トピックス「TQSの改革について」

品質誌あり方検討WG主査 伊藤 誠

 すでに様々な機会にご案内を差し上げていますが、本会が運営する英文論文誌 Total Quality Science(TQS)の改革を進めています。学会を支える人材の供給源として、大学や研究機関が重要な役割を担っています。厳しい社会状況のなか、大学・研究機関が生き残っていくためには、また、その中で研究者として生き残っていくためには、国際的な競争を勝ち抜く必要があります。学会が提供する論文誌も、当然国際的に価値を認められるものへと変わっていかなければなりません。
 そこで、TQSの国際化、オープン化を目指し、活動を進めてきました。従来のTQSは、英文、かつJ-Stageでのオープンアクセスをすでに実現していますが、投稿できる資格を有しているのはJSQCの会員のみとなっていて、その意味でのオープン化ができていませんでした。今回、国内の非会員にも投稿を認めるだけでなく、全世界からの投稿を受け付けるようにルールやシステムの改革を進めています。この改革に伴う調整が想定よりも多く、当初予定していたスケジュールより遅れ気味となっています。遅れが発生していることについては大変申し訳なく思っているところですが、重要な課題が残っているため慎重に作業を進めたいと考えています。とくに、EUのGeneral Data Protection Regulation(GDPR)をはじめとして、世界各国で個人情報保護に関するルールが厳しくなってきていることから、世界で通用する個人情報保護の体制を整備することも合わせて進めています。
 論文誌の国際化という意味では、形を整えるだけでなく、実質的に、世界中の研究者が「この論文誌に投稿したい」と思えるような場にしていくことが重要です。このためには、海外の研究者に広報活動をしていくのはもちろんですがほかにも考えるべきことはあります。その一つは、論文誌が扱う主たる分野です。この論文誌では、日本が大事にしてきているTQM(Total Quality Management)に焦点を当てた編集をしていけたらと思っています。「TQMを議論するならTQSだ」と世界中の品質管理の研究者に認識してもらえるような論文を集めていくことが重要です。そのようにトピックを絞りすぎるのはよくないという考え方ももちろんあります。このあたりのことについては継続的な議論が必要ですが、たとえ見かけ上投稿数が少なくても「ここにしかない」価値が認められれば、存在感を示すことは可能です。こうした意味での存在感を示していけるようにするためには、日本が誇るTQMの王道に関する研究成果をぜひ積極的に本誌へ投稿いただきたいと思いますので、どうぞご協力よろしくお願いします。もちろん、論文誌としての価値を維持するためには採択率も妥協はしないようにと考えてもいます。
 論文誌の国際化は、投稿者の国際化だけでなく、編集体制も国際化しなければなりません。国際的に著名な研究者に編集にかかわっていただくべく協力の依頼をし、多くの先生方から了解が得られています。
 他方、TQSの改革に合わせて、論文で使われているデータを「出版」できる仕組みも導入することを検討しています。これは、JSTが提供しているサービス、J-Stage DATAを活用するものです。J-Stage DATAでは、J-Stageに掲載された文献について、著者が希望すれば、データにDOIを付し、当該論文と相互にリンクされた形で公表することができます。これを利用することによって、論文の主張の根拠をより明確に示すことができるようになりますし、他の研究でそのデータを再利用できるようになり、さらなる研究の発展につながるなどが期待されます。J-Stage DATAで公表されたデータのある論文はプレゼンスが高まる傾向があるようです。
 新しいTQSに生まれ変わるまでにもうしばらくの時間が必要となりますが、準備ができ次第アナウンスをさせていただきます。その際は、ぜひTQSへの活発なご投稿をお願いできれば幸いです。

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