私の提言 異業種への展開のためさらなる標準化を
国立病院機構名古屋医療センター 医療安全管理部・外科 部長
藤田医科大学大学院医学研究科 病院経営学・管理学
安田 あゆ子
医療において品質管理の導入が求められている。医療安全という表現が用いられているが、提供される医療の質管理、質保証がなされていないことが社会問題となり、医療者による部門設置が2000年代から法律に基づき各医療機関に求められるようになった。当初は患者に起こった負の事象に組織対応するための部署であったが、インシデント報告と呼ばれる不具合事象収集が行われ、抽出された患者の関わる工程に関する課題に対応する役割が大きくなっている。
病気を患い期せずして医療を受けることになった本会所属の読者の皆様は、個々の医療者の温かさに触れるとともに、なぜこのプロセスは標準化されていないのかと疑問に持たれたことがあろうかと思う。日本の病院では、主に欧米の病院から品質管理手法の逆輸入が行われてきた。医療向けに改変され利用しやすくなっている面もあるが、断片的で体系的な理解がしにくい面もある。日本の医療機関は60年ほど前に始まった国民皆保険制度の下で、企業と異なる経営体系を有し、国家資格を持つ専門職が中心の労働集約型サービス業に位置づけられ、組織運営の面では、アメリカの医療機関とも日本の製造業とも様々な相違がある。
筆者は日本の産業界の品質管理を直に学び、教育プログラム実践など試行を繰り返してきた。同じ文化の中で、日本の品質管理から学べることは多いはずだが、様々な手法等が製造業の現場の例示で語られており、それが医療者にとって移入のしにくさとなっていると感じる。製造業においても、生産だけでなく、企画や販売での品質管理はなされている。サプライチェーンすべてで応用が利く、原則や要素、手法の一般化がさらに進み、全国に約8,000存在する病院、約10万ある診療所、その他歯科診療所や介護施設、在宅医療支援施設などに体系的に導入されることを期待する。製品の部品を取り付ける作業と、ある病気を持った患者に正しい注射を実施する作業に共通の品質管理手法が同定され、学びやすい形で供給されれば、医療現場の改善は加速度的に広まっていくと推察する。そのニーズは筆者が協力するアフリカ諸国における病院機能改善事業においても高まっている。そのために本学会の専門家の知恵をお借りできればと思う。
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