トピックス 新時代における品質マネジメントシステムモデル(JIS Q 9005:2023)~顧客及び社会への価値提供による経営・事業の持続的成功

東海大学 金子 雅明

 2023年2月に「JIS Q 9005:2023 品質マネジメントシステム―持続的成功の指針」が発行されました。TQMを初めてJIS化した規格であり、2015年の第1版、2014年の第2版を経て、今回で第3版となります。

 製品・サービスを通じて提供した価値に対する顧客及び社会からの評価を“品質”と捉え、次の特徴があります。
・製品・サービスの提供を通じて、顧客及び社会に価値創造を行います。
・製品・サービスを通じて高い価値創造を効果的、効率的に行うために、組織が持つべき能力(組織能力)を実装した品質マネジメントシステムを構築・運営します。つまり、品質マネジメントシステムは価値創造を実現する手段となります。
・顧客、社会が期待する価値、及び価値提供のための合理的な実現手段は取り巻く事業環境によって変わるので、事業環境変化に俊敏に適応するための組織能力をも品質マネジメントシステムに実装します。
・これにより、どのような事業環境にあっても顧客、社会に満足を与え続けることが可能となり、結果として持続的成功を達成します。
 また、今回の改訂ではSDGsの考慮、DXの積極的な活用、品質不祥事の再発防止、人材や働き方に関する多様性への対応、品質部門の役割強化など、社会における近年の重要な動向・変化にも対応できる内容にしました。
 ISO規格との関係でいえば、JIS Q 9005に対応するISO規格にはなく、その意味で、この指針は日本独自のJIS規格です。また、組織の持続的成功という目的に照らせば、ISO 9004:2018と類似していますが、本指針の大きな特徴は価値創造の要である「製品・サービス実現プロセス」の上流から下流に至る各プロセスで実施すべき事項とその運用に関する具体的な指針を提示している点にあります。本指針の該当する箇条を読むことで、価値創造による持続的成功を実現するために当該プロセスが果たすべき機能、運用上の留意点を理解できます。
 JIS Q 9005の構造概要図を示します。QMSの外部環境をインプットとし、組織のQMSを運用し、QMSの目的を達成し期待されるアウトカムを実現するという、インプット→QMS→アウトカムの関係で記述されています。
 「組織のQMS」の構成要素の中で特徴的な点は「QMSの企画・設計」であり、これは価値創造に必要なあるべきQMSを明確化する機能となります。あるべきQMSに基づいて「製品・サービス実現」が行われ、そのために必要となるリソースが「経営資源の運用管理」によってサポートされています。
 また、もうひとつ特徴的な点は「監視・測定・分析が3つのフィードバックループの起点となっている所です。第1のループは、製品・サービスの改善、プロセスの改善のためのフィードバックです。製品・サービスに関しては「製品・サービスの企画」、さらには「QMSの構築・運用」にフィードバックされ、より魅力的な新製品・サービスの開発に活かされます。プロセスに関しては「QMSの構築」にフィードバックされ、プロセスの修正あるいは手順変更につながります。第2のループは、QMSの改善にインプットされた後、内部監査および有効性レビューの結果として、「QMSの構築」及び「QMSの企画・設計」にフィードバックされ、QMSの有効性改善のきっかけとなります。第3のループは、QMSの改善に留まらず、更なる革新が必要となる場合、「QMSの革新」の自己評価および戦略的レビューの結果が「QMSの企画・設計」にフィードバックされ、事業環境変化への対応、組織能力の見直し・発展などを伴うQMS再設計のきっかけとなっています。
 本指針は日本発の、日本企業のための、新時代の要請に応えうる、品質を中核とした経営・事業運営の新たなあり方・スタイルを提唱しているともいえます。解説本も2023年6月に発行されていますので、是非ご参照ください。

図 JIS Q 9005の構造


 

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