第137回クオリティトークルポ
知っておきたい最新・機能安全の考え方と進め方

 2023年8月25日(金)に第137回クオリティトークがオンラインで開催された。「知っておきたい最新・機能安全の考え方と進め方」をテーマに、筑波大学システム情報系教授の伊藤誠先生に講義をいただいた。
 本トークは、伊藤先生が共編の著作『機能安全の基礎と応用』に沿って解説するとともに、他の例や裏話などさまざまな情報が開陳される大変興味深いものであったが、特に印象深かった、分野による昨日安全に関する考え方の違いやゆらぎについて紹介する。
 書籍で取り上げられている事例の分野である自動車と鉄道、それに追加で例示いただいたドローン(無人航空機)では、何かアクシデントが起こった際にどうするかが全く異なるという。自動車は、「とりあえず止める」が基本とのことである。しかし、鉄道で何かあったとき、単に「とりあえず止める」では、後続の列車は、制動距離は、など、パッとさまざまな問題点が思いつくであろう。また、飛行物体であるドローンを「とりあえず止める」と、墜落するしかないことは自明である。また、自動運転で自動車を「とりあえず止める」(または減速)としても、急ブレーキや回避行動はあおり運転と見なされるかも知れず、開発側は考慮する必要があるだろう。
 このように、機能によって確保される安全には分野間で大きな違いがある。伊藤先生がトークの冒頭で述べられたように、単に担当者だけが安全について考えればよいのではなく、あらゆる技術者が安全とは何かを理解することが重要になりつつあるといえる。また、生活支援ロボットやドローン、自動運転の自動車が代表するように、技術が生活に密着している昨今、工場設備のように「危険をもたらしうる機械は、人間から隔離すればよい」では済まない時代となっているとのことである。講演を通して、開発・製造側だけでなく、販売側、使用側を含めたすべての人が安全について考え直す必要があるのかもしれない、との示唆を得られた、大変有意義な機会であった。

石田 新((株)日科技連出版社)

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