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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 1999年11月 No.216

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トピックス「競争力創成,学会への期待」
私の提言「「正しい」ということ」

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■ トピックス  競争力創成,学会への期待

コニカ株式会社 代表取締役会長 米山 高範

競争力が低下している?

最近,日本の産業競争力が低下しているのではないかという指摘がある. これは,海外のシンクタンクが公表した国別競争力のデータなどが根拠になっているが,算定の基準が必ずしも明確でない.

しかし,こと日本企業の製造部門については,確かに競争力の低下が懸念される実態がある. 最近の製造第一線では,効率化のために人員の削減や職場の改組,異動などが行われている. 職場の要員もパートタイマー,派遣社員の比率が高くなり,正社員だけで固めていた頃のような暗黙の協力関係は望めない. 教育・研修も縮小または削減の傾向が現れており,技術,技能の低下が心配される. 「技能オリンピック国際大会」の結果を見ても,1970年代では常に上位を占めていた日本が,97年は第7位と低迷している. 昨年の「全日本選抜QCサークル大会」では,18チームの発表のうち8件が現場の技術,技能の改善をテーマに取り上げており,現場で働く人たちは技術,技能の低下に危機感を持ち,その改善に努力している姿がうかがわれる.

厳しい経営の課題
このような状況に至った最大の原因は,日本企業がかつて経験した事のない難しい経営環境に直面していることである. 長引く不況への対応として効率化重視の施策が取られる. 企業活動のグローバル化のため経営システムの国際基準への適応に迫られ,更に,地球環境問題への対策として多面的なシステム構築が要求されている. これらの新しい経営課題はいずれも緊急なテーマであり,経営者はその解決に傾注せざるを得ず,相対的に製造部門の競争力への関心が低下している.

この間,総理の諮問機関「産業競争力会議」が発足した. 中間提言では,従来にない実務的な提案がされているが,残念なことに多くが制度上の改善であり,基盤となる製造の競争力に対する直接的な施策は見当たらない. なぜ,製造部門の実情を直視しないのか. いくら制度を改善しても製造の競争力が不十分であれば,ガタガタの土台の上に立派な家を建てるようなものではないだろうか.

ASQ年次大会に参加して
本年5月,日科技連より米国品質管理視察チームが派遣され,それに参加する機会を得た. チームはASQ(米国品質協会)の年次大会に出席し,後半,西海岸の3つの企業を訪問した.

この研修を通じて痛感したのは,米国の品質管理活動の奥の深さ,幅の広さであり,いまや米国は品質について大きな自信を持ち始めているという印象であった. 1970年代,日本の産業界に遅れをとっていた米国が,どの様に変革して来たのだろうか.

1985年レーガン大統領の諮問機関「産業競争力委員会」がヤングレポートを公表し,米国の産業競争力について危機を訴えた. 87年にはマルコム・ボルドリッジ賞が制定され,品質管理に実績を上げた企業を大統領が表彰する制度が始まった. 1990年〜91年,米国はバブル崩壊後の不況に直面していたが,この間も企業におけるQC活動は着実に続けられ,92年にはMB賞の州ごとの表彰制度が始まり,全国的に広がっていった. 米国はヤングレポートで危機を認識して以来,国をあげて,着実に「質」の向上に努力して来たのではないか.

日本版ヤングレポート
産業競争力を強化するためには,製造の競争力創成が不可欠である. しかし,上述の如く産業界の認識は不十分であり,企業経営者も当面の緊急課題に目を奪われている. このような状況を改革するには,何よりも製造競争力の実態を明らかにして危機感を共有することであろう. 米国の例に習えば,いわゆるヤングレポートが必要な時機ではないか.

日本版ヤングレポートを作成するには,各企業がその実態を表わすデータを提供し集約する作業がある. 企業が提供するデータには機密に属するもの,対外的には知られたくない品質情報もあるに違いない. したがって,その集約,分析の作業は,中立であって権威のある組織でなくてはならない. これに相応しいのは日本品質管理学会ではないだろうか.

もし,学会が問題提起すれば,経団連など主な経済団体も協力を惜しまないだろう. そして,実態が明らかになれば,改善に向けて各企業の努力が始まる. 日本品質管理学会へ大きな期待を寄せたい.

 

■ 私の提言  「正しい」ということ

前田建設工業兜i質保証部次長 村川賢司
ある工業会の社会人セミナーで總持寺の川窪純光副監院の講話を拝聴する機会を得た. 講話の締めくくりに「正」の字を空に描かれた姿が強く印象に残った.

「正」は「一ど,止【や】める」という意を表したものと説き,今の時代にこそ足元を見据えることの必要性を説かれた.

本セミナーは,工科大学卒業生を会員としているため,聴講者全員が理科系である. 戦後,日本経済の復興を無我夢中で推し進めてきた人々に対し,21世紀を眼前にした今,日本復活への展望をもう一度原点に立ち返り描いて欲しいとの思いが切々と伝わってきた.

かつて経験し得なかった規模と速度で変革が進みつつあることを建設業という国土に密着した産業に身を置いている者ですら肌で感じている. 時間的,空間的に地球の距離が縮まり,推し量れない程複雑に各国が影響しながら文化や経済の交流が為されつつある.

本学会の年次大会と併せて開催された第13回アジア品質シンポジウムにおいて,日本は統計的手法,韓国は国家品質賞やシックスシグマに,各国研究分野の特質を垣間見ることができた. 各国がそれぞれ特色ある研究分野を持ち,独自に切磋琢磨している様子が伺われ,国際舞台において研究レベルと注視している分野を比較することは,自国の強み弱みを知る上で極めて有意義であると感じた.

英語教育の改革,留学制度の充実など,改善すべきことは多いが,アジアや欧米とのもっと積極的な知的交流が,明日の日本の品質競争力を拓く基盤として不可欠であると思う.

国境のない情報化社会でグローバル化が進み,世界が認める透明性と公正さのもとでメガコンペティションが展開されている. 地球的規模での競争を生き残るために,既成概念を壊し,夢にも思わなかったグループの枠組みを越えた巨大な企業が誕生してきた. これに呼応して,連鎖的に事業の再構築や企業の再編が,現実のものとして眼前に迫りつつある.

一人ひとりが,様々な分野で諸外国との交流に努め,地球全体を見渡せる視点を持ち,世界的に価値を有する日本の文化,技術などのあり方について常に原点から不易流行を問い,自ら答えを見出す必要性を感じている.


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