私の提言「フィジカルAIをきっかけに品質とスピードのバランスの議論を」
名古屋大学 森崎 修司

欧州からの来客で日本の電車が定刻通りに到着することを楽しみにしている人がいます。鉄道会社、運行事業者はいったいどういう工夫をしているのか、自国の鉄道システム、運行事業者は何を学べるかといった点を質問されます。鉄道は私の専門ではないため論文や記事を調べたことがあり、秒単位での発着時刻管理、旅客にも整然と並び、迅速に乗降するよう協力を啓発するという点を知りました。それ以降「トップから現場まで安全を最優先とした上で」と付け加えて、これらを答えています。定刻通りの運行という価値/品質に旅客も協力していると捉えられます。
私の専門分野はソフトウエアの高品質化と開発の効率化を目的とするソフトウエアエンジニアリングです。ソフトウエアが広く浸透し多様になるのに伴い、利用/購入者がソフトウエアの品質にあまり期待していない領域が現れています。そうした領域以外でも「ソフトウエアだから」という理由で品質に対する期待が世界的にも下がっているように感じます。調査結果にもとづくものではありませんが、開発期間の短縮(スピード)を優先することが常態化し、利用/購入者もそれに慣れていっているのが理由の一つではないかと考えます。2018年出版の書籍Blitzscalingでは、ソフトウエア/サービスの戦略としてスピードをそれ以外(品質を含む)よりも優先し、まずは市場シェアを大きくすることを勧めています。スマートフォンアプリはスピード優先のものが多いので、バグや頻繁なバグ修正(アップデート)を「そういうもの」と捉えておられる読者も多いと思います。好ましいかどうかはおいておき、こうした領域では提供者はスピードを品質よりも優先し、利用/購入者も許容していると捉えることができます。
ソフトウエア(AI)の指示で現実世界の物体を動かすフィジカルAIが具体化しつつあります。生産設備のロボットで使われ、運転者不在の自動運転タクシーの運行がここ1、2年で東京の公道でも始まろうとしています。これらは現実世界での安全や財産を脅かす可能性があるので、過度な開発スピード優先を是正し、利用/購買者とともにスピードと品質を適切なバランスにすべき領域です。こうした領域で日本の強みを最大化するために議論すべきときがきています。
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