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■一般社団法人日本品質管理学会からの緊急メッセージ

   
 報道によれば,ISO9001(Quality Management System)認証組織による意図的な品質関連データの改ざんが行われた。このことは,企業倫理にもとることは勿論,我が国産業競争力の重要な源泉である産業界の着実な品質管理活動まで,その信用を失墜させかねない行為であり,一般社団法人日本品質管理学会は,理事会の総意に基づき,強い抗議の意を表明する。

平成28年5月2日 一般社団法人 日本品質管理学会


■医療事故調査制度に関する声明

2014年7月25日
一般社団法人日本品質管理学会 会長 中條 武志
医療経営の総合的「質」研究会 主査 永井 庸次
副査 飯田 修平

 第186回通常国会で「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が成立(2014年6月18日)し、医療法の改正を含めて、2015年10月1日から医療事故調査制度が新たな枠組みで開始されることになった。本法律は19の法律の改正を伴う一括法であり、十分な審議が尽くされたとは言い切れず、参議院厚生労働委員会でも付帯決議がなされた。また、第三者医療事故調査機関の設置が組み込まれており、その運用に関するガイドラインを厚生労働科学研究「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」(西澤班)が検討している。
 一般社団法人日本品質管理学会は、品質管理を専門領域とする学術団体である。また、医療経営の総合的「質」研究会は、学会内に設置された、理事会直轄の計画研究会であり、医療の総合的質管理(TQM:Total Quality Management)に関する新たな方法論の開発や実践について検討を行っている。メンバーは、病院の経営者、医療従事者よび安全管理室・質保証室担当者、企業の経営者および品質保証責任者、大学の品質管理研究者等である。
 日本品質管理学会および医療経営の総合的「質」研究会は、医療への品質管理の応用に関して検討を行ってきた専門家集団として、上記法律の制定に引き続く議論において、以下の点についての配慮がなされることを強く望むものである。
(1) 医療事故調査の重要な目的の一つは、医療事故の原因究明と再発防止である。これにより、医療提供体制、プロセスおよび技術を改善・向上させ、類似の事故を未然に防止できる。
(2) 原因究明と責任追及とは別次元のことであるにもかかわらず、医療事故調査においては、両者が同じ枠組みで議論される傾向がある。原因究明のために提出・収集された情報が責任を追及するために用いられることになれば、必要な情報の提供・収集が困難となり、適切な原因究明ができなくなるおそれが大きい。このため、製造や運輸等の他分野においては、原因究明のための情報を責任追及に利用しないことが原則となっている。
(3) 上記法律に基づく医療事故調査制度は、原因究明と再発防止に限定し、責任追及は別の枠組みで議論するべきである。このことが明文化されていない医療事故調査制度は、事故の再発防止に役立たないだけでなく、かえって害をなすものである。
(4) 医療事故調査制度に関する今後の議論においては、医療事故の原因究明と責任追及を分離し、事故の再発を防止することに主眼をおいた運用ガイドラインを策定するべきである。
   

 

謹んで平成28年熊本地震のお見舞いを申し上げます


2016年4月18日
一般社団法人日本品質管理学会
第45年度会長 椿 広計
第45年度理事会一同

 このたびの熊本地方,阿蘇地方などにおける地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます.特に,今回の震災で命を落とされた犠牲者に学会を代表し謹んで哀悼の意を表します.

 現在,地震活動がまだ収束していないとのことで,大変不安な日々をお過ごしのことと存じます.
 いち早くライフラインなどが復旧すするとともに,一日も早く皆様方の平穏な生活が再建されることを祈念申し上げます.

 日本品質管理学会では,5年前の東日本大震災の際,製造現場の復旧などに当たられている方々に対し,品質管理の観点で有用となる情報などを発信しました.
http://www.jsqc.org/0311.html#110325
今回の復旧にとっても有用な情報もあるのではないかと存じますので,ご参照ください.

 今後,今回の震災に特化した情報提供もホームページ上で行い,復興のお役に立てればと考えております.



謹んで東北地方太平洋沖地震のお見舞いを申し上げます

2011年3月25日
(社)日本品質管理学会
第39-40年度会長 鈴木 和幸

 このたびの地震による被災を受けた会員の皆様,そのご家族の皆さま,ならびに関係者各位に心からお見舞いを申し上げます。また,不幸にして犠牲になられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 会員皆様方の工場・支社・営業所など被災地の方々を案じております。大変な被害の中、この苦境を乗り越えられ一日も早く復旧されますよう、そして皆様のお身体が守られますよう心からお祈り申し上げます。

 日本品質管理学会では、被害を受けられた企業の皆様が一刻も早く復旧できるよう何かお手伝いができないかを考えて参りました。その一つとして、被災地の企業の皆様への品質管理の視点よりの情報提供や提案を学会として募り、当学会のホームページに掲載して参ります。お役に立てれば幸甚でございます。


東日本大震災に関して、海外から多くの見舞い状を頂きました

2011年9月27日

 2011年3月11日に発生した東日本大震災に関して、日本品質管理学会宛に、ANQの各組織をはじめ、海外の品質関連組織から、多くの見舞い状を頂きました。
 心から御礼申し上げます。


受電設備の防水対策

2011年5月29日
構造化知識研究所
田村泰彦
 この度の東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
  今回の大震災では,福島第一原子力発電所(以下,福島第一原発)で大きな事故が発生しました.この事故の直接的なきっかけは,皆様もご存知のとおり,1〜4号機の電源喪失です.福島第一原発では電源喪失を防ぐ様々な冗長設計がなされていましたが,全交流電源喪失(※1)が発生し,その後の緊急用電源による供給もうまくいかず,原子炉や使用済み燃料プールの冷却に必要な電源を供給できなくなりました.
※1: 全交流電源喪失とは,変電所からの外部電源ならびに発電所内の非常用ディーゼル発電機による交流電源の供給がすべて不能になることです.

 福島第一原発の事故原因分析が進むまでは,議論ができない部分も多いですが,現時点(5月29日)までの東京電力の開示情報と事実関係からだけでも,地震動や津波に対する電源供給の信頼性について,様々な教訓が得られそうです.ここでは,津波に着目し,原子力発電所に限らず,工場や施設の非常用受電設備やその建屋に活用したい基本的な教訓をひとつ申し上げたいと思います.

 そもそも福島第一原発では,津波高さの想定が低く,津波による水ストレスに対する各号機の対策が不十分でありました.実際,地震発生による外部電源喪失直後,全号機それぞれが複数有する非常用ディーゼル発電機(以下,DG)は起動しましたが,津波が来たために,1〜5号機までのDGの電源供給がすべて不能となりました.5号機は,津波後も唯一電源供給が継続できた6号機DG系統からの電源融通によって持ちこたえましたが,1〜4号機は電源融通ができず,原子炉や使用済み燃料プールを冷却できなくなって事故に至りました.
  非常用発電機による電源供給には,「発電」,「受電(変圧・送電・遮断を含む)」という2つの大きな機能が正常でなければなりません.DGという発電機は,「発電」の機能に関わるものです.このDGの信頼性については,本サイトの電通大の田中先生が解説なさっています.
  ここでは「発電」とともに大事な「受電」に着目します.福島第一原発では,非常用受電設備として,非常用高圧配電盤や非常用パワーセンターなどがあります.東京電力プレスリリースによると,1〜5号機の非常用高圧配電盤は,地震には耐えたものの,津波による被水(水没)ですべて故障しました.被水の原因は,1〜5号機の非常用高圧配電盤がタービン建屋の地下1階または1階や共用プールの地下1階に配置されていた上に,これらの建屋では津波に対する水密性(水浸入に対する抵抗力)が低かったために,津波で建屋内に水が浸入したためです.対照的に,6号機でDGによる電源供給が継続できた理由として,DG本体が生き残ったこととともに防水性が高い原子炉複合建屋に受電設備が配置されていたことが挙げられます.
  受電設備が故障してしまうと,発電機が健全でも電源供給はできません.「発電」に関わる発電機は,高台に置き,津波による水ストレスそのものを回避することはできますが,受電設備は,負荷との距離が長いと電圧降下が起きるため,好きなところに配置するわけにはいきません.海岸に近い工場や施設であれば,おのずと海岸に近く,また操作・保守しやすい場所へ配置せざるを得ないでしょう.

 このような非常用受電設備では,水ストレスに対する防水対策が必要です.津波や河川氾濫により被水する恐れがある非常用受電設備では,その建屋の水密性が確保されているか,地震動で水密性が損なわれることがないか,設備が被水しない位置に配置されているかといった検討をこの機会に是非したいものです.これは日本国内の原子力発電所に限った話ではありません.停電に備えて非常用電源をもつ工場や病院などの施設が海や河川に近く,津波や河川氾濫により非常用受電設備の建屋が被水する恐れがあるところすべてにいえることです.
  非常用の発電機を用意し,冗長設計をして,外部電源喪失時の発電の信頼性を高めるとともに,受電機能の信頼性を高めることも常に注意したいものです.

<引用した東京電力プレスリリース>
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11051605-j.html
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11052402-j.html


東日本大震災に関する懇談会

2011年4月28日
電気通信大学
鈴木和幸

主     催: (社)日本品質管理学会
協賛/共催 : 応用統計学会 他
日     時: 2011年5月28日(土)18時〜20時
場     所: 電気通信大学 西5号館
(当日、17:50まで同会場にてJSQC第95回研究発表会を開催しています)
参  加  費 : 無料(食事・交通費等の支弁はありません)
   
開催趣旨  : 東日本大震災を受けて、日本品質管理学会として何をなすべきか、他学会などの知を結集してなにができるかに関し、皆様の考えをご自由に述べて頂く懇談の場を設けます。
意見がまとまったものは、学術会議・理事会などへの提案、学会のシンポジウム・研究会等に引き継ぎたいと思います。
緊急時の工程管理のあり方、代替部品の信頼性確認のための加速試験の実験計画、ETA(event tree analysis)の啓蒙普及、情報発信、ならびに今後の研究課題等、今後の方向性を含めて、産学、他学会との連携を含めて検討できればと存じます。
   
プログラム案:  
  0. 開催趣旨説明 (社)日本品質管理学会 会長 鈴木和幸
     
  1.

東日本大震災の産業界への影響と復興支援情報サイトのご紹介

      (社)日本品質管理学会 学会理事 皆川昭一
     
  2. 信頼性・安全性の確保と未然防止         鈴木和幸
     
  3. 安心な社会システムに向けた学の役割
      応用統計学会長、統計関連学会連合理事長
統計数理研究所・リスク解析戦略研究センター長
                   椿 広計
     
  4. 我々が為すべきこと
      参加者による自由討議
   
申  込  み  : [題名]"震災に関する懇談会"を明記の上、
5月23日(月)までに、suzuki@se.uec.ac.jp宛にお申し込み下さい。
   

品質関連支援MAPと予測に基づく未然防止

2011年4月7日
電気通信大学
鈴木和幸

 東日本大震災により、お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、関係各位にお悔やみを申し上げる。

 自然の前に謙虚となり、自然の恐ろしさを忘れぬことは大切である。しかし、この震災を人智の限界として済ませることは、一科学者として大変無念である。

 品質・安全の確保には、
i) 生じたトラブルへの迅速かつ適切な対応――〔クライシスマネジメント〕
ii) 生じたトラブルの再発防止――〔RCA(根本原因分析)〕
iii) トラブルの未然防止――〔予測に基づく未然防止〕」
が鍵を握る。トラブルの影響が人命に関わる場合には、未然防止の徹底がなされなければならない。

 未然防止の鍵は、“予測”にある。我々は、一般に、“予測できないこと”は防げない。将来生じうるトラブル現象(トラブルモード)を何らかの方法で予測しうるならば、これを防ぐ、あるいは影響を緩和することが可能であろう。
 人工物であれば、“発生防止”・“発見(流出防止)”・“影響防止”
の三側面への対処を行う。
 自然であれば、 “発見(早期発見)”・“影響防止”
の二側面への対処は可能であろう。地震であれば、“発見”は、例えば地震予知であり、“影響防止”は 岩盤の固い高台の耐震構造住宅 である。勿論、自然災害の発生要因が、人類によるもの、例えば地球温暖化によるものであればCO2削減などの“発生防止”へのアクションも可能となる。

 一方、トラブルを分類すれば,
    a) 過去において経験をしたもの
    b) 過去において未経験なもの
に分かれる。b)はさらに
    b1) 個人として未経験(他の人は既に経験済み)
    b2) その個人の属するチーム・組織として未経験(他の組織では経験済み)
    b3) 一つの業界・業種として未経験(他の業界・業種では経験済み)
    b4) 業界・業種・国の枠を越えて未経験なもの
に分かれよう。このとき大半のトラブルはb1〜b3に分類される。勿論、b4も存在するが、
まずはaとb1〜b3を考え、これへの対処が終わった後に、b4を考えればよい。

 以上を頭に置き、品質に関連し、これから先、どのような業務に、どのようなトラブルが生じ得るか、そしてそれにどのように対処すべきかを列挙した。このとき“被災した企業”、“被災した企業とサプライチェーンがつながっている企業”、などの対象企業の区分を縦軸に、そして横軸に、“短期的な視点”、“中期的な視点”、などの考慮すべきタイミングを考えた。

 表を活用するときの留意点を以下に示す:
 (1) 表は、全貌を示しているのではなく、業務プロセスと起こり得る問題の一部、あるいは、その問題への一つの対処法だけを示している。
 例えば、材料・部品の調達ができず、調達先の変更管理 という業務プロセスに対し、
・発注先を変更した場合の工程確認(検査)の強化
と記した。これは、“発注先変更”により問題が生じ得ること、そして、このときへの対処として工程確認(検査)の強化、という“発見”に着目した一つの対処の記載である。このように、個々の具体的トラブルは記していない。変更部品の耐久性の問題、周辺部品へのノイズの副作用など、これまでの全社の経験と知識を集めこの表を補って頂きたい。先に述べたように“発生”に関する対策も勿論必要である。このように表が全ての対処すべきトラブルとその対策を示すのではなく、その一部であることに注意され、これを補って活用頂きたい。

 (2)“発注先変更により生ずる問題”を列挙戴いたとき、このなかで広く他の企業、特に中小企業の方々のために、参考となる事項があるときは、是非ともその情報を提供頂きたい。このように、表中の項目に対し、より具体的に、あるいは表中に見あたらない項目に対し、これまでのご経験により将来生じうるトラブルを表に追記くださることにより、多くの企業への情報提供が可能となる。勿論、時間に余裕があるときは、各企業が考える問題であるが、今は、非常時である。

 (3) 本表の内容は、大企業には既に自明のことばかりであるかもしれない。しかし、日本を支えている多くの中小企業の方々の中には、参考となる項目が存在しえるかと思われる。この目的からも多くの方々からの、これから生じる種々の問題・為すべきことの列挙が有用と考える。

 (4) 表中の項目によっては、対策だけを示したものもある。対策は、一つとは限らない。あらゆる叡智を集め、考えうるあらゆる対策を列挙する。そしてそれらの効果・実行可能性・副作用などを十分に検討しなければならない。この為にも本表を活用戴きたい。

 (5) 縦軸は、主に企業を対象に区分したが、官と学は、全ての区分に対し何ができるか、なにを為すべきかを考える必要があろう。

 (6) 本表は、品質管理の観点から作成した。法律・医療・会計・・・等々、各学協会のご専門の立場から、どのようなトラブルが生じるかを本表を参考に列挙し、これらへの未然防止策を提起することが望まれる。

 (7)本表は、業種としてメーカーを対象に作成した。これを元に 医療機関、 行政、 サービス業など、業種ごとのMAPを作りトラブルを共有し、このトラブルへの未然防止が国をあげて行なわれることを切に期待する。

 未完の表であるが、これを出発点として、そして、これ以上、被害を大きくしないために、国を挙げて、予測に基づく未然防止が行われることを期待する。本趣旨に賛同頂けるときは、表への追記をsuzuki@se.uec.ac.jp 宛、あるいは各分野の未然防止MAPを本サイトへご寄稿頂きたい。

 なお、本表をまとめるにあたり、下記の方々から御協力を賜った。ここに伏して御礼申し上げる:皆川昭一、永原賢造、伊藤誠、於保鴻一、金子龍三、仁科健、鈴木秀男、下中大輔、長塚豪己 (敬称略、順不同)。

品質関連支援MAPのダウンロード(PDF:230Kbytes)/(Excel:47Kbytes

品質関連支援MAP


共通原因故障へのハード面での対策の工夫

2011年4月3日
電気通信大学大学院情報システム学研究科
田中健次

【経済産業省からの指示】
 3月30日経済産業省より各原子力発電所に対して,緊急安全対策の実施が指示された[1].「津波により3機能(全交流電源,海水冷却機能,使用済み燃料貯蔵プール冷却機能)を全て喪失したとしても,炉心損傷などの損傷を防止し,冷却機能の回復を図る」(一部省略)ために,所内電源が喪失し緊急時電源を確保できない場合の代替電源を確保することなど6項目である.
  実際,福島第一原子力発電所では,13機の非常ディーゼル発電機の多くが機能停止し,4基の原子炉での冷却が不可能になった事が,事故を拡大させる大きな要因となった.上記指示では,待機冗長である非常用設備が機能を喪失した場合の更なるバックアップを備えることが求められたものである.この対応を進める上で,複数の発電機が同時に停止した理由を一度考える必要があり,既に鈴木和幸氏(電通大)から指摘された『共通原因故障』の問題に着目することは極めて重要なことである.

【共通原因故障を避けるハード面での工夫】
  共通原因故障を回避するための具体的な対策方法について考えてみたい.文献[2]では,共通原因故障に陥ることなく個々の構成要素の独立性を確保するために,二つの工夫を挙げている.

(1)空間的冗長化
  第一に,複数の構成要素の間に十分な空間を取ることである.例えば,航空機の電気系統の多重化では,機体の右側と左側に分けて配線することで,火災における同時破損を防いでいる.また,地下に備えてあった複数の非常電源が水害で同時に水没してしまい,全てが使えなくなった病院の例がある(p74).空間的に接近していると,周囲からの影響を同時に受け易いことは明らかである.後者の例については,講義の際,水害を回避するためには1階と最上階に分けて置く,火災の影響を避けるためには建物の右端と左端の部屋に分けて置く,など空間の確保が必要であることを強調して説明している.
  福島第一原発の非常用ディーゼル発電機は,その多くがタービン建屋の地下に設置してあり,しかも,海岸線からの距離がほぼ等しい位置に置かれていた.まだ,発電機停止の原因は解明されていないが,津波の影響で同時に損傷した可能性は十分考えられる.山が迫った地形での発電所の場合,津波対策のみに気を取られ,すべてを山側(内陸側)の高台に並べて設置したりすると,今度は想定を超える周囲の土砂災害などで,非常用設備が同時に破損するトラブルに繋がるかもしれない.福島第一原発の場合も含め,一般に,海岸側と内陸側の高台に分けて設置するなど,多様な災害を想定し空間的な配慮を行えば,全ての機器が同時に機能を停止するトラブルを防げる可能性は高まるだろう.

(2)質的冗長化
  空間を配慮した量的な冗長性をもたせるだけではなく,質的な冗長性という観点も重要である.例えば,電気系のメカニズムに頼ることなく,機械系や手動との併用を採用する方法は,停電時などには効果を発揮する.懐中電灯を何台持っていても,電池がなければ1台も使う事ができないが,その中に手回し式の電灯が含まれていると,電池がない場合でも使用できる.昔の飛行機では,操縦室の床下に,前輪に直結しているハンドレバー式の非常ブレーキがあったという.現代の大型航空機では,さすがにこの方式は不可能となり,系統の異なる電気系で冗長化を図っている.
  今回の経産省による緊急安全対策指示に対し,各電力会社は,代替電源として独立な移動用電源車を配置するなどの措置を採って対応しており,異なるタイプのエネルギー源を確保するという意味では,質的な違いを考慮したものということができる.

 原子力発電所に限らず,多くの企業で,緊急時対応のための冗長化を進めているものと思われるが,ハード的対応あるいは設備対応では,これら空間的冗長化や質的冗長化をぜひ検討していただきたい.
  冗長化対応を現実に効果のあるものとするためには,運用上の落とし穴に陥らないように,さらにソフト面での工夫も考える必要があるが,それは別稿で考える. 

《参考文献》
[1] 経済産業省:http://www.meti.go.jp/press/20110330004/20110330004.html
[2] 田中健次:『入門信頼性』(§3.3.2「冗長化の落とし穴とその回避」,p73)日科技連出版社(2008).

(2011年6月2日一部赤字で修正)


お見舞い,品質確保

2011年4月2日
社団法人 日本品質管理学会
名誉会員・第24年度会長
久 米  均

 今回の大震災で犠牲になられた方々に対し心からご冥福をお祈りするとともにその関係各位にお悔みを申し上げます。工場建屋や生産設備の流出損壊の ため廃業、生産中止に追い込まれた方々に対してはお慰めの言葉もありませんが、未来に向かって新しい第一歩を力強く踏み出されることを心から願っております。

 海外の多くの国から、日本はこのような状況でも秩序が保たれているという賞賛が寄せられています。日本の品質もこうありたいと願っており、品質管理関係者の頑張りを期待しております。以下に老婆心ながらその対応を書いてみました。一般的な事項でありますが、ご参考になれば幸いです。

  1. 検査による品質管理
     材料・部品の調達先の変更、工程再編成、新規作業者など多くの変更が発生した場合、先ず、検査による品質確認が重要と考えます。生産維持だけでも大変なのに検査にまでなかなか手がまわりにくい場面も多いと思いますが、ここはあせらず、冷静に取組むことが重要と思います。

  2. 規格適合(Verification)だけではなく、妥当性確認(Validation)まで
     規格で押さえている品質は必要な品質の一部で、他に従来の材料や工程で潜在的に押さえられている多くの品質があり、材料、工程が大幅に変った場合には、この品質が失われる可能性があります。この品質を確保するには、納入先、ディーラーなどと連携して、品質確認体制を強化することが必要と思います。

  3. 体系的変更管理
      変更が品質に影響を及ぼすと思われる部分を体系的に分析し、その影響を除去し、工程で品質を保証する体制に順次移行していくとよいと思います。

  4. 計画停電対策
     関東地方で、計画停電によって、生産停止、生産再開が繰り返される場合、品質だけでなく、設備の機能・性能、作業の安全に影響がでてくるかもしれません。生産には従来以上の細かい注意が必要と考えます。

 皆さんの一層のご活躍を祈っております。


共通原因故障への備え

2011年3月29日
電気通信大学
鈴木 和幸
 現時点においてなすべきことは
  1. 被災者・避難者の救命救助
  2. 福島第一原子力プラントの安定化
  3. 余震・二次災害の防止
  4. 東海沖地震への備え
  5. 原材料・部品の安定調達を含む4Mとインフラの復旧・維持
  6. 企業の安全な生産立ち上げと安定した生産継続
  7. 計画停電への対処
等があげられる。
 上記3.4.に関連して、中部電力は22日、浜岡原発(静岡県御前崎市)が大津波に遭遇した場合などに備え、原発敷地内の高台に非常用ディーゼル発電機を設置する方針を明らかにし、東北電力は27日、女川原発(宮城県石巻市、女川町)と東通原発(青森県東通村)の構内に、電源車を常時配備した。このような未然防止活動が重要であることは誰しも認めるところである。このときの留意点を以下に記す。
 複数の部品からなるシステムがあり、このうちどれか一つでも故障すればシステムの機能が果たせない(故障)とき、このシステムを直列システムという。仮に、3つの部品からなるシステムで、1つの部品が故障しない確率(これを信頼度という)が0.90であれば、システム全体が故障しない確率は0.90×0.90×0.90=0.729となる。シャトルは600万個の部品からなるが、仮にこれらが3000個のユニットを構成し、各ユニットの信頼度が0.9999であっても、システム全体としては0.9999の3000乗の約0.7となってしまう。10回の飛行のうち平均して7回しか成功しないわけである。
 そこで、誕生したのが、冗長設計(Redundancy design)である。同じ機能を持つ部品を二つ以上組み込み、それらが全て故障したときのみシステムの機能が果たせず、少なくとも一つ正常であれば機能を果たしうる工夫である。例えば、図のように信頼度0.90のコンピュータを3台用意しておけば、3台とも全て故障する確率は(1−0.90)の3乗の0.001ゆえ信頼度は1−0.001=0.999となる。このようなシステムを並列システムという。
 実際アポロ計画では、4台のコンピュータを用意していた。新幹線の「みどりの窓口」では3台のコンピュータを用意し、また予約状態を記録したファイルは瞬時にもう1台のハードディスクに記憶されバックアップ体制がひかれている。
 冗長システムの採用にあたっては、次のことに留意する必要がある。図2の並列システムにおける3つともが故障する確率(1-0.90)³=0.001の計算が成立する前提条件である。このためには、3つの部品の故障が互いに独立に生じる必要がある。ある一つの原因により3つともが同時に故障してはこの計算は成立しない。即ち“独立に事象が生じる”ことが前提である。1985年8月12日、東京発大阪行きのJAL123便が御巣鷹山にて墜落災上し、500名以上の命が失われた。この飛行機には4系統の制御系が冗長で使われていたにもかかわらず、全てが問題となった圧力隔壁を経由しており、圧力隔壁の破壊により、4つとも全てが制御不能になってしまった。このような原因を共通原因故障という。
 浜岡原発、女川原発のみでなく、他のプラントならびに原子力以外の重要設備も含めてそれらのバックアップが、共通原因故障の視点より問題ないかの確認を今一度行うことを勧めたい。
直列システム 並列システム

統計数理研究所での被災地域研究者支援制度立ち上げ

2011年3月26日
統計数理研究所
副所長 椿 広計

 北川源四郎統計数理研究所長より,下記被災地域研究者支援制度立ち上げについて連絡の要請がありましたので,代理で連絡させて頂きます.

 このたびの東北地方太平洋沖地震に伴う災害で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。想像を絶する厳しい状況の中で協力し合い、この大きな苦難を乗り越えようとしている被災者の方々の姿に、畏敬の念を禁じえません。一日も早い復旧によって、被災者の皆様が安心できる生活を取り戻されることを心からお祈りいたします。

 統計数理研究所では,今回の震災の被災地域の大学及び研究機関の研究者(大学院生を含む)の皆さまの研究教育活動の早期回復を支援するたに,統計数理研究所に滞在して研究を継続して頂く「特別共同利用研究」の申請を3月23日より受け付けています.本制度につきましては,被災地の多くの研究者にご連絡等頂ければ幸いです.

 この特別共同利用研究では、下記の支援を受けることができます。

  1. 研究スペース:統計思考院、共同利用室あるいはプロジェクト研究室のいずれかを利用することができます。
  2. 研究資源の利用:計算機システム、図書等を研究所員と同様な資格で利用できます。
  3. 研究経費:申請書の記載事項を審査し、予算の範囲内で本研究所が負担します。(ただし、経費は統計数理研究所で執行していただきます。)
  4. 旅費:予算の範囲内で情報・システム研究機構職員旅費規程により支給します。
  5. 宿泊施設:研究者宿泊施設(Akaike Guest House)を利用できます。詳細はHP (http://www.ism.ac.jp/guest_house/index.html)をご覧ください。なお、宿泊を希望される方は,応募時に明記してください。
  6. 研究期間:数週間から数カ月を想定していますが、柔軟に対応します。

    詳細は,下記をご覧頂ければ幸いです. http://www.ism.ac.jp/news/2011/20110323specialcooperatresearch.html


必要な生産工程を早急に立ち上げるために

2011年3月26日
電気通信大学
大石修二・鈴木和幸

 非常時における応急対策は、人命救助の確保が最優先であることは言うまでもありません。以下は、“生産”の視点により必要な生産工程を早急に立ち上げるための参考情報を記します。

 応急対策は、1)事態の終息への活動および2)影響の回復に大きく分けられますが、現時点では1)は原発を除けば余震も段々収まりつつありますので、一般のメーカにとっては現在2)が主体であると考えられます。2)のうち品質管理の視点からは、地震時および地震後の混乱状態の影響が生産物に及ばないようにすることが大切と考えます。以下に生産工程の立ち上げへの参考情報を阪神淡路神戸地震の経験を踏まえて示します。

 インフラを含めた製造工程の乱れが、どのように影響するかという視点で分析とアクションを行うことが重要と思います。例えば、以下のような項目です。

  1. 地震時
    1. 地震の揺れによる製造装置の機能喪失・性能低下による影響
    2. 下記を地震後の出荷前に確認

      • 地震時の製造ライン中の製品の製造バラツキなど
      • 地震時にどのようなバラツキが発生するかの予測とそのアクション

      基本的には、地震時のライン中の全製品をチェックすることが望ましいが、大量生産の場合には、抜き取り頻度を高める。

    3. 火災による有毒物質発生の危険性の有無の確認
      • 劇薬・毒物の場所/量の確認と取り扱い主任者との連携による安全の維持

  2. 地震動終了後(余震時を含む)
    1. 地震に伴う災害による影響
      • 建物や製造装置の損壊の有無/程度および影響の有無など
      • 津波の場合は、冠水の有無/程度および影響の有無など
      • 出荷前の完成品倉庫や物流途上の製品在庫への影響の有無など

    2. 製造設備および設置場所での二次災害の防止(点検・補強)
      • 劇薬・毒物の場所/量の把握と取り扱い主任者との連携の上での復旧作業

    3. 停電/断水などによる製造工程中断の影響
      • 温度/湿度管理機能の喪失などによる品質の劣化など
      • 雰囲気管理機能(塵埃混入防止など)の喪失による品質の劣化など

    なお、下記の準備は大至急行う必要があります。

    • 原材料・部品調達の確保
    • 必要に応じて、通常操業状態に復帰に向けた臨時操業計画の策定
      例:速やかに通常操業状態に復帰するための過渡的プロセスの策定など

  3. 地震後の工場の復旧時
    1. 停電後の再通電による影響
      • 電気/計装/水/油/空気系の損傷の有無の再通電前確認など

    2. 製造装置の再起動前の異常の有無の確認
      • 装置の異常の有無の検査、テスト運転の実施など

    3. 製造装置の再起動後の製造物のフォロー
      • 通常時と同じバラツキで製造されているかどうかなど

    4. 資材の利用可能性
      • 非常時調達資材の代替可能性と副作用の吟味

    5. 人への配慮
      • 疲労による集中力低下によるヒューマンエラーの発生への未然防止
      • 被災した家族への心配・不安・焦り等によるヒューマンエラーへの対処
      • 要員の確保および必要に応じて勤務形態の一時的な見直し

      なお、下記の点からの注意も大切と思います。

      • 工場へのインフラ供給などの前工程からのインプットの事前確認
      • 連休などの長期休業よりの立ち上げ時と同様な確認
      • 製造物の輸送手段の確認/確保
        例:生産量に見合った輸送手段(客先への)が確保されているかなど

以上、ご参考になれば幸甚です。



--------The Japanese Society for Quality Control--