私の提言 「日本の安全活動から学ぶ」
住友電気工業(株) 杉谷 浩成
日本のものづくりにおける安全活動と品質活動は、それぞれ異なる目的、アプローチ、評価指標、組織内の役割を持っていますが、どちらも企業の持続可能な成長に欠かせない要素です。安全活動は主に人を対象としており、品質活動は製品やサービスに焦点を当てるという大きな違いがありますが、多くの工場が「安全第一」の理念を掲げているように、安全活動は歴史的に先行しています。日本の安全活動を分析し、そこから得た考え方や効果的な取り組みを品質活動に展開できれば、不良品の低減やロスの削減につながる可能性があります。
戦後、日本の労働環境は未整備で、労働災害が頻発していました。1947年に制定された労働基準法は、労働者の健康と安全を法的に保障し、労働災害の抑制に寄与しました。1952年には労働災害防止法が制定され、事業者に安全管理体制の構築が義務づけられました。1972年には労働安全衛生法が制定され、安全衛生管理者の選任や定期健康診断の実施が義務化され、労働環境の改善が進みました。1990年代以降、リスクアセスメントやヒヤリ・ハット活動が導入され、危険源の早期発見と事故の未然防止が進展しています。現在では、安全文化の浸透や企業の社会的責任への意識が高まり、多くの企業が自主的に安全管理を強化し、労働者の健康を守る取り組みを行っています。その結果、労働災害による死傷者数は大幅に減少しています。
国主導の労働災害防止活動は、日本の製造業の品質活動に気づきをもたらしています。厚生労働省は労働者の安全と健康を保護する法律を管理し、問題をトップダウンで監督しています。また、労働安全衛生法では、業種や企業規模に応じた安全衛生委員会の設置が義務づけられており、休業4日以上の労働災害が発生した場合には報告が求められています。労働災害に関するデータの分類、集計、及び過去の事例共有の仕組みも整備されています。
国は数年ごとに労働災害防止の中期計画を策定し、重点的に取り組むべき事項を設定し、活動の方向性を示しています。「挟まれ、巻きこまれ」など、事故の「型」別に管理を行い、災害原因の分析や必要な対策を適時講じています。さらに、安全衛生水準の向上や職場の危険要因の減少を目指して、労働安全衛生マネジメントシステムの導入も促進されています。近年では、再発防止にとどまらず、未然防止に重点を置いた活動へと移行しています。
これらの要素を自社の品質活動に照らし合わせ、異なる点やギャップの分析によって有効な取り組みが見えてくるかもしれません。日本の安全活動と品質活動を融合させる新たな視点が、持続可能な企業経営に寄与すると考えています。
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