私の提言 顧客価値経営のすすめ

東海大学 金子 雅明

 顧客価値経営が重要であることは周知の事実であるが、品質管理を専門にする本学会員にとりわけ強くお勧めしたい。


 ご存知の通り、“品質”とは組織が提供した製品・サービスに対する顧客の評価である。評価が高ければ品質が良く、評価が低ければ品質が悪いというように、顧客のニーズを基準にして判断される。そして“管理”の目的とは、質の良い製品・サービスを効率的、継続的に提供することであり、そのための達成手段として業務のやり方、仕組み、マネジメントシステムの構築・推進に焦点を当てる。これが、品質管理の基本アプローチである。


 一方で、顧客価値とは顧客が製品・サービスを使用・消費することによって得られる効用や便益のことである。得られる効用や便益の質と量の両面において、対価と比べて顧客にとって意味があり、十分に役立っていると感じ、結果として満足しているのであれば、それは顧客に何らかの価値、すなわち顧客価値があると認められ、製品・サービスの提供を通じた顧客価値提供が行われた、と解釈できる。そして、この顧客価値提供活動を経営の中核に据えるのが、顧客価値経営である。

 このように理解すれば、我々学会員が従来「品質」と考えていたことは、世の中で重要視されている「顧客価値」と類似していることに気づく。むしろ、品質とは製品・サービス提供を通じて顧客に提供される価値、すなわち顧客価値に対する顧客の評価であると、意図的に拡大解釈をすれば、まさに品質管理は顧客価値経営そのものとなりえる。つまり、品質管理に長年取り組まれてきた本学会員は、顧客価値経営について一歩も二歩も他よりも先んじており、これを実践する素地や基盤が十分に備わっていると思われる。筆者が本学会員に顧客価値経営をお勧めする一番の理由はここにある。


 「JIS Q 9005:2014 品質マネジメントシステム-持続的成功の指針」をご存じだろうか。2018年に発行されたJIS Q 9004と名称や思想は似ているが、これよりも4年も前に発行された日本発TQM規格であり、事業・経営の持続的な成功基盤は顧客価値提供にあると説き、顧客価値提供マネジメントシステムをいかに構築し、運用すべきかの手順を提示している。素地や基盤も既にあり、参照できる指針も揃っている。さあ、今から顧客価値経営を始めよう!

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