第143回(中部支部第60回)講演会ルポ
観察データと実験データ ~製造業の品質管理では今まで通り実験計画法の考え方を大切に~
2021年8月25日(水)、中部支部主催の第143回講演会が開催され、コロナ禍、オンラインで72名が参加した。今回は品質管理学会の副会長でもある早稲田大学 教授の永田靖氏より、「観察データと実験データ」と題して、これまで統計的品質管理が大切にしてきた実験計画法が現在でもモノづくりの現場においてはその重要性には変わりがなく、「変えてはいけないもの」としてわかり易く講演をいただいた。
今日ではデータドリブン統計学やアルゴリズム統計学が注目されており、ビッグデータによるデータ解析や機械学習の各手法を用いれば、検査、分類、異常検知、予測などでは精度の良い分析ができるであろう。Leo BreimanとD.R.CoxのDiscussionにおける、複雑な問題やデータに対してはもっとプラグマティック(実利的)であるべきとの主張は時流ではあるが、ビッグデータがあれば何でもできると喧伝されていることに警鐘を鳴らし、あらためて実験計画法の重要性について考えてもらう良い機会になった。
未然防止、再発防止の観点からメカニズム、因果関係を究明する視点、アプローチは依然重視されるべきであり、観察データと実験データの違いを理解した上で、的確に実験計画法を適用する必要がある。そのために考慮するべきことは、(1)相関関係と因果関係は異なり見せかけの相関、擬似相関に惑わされない、(2)直交表を用いた実験により効果的・効率的な要因効果の推定が可能、(3)ランダムに決めた順序で実験し、一定にできない他の要因の影響を誤差として扱うことが大原則、他変数の影響を回避することが重要、(4)観察データでは説明変数間に相関があるのは自然であるが、擬似相関があると要因分析が困難なのはビッグデータ解析や機械学習の各手法は観察データを用いた回帰分析と同様の手法だからである。一方、実験データでは意図的に要因配置実験や直交表による実験により説明変数間の相関をゼロにすることが可能なことなどをわかり易い事例を交えて説明していただき、実験計画法の有用性、重要性の理解、再認識につながる大変有意義な講演であった。
深谷 公宣(トヨタ車体(株))
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