第50年度研究奨励賞(2021年11月13日)

高次元の工程管理における管理特性間の相関を考慮したサンプリング戦略

  小茂田 岳広 氏(東京工業大学 工学院 経営工学系 (現)トヨタ自動車(株))

 著者:小茂田 岳広

 「品質」Vol.51, No.2  pp.53-61(2021)

[選考理由]
 統計的プロセス管理を行う目的で測定可能な特性が多く存在する場合に、特性の一部を選択して測定する研究にTRAS(Top-r based Adaptive Sampling)法がある。この方法は毎時点、m個の特性の中からq個を選択して、それらを観測し、すべての特性の累積和統計量を更新する。観測された特性の統計量は正規分布に基づく累積和統計量の式を用いて更新し、観測していない特性については、予め定めた定数を用いて更新する。毎時点の変化の検出には観測しているq個の特性の累積和統計量の総和を用いて判定し、変化が検出されない場合は次の時点の観測のために、すべての特性から累積和統計量が最大のq個の特性を選択し直す。これを毎時点繰り返すことで、TRAS法は変化検出のARLの短縮を実現している。
 本論文では、特性ごとに変化検出のための累積和統計量と特性選択の累積和統計量を持たせることと、観測されていない特性の累積和統計量の更新に特性間の相関係数と観測されている特性の累積和統計量の積和も用いること、の2つの工夫を加えて、TRAS法の更なる変化検出の性能の向上を図っている。
 測定可能な特性が多く存在するプロセスを統計的に管理するための管理図として提案された手法は有望であること、また、提案された改良は簡便なもので、産業界においても直ちに実用可能であることから、品質管理分野にとって有用な研究と評価される。
 一方で、特性間における相関関係の把握の良し悪しに大きく依存する提案手法であるため,変数間の相関を既知としている点をどのように解消していくかについて著者の今後の研究の進展に期待したい。
 以上の理由により、本論文著者は研究奨励賞にふさわしいと判断した。

第49年度研究奨励賞(2020年11月28日)

『重み付き条件付き操作変数推定量の性質と工程解析への応用』

  神 田  博 氏(横浜国立大学 大学院 理工学府 数物・電子情報系理工学専攻)

 著者:神田  博/黒木  学

 「品質」Vol.50, No.2 pp.48-58(2020)

[選考理由]
 本論文は,工程における因果関係が線形構造方程式モデルで記述できる状況において,条件付き操作変数の要件を満たす変数が複数ある場合を想定し,総合効果の推定精度の向上をはかるために,重み付き条件付き操作変数推定量を提案している.提案するだけでなく,二段階最小二乗推定量と一致することや,いくつかの性質を明らかにしている.また,オリジナルの事例ではないが,自動車のボディ塗装工程において,工程条件を設定するために採取された実データを用いて適用例も示している.
 品質管理分野において,因果分析は昔から現在に至るまで非常に重要な研究テーマである.本論文では,提案した推定量の漸近的な性質を調査し,バックドア基準との比較も行うことで,理論的にしっかりと評価しており,完成度の高い論文である.また,個々の統計的品質管理の問題に応じて,重み付き推定という考え方を用いていることにより,応用上の汎用性が高く,実務家に対して有用な知見を提供できていることも評価に値する.以上の理由より,本論文は学術上特に優秀な論文であると判断できる.

第48年度研究奨励賞

『2値入出力系で計量値を観測する場合の系間の性能比較に関する有意差検定』
  小茂田 岳広 氏(東京工業大学 工学院経営工学系)


[選考理由]
 田口玄一はさまざまなケースに対応してさまざまなSN比を提案したが,それらの統計的検定方法は示さなかった.SN比の検定方法については他者による研究も少なく,これは,本研究が対象とした「化学成分の抽出工程のためのSN比」についても同様である.
 化学成分の抽出は,2値出力系で出力が計量値の場合に相当し,本研究では抽出率がベータ分布にしたがうと仮定したもとでの検定方法を確立している.
 提案した検定方法は,繰り返し数が少ない場合には多少危険率が大きくなってしまうが,SN比が正規分布にしたがうと仮定した「平均値の差の検定」よりも検出率が高いことが示されている.
 欲を言えば,「成分の抽出率がベータ分布にしたがうと仮定できる」とする根拠の記述をもう少し記述してほしかった.このため,理論面での脆弱性が一部で懸念されるが,数値シミュレーションによる有用性の提示がこれを補っている.
 新規性,有用性の面で,本研究は研究奨励賞に十分に価すると考える.