第54年度 品質技術賞(2025年11月15日)

1. 杉 谷 浩 成 氏(住友電気工業株式会社)

『日本のものづくりと品質管理の発展に向けた実践的アプローチ』

 著者:杉谷 浩成
 「品質」Vol.55、No.2 pp.36-43(2025)

〔選考理由〕
 本稿は、著者が約30年間にわたり日本の製造業と品質管理の現場で培った豊富な経験を基盤に、日本のものづくりと品質管理の発展に向けた実践的アプローチを提示している。特に、(1)「安心できるサプライヤーモデル」では、法令順守や品質マネジメント、改善提案力など信頼性評価の要素を体系化し、供給先選定・監査の実務に有用な枠組みを提示している。(2)「技術者倫理教育」では、頻発する品質不祥事の未然防止を目的に、倫理的ジレンマや心理的安全性に着目し、個人知を組織知へ形式知化する仕組みを構築した点が特徴的である。さらに、日本科学技術連盟と協力して倫理研修プログラムを立ち上げ、倫理問題を分類・整理し、創作事例を用いた議論を通じて教育に活かしている。(3)「不知・知・使・改・導」教育訓練モデルでは、教育訓練の段階的成長を可視化し、適切な指導と実践の場を結びつけることで教育効果を高める仕組みを示している。
 これら3つのモデルを軸に、品質管理の基盤として「材料(サプライヤー)」と「人・方法(技術者倫理)」を重視し、暗黙知のまま継承されがちな知見を形式知化している点は、学術的にも実務的にも意義深い。また、本稿は第53年度品質管理推進功労賞の成果として執筆されたものであり、産業界の実務者にとって具体的かつわかりやすい内容となっている。
 以上のことから、第54年度の品質誌に掲載された記事・論文の中において、本稿は実務者への貢献も大きく、優秀であることから、品質技術賞を授与する。

2. 永 井 庸 次 氏(株式会社日立製作所) 
  光 藤 義 郎 氏(一般財団法人日本科学技術連盟)

『MIBM(まぁ、いいか防止メソッド)のその後』

著者:永井 庸次/光藤 義郎/中條 武志
「品質」Vol.55、No.3 pp.30-38(2025)

〔選考理由〕
 本稿は、事故やインシデントの要因となる「意図的な不遵守(まあ、いいか行動)」の防止を目的に、著者が10年以上にわたり研究・実践を重ねてきた「MIBM(まあ、いいか防止メソッド)」の成果を報告している。MIBMは、(1)アンケート調査による職場の取組実態の把握、(2)調査データ分析による弱点の可視化、(3)改善方策の導出という3段階から成り立ち、不遵守の発生メカニズムや心理的要因、組織文化との関係をモデル化し、改善可能な課題として提示している。特に医療現場を中心にアラーム対応やバーコード認証などの具体事例を通じて検証が進められ、安全文化の醸成や標準遵守の持続的推進に寄与してきた。また、活動の継続を通じて、教育や規則強化だけでは不十分であり、組織文化(風土・体質)の醸成が最大の課題であることが明らかにされている。さらに、現場の忙しさやリソース不足といった背景にも言及し、経営層を含めた全体的な取り組みの必要性を示唆している。
 本稿は不遵守を多角的に解説し、心理的要因や組織的課題にまで踏み込む点で独創性が高く、医療のみならず製造業など他分野にも応用可能である。全体として、実務的で理解しやすく、品質管理の「人」の側面に科学的アプローチを導入した優れた研究であり、品質管理の発展に大きく貢献する内容となっている。
 以上のことから、第54年度の品質誌に掲載された記事・論文の中において、本稿は実務者への貢献も大きく、優秀であることから、品質技術賞を授与する。

第53年度 品質技術賞(2024年11月9日)

品質を核に人材育成を促進する仕組みの深化

  村 川 賢 司 氏 (村川技術士事務所)

著者:村川 賢司

「品質」Vol.54、No.3 pp.12 -18(2024)

[選考理由]
 本稿は、品質を核に人材育成を促進する、推進組織(人材育成委員会)、教育体系の構築・深化、育成すべき能力の明確化、人材育成計画の策定、品質管理教育の実際(実践教育、小集団改善活動、OJTなど)、個人の能力評価、経営者の役割などについて、企業での実践経験に基づいて、組織的に人材育成のPDCAサイクルを回す仕組みとして論じている。そして品質を核とした人材育成の仕掛けとしての実践力の必要性を説かれており、実践に際して、兎角OJTと言えば、我流になりがちな部分にも仕組みを入れた研修プログラムの必要性を述べられている。さらに、それをサポートするための組織的推進と経営層の役割について提言され、人材育成とは単なる教育ではなく、企業活動そのもので、トータルで行うべきものであることが理解できる内容となっている。
 これらのことから、本稿は、組織の持続的発展を図るために必要不可欠な内容であり、実務で取り組んできた叡智が体系的に構築され、高く評価できる。また活動において、手順が明確で、企業内教育の仕組みづくりを中心に教育の目的や意味など、丁寧にわかりやすく記述されており、ねらいややるべきことが多くの人に理解しやすく、組織の人材育成を検討する際の参考になり、実務に大いに役立つと考える。
 以上のことから、第53年度の品質誌に掲載された記事・論文の中において、本稿は実務者への貢献も大きく、優秀であることから、品質技術賞を授与する。

第52年度 品質技術賞(2023年11月11日)

『DN7 によるデータ駆動型品質管理とアジャイル改善』

  吉野 睦 氏 (株式会社デンソー)

著者:吉 野  睦

「品質」Vol.53、No.3 pp.6 -11(2023)

[選考理由]
 本稿では、著者が提案し株式会社デンソーが公開した工程データの分析用ソフトウェアDigital Native Quality Control 7 Tools(DN7)の開発の背景とDN7に込められたアジャイル改善のための工夫が解説され、DN7を活用したデータ駆動型品質管理による問題解決事例が紹介されている。
 問題が統計的に顕在化する以前に、刻々と生じるデータを観察し、問題がまだ芽のうちの素早く摘み取るアジャイルな改善活動がデータ駆動型の品質管理であると、著者は述べている。そしてDN7は、PDCAサイクルではなく観察・方向づけ・意思決定・行動のOODAループによって問題の発見と絞り込みを行うためのビッグデータの可視化・分析ツールという位置付けである。所在が確定した問題は、PDCAで解決すべきとしている。ソフトウェアは既に学会のホームページ等を通じて公開されており、製造現場でIoT化に日々取り組み、問題解決をさらに機動的にしたい、そのためにビッグデータやIoTを活用したいと考えている実務技術者には大変参考になる。
 以上のことから、第52年度の品質誌に掲載された記事・論文の中において、本稿は実務者への貢献も大きく、優秀であることから、品質技術賞を授与する。

第51年度 品質技術賞(2022年11月12日)

1.『若手品質管理屋の目
  ~品質管理の現場事例レポートとこれからの品質管理~』

  小茂田 岳広 氏 (トヨタ自動車株式会社)

著者:小茂田 岳広

「品質」Vol.52,No.3 pp.18-22(2022)

[選考理由]
 本稿では、品質管理の今後の発展のために、若い品質管理技術者の視点から、いま改めて「基本の大切さ」について論じている。
 品質管理の実務を行っている現場で、「やってはいるのだが、いつのまにか、表面的で、形骸化して、大した成果もなく、重い作業だけが残っている」となっているところでは、「基本」・「目的」が置き忘れられていることが大きな原因であることをよく見かける。
 著者は、「基本の大切さ」について、学生時代のSQCの研究で叩き込まれたことが、SQCの関わる実務に就いてもまったく通じることを痛感し、SQCのイメージを、報告や資料作りといったイメージから、身近で日常的に考え続けるものであり、そこに熱い思いを持った人たちがその思いを伝搬させていくものへ変革していく必要があり、さらにこれをSQC以外の他のフィールドの方とも議論を重ね、品質管理の発展へつなげようと、課題提起して発信した姿勢が高く評価される。
 以上のことから、第51年度の品質誌に掲載された記事・論文の中において、本稿は実務者への貢献も大きく、優秀であることから、品質技術賞を授与する。

2.『中小企業のための新製品開発失敗原因分析手順の提案
  ― 一つの事例を基に失敗原因を系統的に抽出する方法 ―

  岡 田  俊 氏 (株式会社LDD)

著者:岡田 俊/中條 武志

「品質」Vol.52,No.3 pp.82-90(2022)

[選考理由]
 本稿では、中小企業の新製品開発が失敗する原因を分析する手法を提案している。新製品開発は、組織の持続的成功のための中核プロセスであり、中小企業においては新製品開発の失敗は事業経営の命運を左右しかねない。
 しかし、新製品開発が失敗した場合の分析おいては、開発事例が少ない、品質管理の手法が浸透していない、失敗原因分析手法が使いこなせない、などの課題を抱えている。「特性要因図」や「なぜなぜ分析」は、多く使われてはいるが、自由度が高く多く、因果関係がよく理解されないと収捨が付かなくなる。 本稿の著者は、中小企業の一つの開発事例を深く掘り下げる手法を提案している。すなわち、(1)ありたい姿を描いたベンチマークフロー、 (2)自社でこれまで使用されてきた通常フロー、(3)今回失敗した実施フローの3つのフローのプロセスのギャップとその原因を整理して、新製品開発の失敗原因を抽出する斬新な方法を提案しており、今後の中小企業での活用が期待される。
 以上のことから、第51年度の品質誌に掲載された記事・論文の中において、本稿は実務者への貢献も大きく、優秀であることから、品質技術賞を授与する。

第50年度 品質技術賞(2021年11月13日)

DXがもたらす産業構造の変化と、周回遅れの日本が取り組むべき課題

  浅羽 登志也 氏 (株式会社IIJイノベーションインスティテュート)

著者:浅羽 登志也

「品質」Vol.50 , No.4  pp.6-11(2020)

[選考理由]
 本稿では、ディジタルトランスフォーメーション(DX)が産業構造にもたらす大きな変化と、そのような潮流の中で日本の企業が取り組むべき課題を論じている。
 現代社会に生きる私たちは、ディジタル化が進む中で社会に起こっている変革を分かった気になっている。
 しかし、実はその本質を真に正しく理解できてはいないことが多い。だからこそ、日本は「周回遅れ」になってしまっている。
 本稿の著者は、インターネットがもたらした変革の歴史を通して、DXの本質、すなわち、サイバーファーストの発想で業務のプロセスを組み直し直し、これまでには不可能であった新たな価値を創造することを指摘している。また、DXを推進するにあたり、変化を乗り越えるための両利きの経営、それを支える組織変革の在り方を論じている。DXを進めていく企業の経営者、技術者が参考とすべき視点、事例が多く示されており、高い有用性が認められる。
 以上のことから、本論文は50年度に品質誌に掲載された論文等の中でも優秀であり、実務者への貢献も大きいことから、品質技術賞を授与する。

第49年度 品質技術賞

『非直交実験の実務への適用』

  松 本 哲 夫 氏(ユニチカ株式会社)

著者:松本 哲夫/芦髙 勇気

「品質」Vol.49, No.4 pp.63-70(2019)

[選考理由]
 本論文では、非直交計画を採用しても実験効率や検出力の意味で実務上大きな問題はないようにしうることを、数値的な検討を通じて示している。一般に、直交表を用いる場合、取り扱う因子の数が増えるにしたがって、実験回数が多くなってしまう。直交表の利用は、本来、要因配置実験に比べて実験数を減らせるものであるが、実務上はさらに実験数を減らしたいというニーズがある。
 本論文は、そのニーズに対して、一部追加法・一部拡大法、意図的省略法を適用した場合の実験効率をいくつかの場合について求め、さらにそれらの手法の検出力を評価したものである。本論文の成果は、交互作用がある場合でも同様の結果が得られると期待される。今後、本分析の理論的裏付けが充実すれば、実務家に広く推奨すべき方法論として確立していくことも期待される。
 以上のことから、本論文は49年度に品質誌に掲載された論文等の中でも学術的に優秀であり、実務者への貢献も大きいことから、品質技術賞を授与する。

第48年度 品質技術賞

『カンファレンス行列と2水準ノイズを用いた直交計画によるパラメータ設計』
   森  輝 雄 氏(森技術士事務所)
著者:森 輝雄/貞松 伊鶴/松浦 峻/田中 研太郎
「品質」Vol.49, No.3 pp.66-78(2019)

[選考理由]
 本研究では、3水準のカンファレンス行列をもとに、制御因子とノイズ因子の応答モデルを想定した、パラメータ設計のための実験計画を構成している。また、一般化逆行列を用いた重回帰分析によって得られる各効果の最良線形不偏推定量を用いたパラメータ設計の方法を提案している.その方法を、金属溶融成型機、半導体BGAといった事例に適用し、従来の方法に比べてばらつきの低減と実験回数の低減を同時に達成できうることを示している。
 これは、今日の企業、とくに、開発リードタイムが早まり、また投下できるリソースが大きく制限されている企業にとって有用な手法であると考えられる。今後、繰り返し実験が困難な自動車などの輸送機械、金属加工機械の設備研究などへの適用事例を増やし、その効果が検証されることが期待される。
 以上のことから、本論文は48年度に品質誌に掲載された論文等の中でも学術的に優秀であり、実務者への貢献も大きいことから,品質技術賞を授与する。