私の提言 世界一の技術開発プロセス構築に向けて

(株)リコー 細川哲夫 

 2018年から品質工学会と本学会の共同研究会「商品開発プロセス研究会」がスタートしました。アカデミアが中心の本学会と技術者が中心の品質工学会が融合することによって、日本独自の産学連携の研究組織が実現したのです。このような研究会が実現することは両学会に所属する筆者にとっては数年前までは予想すらできなかったことです。大きな期待感を抱きながら、これは日本の製造業に役立つ新たな価値を提供する大きなチャンスであると考え、本研究会の3つのWGの一つであるWG2「創造性と効率性を両立した技術開発プロセスの研究」の幹事を担当することにいたしました。
 WG2では、創造性と効率性を両立させた最も効果的な技術開発プロセスとして欧米で市民権を得ているDFSS(Design For Six Sigma)をベンチマークし、そこに品質管理や品質工学の考え方や技法を融合させることで、DFSSを超える技術開発プロセスを構築することを目指しています。そして、その成果として技術開発プロセスを設計するプラットフォーム“T7”を提案するという段階に到達し、品質工学会の大会RQES2021Sにてその概要を発表する機会を得ることができました。今後はT7の実践活用を通じて課題を見える化し、よりよいものに仕上げていく予定です。
 WG2の研究活動は欧米から謙虚に学ぶと同時にJapan as No.1と言われていたころの日本の強みを再認識するところにも特長があります。WG2での議論の中で共有化された最近の日本企業の課題についても触れたいと思います。品質工学の活用はR&Dなど製品化プロセスの上流に行くほど効果が大きくなります。ところが、上流段階での品質工学の活用が進まない実態があるのです。上流活用の本質は失敗の加速と失敗からの有益な情報獲得にありますが、これが短期成果主義マネジメントと相性が悪いのです。欧米企業がかつての日本企業から学び、それをDFSSなどの仕組みとして再構築した一方で、日本企業はかつての欧米企業の合理主義経営を導入し、創造性と効率性の両立という意味で周回遅れ状態になってしまったと思うのです。この状態でT7の導入を推進するとT7が短期成果の手段とされてしまい件数管理などの形骸化が懸念されます。それを避けるためにより大きな経営目標を設定し、それを実現する手段としてT7を位置付ける方針管理の再導入が有効ではないかと考えています。皆様のご意見もいただければと思います。   

 

 

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