トピックス「安全功労者内閣総理大臣表彰受賞と本学会における活動について」

中央大学名誉教授 宮村 鐵夫

  受賞に際し、製品安全に焦点を当てながら安全確保一般について、本学会における活動成果も取り入れながら、小論を記したい。

 1.受賞理由と本学会での活動成果
 今回の産業安全関係〔個人〕部門での受賞は、下記事由による。
 平成14年から平成27年までの長期にわたり、消費経済審議会製品安全部会長及び産業構造審議会製品安全小委員会の委員長として、石油温風暖房機による一酸化炭素中毒事故の再発防止や、現行の製品安全行政の基礎となる、重大製品事故の報告・公表制度や経年劣化による重大事故のおそれが高い9品目を対象とした点検を義務づける制度である長期使用製品安全点検制度の創設に貢献した。
 また、国民や企業に向けて、経済産業省等が開催するシンポジウムにおいて基調講演を行うなど、製品の安全の重要性について講演や業界誌への寄稿による積極的な周知活動に努めた。
 消費生活用製品の安全を確保する法整備へのコミットメントでは、恩師である真壁先生との共同研究により「品質」誌に発表した2件の論文とともに、主査を務めさせていただいた1991年 10月 ~ 1993年9月の本学会「PL研究会」の活動による知見も大きい。この活動成果は、1994年に日本規格協会から「(社)日本品質管理学会PL研究会編『品質保証と製品安全』」の単行本で上梓され、製品安全分野の文献として活用されている。

 2.ハザードの概念とリスクコミュニケーション
 安全さらに安心確保では、リスクコミュニケーションが重要であり、これには、HIRA(Hazar Identification & Risk Assessment)の方法論が基盤となる。ハザードは、リスクの源であり、根絶が望ましい。しかし、設備の回転部分など根絶は技術的あるいは経済的な理由で難しい場合も多く、防護などリスク低減のアプローチが現実的となる。

 3.ハインリッヒの法則に基づくProactive approachと2つのレポートシステム
 安全を確保する原理・原則は、ハインリッヒの法則「1(事故発現):29(事故に至る予兆):300(予兆の前に、日常の活動でちょっとした異変)」である。この法則に基づくProactive approach活性化には、2つのレポートシステム、
 ・想定した状態からの乖離を報告し専門家の支援を活用するシステム
 ・原因調査・分析により解決し、体系化・知識化するシステム
が十分機能するかが要点である。
 兆候の情報を関連部門で共有・俎上に上げてマネジメントサイクルを回す。

 4.製品事故情報のプラットフォーム
 2007年5月14日には事故情報の報告・公表制度を新たに設ける消費生活用製品安全法改正が施行されている。死亡など重大な製品事故が発生した場合、製造事業者や輸入業者は、国に製品名、被害状況など事故報告を義務づけ、情報を的確に把握する狙いである。国は、事故情報を収集・分析し、その結果を広く国民に公表して、第二の重大事故を防止する。
 製造事業者等へ、Reactive approachに加え、「予兆の前に、ちょっとした異変」の情報を収集し価値化するProactive approachを促す。

 5.兆候発見へSHELLモデルの活用
 SHELLモデル(Software、Hardware、Environment、Liveware)がProactive approachには有用である。
 消費生活用製品安全法は、Hの製品に着目し、リスクが許容できないとの立法事実に基づき特定品目に政令で指定、安全基準を満たさなければ販売できない規制構成になっている。2009年4月4日施行の法改正では、
 ・経年劣化対策の強化
 ・製造・輸入事業者の義務
などの見直しが行われている。

 6.組織における安全文化の醸成
 安全文化醸成には、様々な考え方があり多様である。一つの考え方として、
 ・トップのリーダシップ
 ・コミュニケーション
 ・組織学習
があり、経営トップの実態を踏まえた継続的コミットメントが必須である。

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