トピックス 工程内ビッグデータを用いたデータ駆動型品質管理
JSQC理事/デンソー 吉野 睦
近年、モノづくりの現場では工程内ビッグデータがIoTを用いてリアルタイムに収集できるようになってきました。今後、品質管理活動もビッグデータを活用した姿へと大きく変貌していくと考えられます。本記事では工程内ビッグデータを用いた品質改善事例を紹介するとともに、学会員の相互研鑽のため、類似の改善事例を共有できる場の創設を提案したいと思います。
弊社のある製品では、バルブの応答性ばらつき大という手直し不良が散発していました。関係する部品加工条件は25因子あり、各因子と不良特性との相関を調べても、相関性の強い因子は発見されませんでした。
また、FTAで抽出される項目は300以上に上り、ひとつひとつ仮説を立て、加工条件を振って実験すると約1500時間要すると想定され、早急な対策の手が打てない懸念がありました。
一方、当該ラインでは22年よりIoTが導入され、既に3万台分のデータが収集済でした。そこで担当者は仮説検証型の改善ではなく、データ駆動型の改善に取り組むことにしました。
データ駆動型の改善は、先入観を持たずにデータを観察することから始めます。まず特性値をヒストグラム化しました。すると、二山分布であることが分かりました。大量のデータでヒストグラムを描くと階級の幅を小さくすることができます。その結果、データに潜む細かな変化を発見することができるのです。
余談ですが、市場で流通しているダイヤモンドのカラット数のデータがあります。Rのggplot2というライブラリにバンドルされている、n数が5万3千のデータです。このデータを階級数20程度でヒストグラム化するとポアソン分布のような山型の分布なります。ところが階級数500でヒストグラム化すると、特定カラット数に分布が集中するという櫛歯状の現象が観察できます。ネックレスなどを量産するために同一サイズのダイヤモンドに需要があり、供給側が数を揃えているのでしょう。ビッグデータを使用すれば、このような細かな変化を見逃すことはありません。今回もこの効果のおかげで発見できました。
次に、全因子のリッジラインプロット(山の尾根が連なったように見えるグラフ)を描いてみました。特性不良が散発する期間は、確かに特性値が二山化していることが確認できました。
まだまだ、データを活用した探求は終わりません。このプロットには、分布の変化傾向を表すワッサースタイン距離のプロットが併記されます。これより、二山化する変化傾向が一致する因子を発見することができました。
ここから、この取り組みは仮説検証型へと変化します。発見した因子の二山化が特性値の二山化につながるメカニズムについてFTAチャートを用いて検討し、中間特性であるローターのクリアランス不足が応答性の変化の原因であることを突き止めました。
ただ、クリアランスの対策には設計変更が必要となります。しかし慢性化を避けるため、設計変更を待つわけにはいきません。そこで担当者は加工条件のみで対策できないか考えました。そして、CAD上でシミュレーションしたところ、ハウジングの組付け位置を一方向に規制すればクリアランスを確保できることを発見しました。
この暫定対策により、数パーセントあった手直し不良を、0.7パーセントまで低減できました。ここまでに要した時間は活動開始からわずか20時間でした。このように、データ駆動型の改善は俊敏に達成できるのが特徴です。理詰めで形式知化する必要があれば、後日、工程が安定してから着手すれば良いと思います。
さて、本件のような事例を多数、さらに詳しく知りたいとは思いませんか。どんなグラフを用いたのか、また、そのときの留意点は何かなど、たとえばヒストグラムの階級数を小さくしたら現象が見えてきた等、具体的な方法論を会員間で共有し、相互研鑽できれば良いと思います。品質管理学会として企画しますので、是非ご参加いただきたいと思います。
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