第438回事業所見学会
松本記念音楽迎賓館

 2024年9月6日に「閑静な迎賓館で、音に関する品質を考えてみませんか?」と題した見学会が開催され、14名が参加した。東京・世田谷にある同館は音響機器メーカー・パイオニア(株)の創業者、松本望の自邸だった。一部は改装されて音楽ホールとなり、音楽振興のために広く利用されている。新たにホールに備えられたパイプオルガンは館の「顔」(同館ウェブサイト)となっている。居室、庭園、茶室、創業者が新製品のアイデアを練った工作室は往時のままで、製品展示室とあわせて見学した。
 見学会はパイオニアのグループ会社で高性能スピーカーを開発・製造する㈱テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ(TAD)の協力のもと実現した。まず、迎賓館館長とTADから参加のチーフエンジニアの案内により館内と庭園を見て回った。その後、ホールにてチーフエンジニアと本学会の見学会企画者が対談する形でTADにおける音質、ものづくり、ブランドについての解説があった。参加者からも多くの質問や発言が寄せられた。私はこのやり取りを通して、スピーカーの音質評価をめぐる主観と客観の交錯に興味を持った。音質の数値目標はあるものの、主観的に表現する言葉も多々あり、顧客の声も重要であるという。また、開発・製造を匠の業が支えているが、同社スピーカーは工芸品ではなく、工業製品であるとの指摘もあった。信頼性や生産性などの基本をおろそかにしていないことが確認された。
 対談後は「超絶高音質体験」と銘打った試聴機会が設けられた。ホールには子どもの背ほどのスピーカーが搬入されており、適切な位置で聞くと大きなスピーカーの存在が消えるとの説明に、場所を探し求めてうなずく人もいた。締めくくりには同館保有のパイプオルガンやアンティーク楽器の演奏も体験できた。館長が内部機構を指し示し、参加者が交代で鍵盤を押していった。機構の動きも音色も意外なもので歓声があがった。見学会を通して、参加者の一体感が高まったことも印象的だった。
 迎賓館の厚意のもと、チーフエンジニアと学会企画者との綿密な連携、準備により有意義な見学会となった。迎賓館、TAD、行事担当の皆様方に感謝申し上げます。

大原  悟務(同志社大学)

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