようにイメージするか」このことを会社で共有して取り組むことが課題であると言います。

大学時代に感じたこと

品質管理に興味を持ったきっかけは伊奈製陶のタイル実験だったと言います。

▼ご参考 伊奈製陶のタイル実験

[blogcard url=”https://www.jstage.jst.go.jp/article/qes/6/1/6_11/_pdf”]

伊奈製陶のタイル実験で注目したことは、普通であれば、タイル焼成のバラツキの原因が窯内の温度差であると考え、温度差を小さくしようとアプローチするはずですが、そうではなく、温度差があっても寸法が変わらないような原材料配合をしてアプローチをした点です。この問題のとらえ方が面白いと感じて品質管理に関心を抱いたそうです。

大学時代の卒論研究を通じて次のことを得ました。

・変数の種類/分布が使う手法に大きく影響を与えること

・モンテカルロシミュレーション。エクセルでもシミュレーション可能で、実験的に分布を求めることができること

大学時代に某社でインターンシップを体験して感じたことは、「データがあるのになぜ現場でグラフ化しないのか?」とのことです。「QC7つ道具で問題の95%を解決できると書籍で学びましたが、なぜ使いこなせていないのか」と思ったそうです。

社会人になって感じたこと

既存の手法が使いこなせていない理由も入社後に考え続けた結果、統計を正しく理解して現実問題と行き来して考えることができる人材が少ないのでは?と思うようになりました。

QC7つ道具については、道具を目的や背景、裏付けとなっている統計学の知識の理解が深まると、より一層使いこなせるようになります。

問題解決は、議論を通じて前向きでよい意味で楽しみながら取り組むことができる環境が重要と感じるようになりました。

いずれも基礎基本に基づいてしっかりやることが大切です。デミング博士も日本人が基本をしっかり取り組むことが高品質につながっていると評価しています。

入社前は大学で学んだ様々な手法を駆使することをイメージしていましたが、入社後は基礎基本に基づいて、周りの人にも基礎基本を理解してもらいながら一緒に取り組みたいと思うようになりました。

基礎基本を理解してもらうには、講義のような一方向の説明でなく、質問を通じて双方向でコミュニケーションできる環境が大切です。

クオリティトークで得たこと

クオリティトークをしたとき、社内で近くに座っている後輩が参加していました。トークをきっかけに社内でも一緒に課題を分析したり議論するようになりました。

問題が起きるたびに、管理図やヒストグラムを書いて分析しますが、その際、仲間が集まって議論しながら分析すると、解決のアイデアをたくさん出せることがわかりました。

仲間集めは難しいですが、外に出て発表すると仲間が集まることがわかりました。

社内で議論できる仲間を集める方法

バックグラウンドがないところから楽しく議論できる人をどのように育てればよいでしょうか?

クオリティトークで参加者から聞いた言葉があります。「推進とは実践指導です」という言葉です。

ということは、データによる問題解決を一緒に取り組めば仲間が増えるのでは?と考えました。

「最近の困りごとはなんでしょうか?」という切り口でほかのメンバーに問いかけました。すると「人による生産性の違い」と答えが返ってきました。グラフ化してみたところ、作業者の性格が色濃くわかるようになり、「データをグラフ化すると性格まで見ることができるのか!」と好評でした。

欲を出して、さらに多様なデータをいろいろな切り口で解析できるようにしましたが、予想に反してあまり使われませんでした。

なぜでしょうか?

最初の「人による生産性の違い」は業務課題に対して、対応する手法が明確だったため、共感・理解してもらえました。一方、「多様なデータをいろいろな切り口で解析できるようにした」は、業務課題と手法のつながりが見えにくい状態でした。

課題とデータのつながりが見通せないと手法が使えないと気づくことができました。したがって、業務課題とデータをつなげる機会を作ることが大事になります。このことを抽象的に説明するとモデル化して考えることが大事になります。手法の背景にある統計モデルをしっかり考えることが必要になります。

そのためには、手法の使い方だけ実践指導するだけでは十分でなく、メンバーに寄り添って、思考プロセスまで実践指導するとよいでしょう。

研究発表会の様子

情報交換会の様子

品質管理学会では様々なテーマでイベント・行事を開催しております。

募集中のイベント・行事は下記からご確認ください。

[blogcard url=”https://jsqc.org/category/event/”]

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