トピックス AI時代におけるコト価値づくりと品質保証研究会
研究会主査/大阪電気通大学 名誉教授 猪原 正守
1.はじめに
企業におけるものづくりの価値観がモノ価値からコト価値に移行する中で、品質保証の考え方の重点も、提供する製品やサービスのコト価値へと変化しています。そうした環境にあって、モノ価値保証を対象とした品質保証のあり方も変化が求められています。
本研究会は、従来の特定顧客を対象としたマーケットリサーチによる顧客ニーズ調査から縦断的調査やインターネット調査などを活用した顧客の気づいていないコト価値を発掘するための方法論、コト価値に対する品質保証を迅速かつ的確に行うための方法論を中心課題のひとつとして品質管理学会・関西支部役員会の承認を受けて3年前に発足しました。
2.研究会のこれまでと現状
2.1 サンプル選択と欠測値データ問題
顧客ニーズを探るために設定された特定顧客層に対するニーズ調査は、顧客層という母集団に属する個人や組織に対して行われるランダムサンプリング調査でした。しかし、縦断的調査やインターネット調査の場合には調査期間中のサンプル脱落や自己選択などのサンプル選択や欠測データの発生を考慮する必要があります。この問題については、Heckman(1979)、星野崇宏(2009)による因果推論における選択バイアス問題とRubin(1974)による欠測値データに関する著書をベースとして研究を進めています。
2.2 言語データへの生成AIの活用
コト価値創造にとって重要なものは顧客の語ることばであり、言語データです。そして、言語データ解析において重要なのは、私たち一人ひとりの論理的思考能力と情緒的思考能力であると言われます。私たちも膨大なことば情報をいくつかのキーワードで要約する方法、キーワード(単語)間の関連性を把握する方法としてChat GPTに代表される生成AIが有効であることは認識していました。そして、新しいコト価値の創造には、論理的思考と発想・創造的思考の両方が必要であると教える新QC七つ道具の域に迫る方法が生成AIによって構築できる可能性を認識し、テキストマイニング(自然言語処理法)、コーパス分析法、共起ネットワークグラフ、多次元尺度構成法などを道具として、言語データを中心とした各種情報によるコト価値創造に対する生成AIの活用について研究しています。
2.3 品質不正の再発防止
研究会発足と期を同じくして品質不正問題が話題となる中、その発生原因と再発防止策のあり方についても様々な角度から研究を行っています。その一つは不正問題に直面する参加メンバーの声であり、今一つは複数の自動車メーカーが国土交通省に提出した報告書です。前者については公開できない範囲の真実、後者については、生成AIと共起ネットワークグラフや多次元尺度構成法によるデータ解析で、いくつかの面白い発見も報告されています。
2.4 市技情報と品質保証システムの連携
モノ価値に対する品質保証のあり方については、ISOに代表される品質マネジメントシステムを多くの企業が導入、整備されています。しかし、空間的・時間的に変化が激しく、個客により多様化・複雑化するコト価値に対する品質保証を確実にするうえでは、既存のQMSに加えて生成AIにはじまる様々なAI技術を活用したデータドリブンなシステムの構築が必要であるとの認識から、最先端の情報処理技術をベースとした品質保証システムの構築を目指した研究を行っています。
以上、研究会の活動の一部を紹介しました。品質管理学会・関西支部の各位には、是非積極的に研究会への参加をお待ちいたしています。
参考文献
(1)Heckman,J.J.Sample selection bias as a specification,Econometrics,Vol.42,pp.672-694,1979年.
(2)星野崇宏:調査観察データの統計科学、岩波書店、2009年.
(3)Rubin,D.B.:Inference and missing data,Biometrika,Vol.63,pp.581-590,1976年.
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