私の提言 「縁の下の力持ちへの支援」
東北大学 永松 陽明
昨年の夏に開催された東京オリンピック・パラリンピックは、日本人選手の活躍によるメダルラッシュとなり、盛況のうちに閉幕したことは記憶に新しい。海外選手の活躍では、パラにおいて、マルクス・レーム選手が陸上男子走り幅跳びの「片足の膝から下が義足」クラスで、オリンピックの男子走り幅跳びの優勝記録を21cm上回る記録で3連覇を達成した。このようなスポーツ用義足を用いるパラリンピックの競技は、他にも陸上100mや走り高跳びなどがあり、海外選手や日本人選手が活躍し好記録を出し続けている。その躍進を支える要因の一つとして、スポーツ用義足の進歩がある。また、陸上やマラソン、テニス用の車椅子を開発する企業の取り組みも報道で数多くなされている。
私がかかわる日本財団パラスポーツサポートセンターパラリンピック研究会では2018年から2019年にかけて、パラスポーツの用具開発についての実態調査を実施した。回答企業・組織から、パラスポーツへの取り組みには一般製品への波及効果があるとのコメントを多く得た。具体的には、パラスポーツの技術開発を通じた「先端的な素材の取扱」、「新構造の検討」、「用具の精緻な調整」などの試行錯誤による獲得知識が、一般製品に応用・転用され、一般の消費者にメリットをもたらしていた。また、パラスポーツへの取り組みは海外での知名度向上などで効果があり、採用面でも就職を希望する人が増えたとコメントもあり、様々な効果を確認できた。
一方で、「公的支援が既存メーカーに十分行き渡っていない」「多くの支援・取り組みは選手個人に照準を合わせたもので、競技団体などの人材育成・技術開発の計画は十分でない」といった指摘もあった。確かに東京パラへの支援は急速に膨らんだが、多くは人目に触れやすい部分に短期集中している面がある。
選手の活躍を支える「縁の下の力持ち」への支援はもっと手厚くすべきである。エンジニアたちは多くの時間や技術をつぎ込み選手をサポートしているが、大きな収益を得ていない。
こうした基盤となる分野への投資が停滞する傾向は、多くの業種で見受けられる。研究においても時間がかかる基礎研究に対して似たような状況にあると聞く。どの分野、企業においても今一度の「縁の下の力持ち」の貢献評価が必要ではないだろうか。
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