■'98TQM東京大会
昨年はじめTQM宣言の冊子が刊行されてから1年半余り,様々な議論がなされてきた. '98TQM東京大会(主催(財)日本科学技術連盟)は,昨年の名古屋大会を受けてTQM宣言のフレームワークに基き「TQMの実践と成果―コア技術,スピード,活力」と題して,7月15日(水),16日(木)の両日,約300人の参加を得て日本青年館で行われた.
「甦れ品質のニッポン」と題した日本経済新聞の徳田 潔氏の特別講演,大会テーマと同じタイトルの玉川大学谷津 進教授の基調講演,コア技術,スピード,活力の3会場でカテゴリーごとに分かれた12の招待発表,そして28の研究発表,最後にTQMの現状認識と問題点を総括するTQM討論会で締めくくられた.
■2つの問題提起
本大会の主旨は,TQMの実践と成果を確認するとともに,今後の発展のための課題を見いだすことにある. 特に招待講演では,コア技術,スピード,活力の3つの切り口から,それぞれベスト・プラクティスの報告があった.
一方,課題という意味では,大きく2つの問題提起があったように思える.
TQMは,製品品質のみならず,経営プロセス・資源の"質"向上といういつでも不可欠な根元的普遍性をもつ対象を目指した取り組みである.
その意味ではTQMと言わないでも,TQCの良さは不変である. しかしながら,それが組織の取り組みとして求心力をTQCがもつためには,基調講演の谷津教授の指摘にあったように,20年前に最適であったやり方が現在では決して有効とはならない.
企業を取り巻く状況は常に変化し,それによって最適解も変化するからである. 今ひとつの問題提起として,わが国経済の閉塞感は単に金融システムだけの問題ではなく製造業にもあり,現場の改善力は世界一であってもそれが全体の成果に結びついていないという特別講演の徳田氏の指摘があった.
■TQMの内容をわかり易く
TQMはそのひとつの解答と期待される. これらの問題を踏まえたTQM討論会では,TQMのフレームワークおよび内容も整備されてきたとの評価がされ,フロアからの意見も含めて異論は出されなかった.
その上で求心力と全体成果を獲得するためには,谷津教授の講演にもあったWHAT型の問題解決の方法論と評価尺度の開発の必要性と,トップの理解や,中小企業,非製造業への普及のために,さらにTQMの内容をわかり易くする努力の必要性が強調された.
このわかり易くというには,新生TQMを外に向かって情報発信する場合にも特に必要であろう. TQM宣言の内容は,これまでTQCを実施してきた内の方々への認知はかなり得られたと考える.
これからはこれまでのTQCの枠を越えた対象へインパクトを与えるような情報発信が求められてくるのではなかろうか.
■TQM委員会の取り組み
さて,この大会が開催される直前の7月はじめ,「TQM 21世紀の総合「質」経営」(日科技連出版)が,日科技連のTQM委員会(委員長飯塚悦功東大教授)より刊行された.
TQM宣言の内容を周りの状況も盛り込み詳しく解説するとともに,15の各要素の取り組み事例が紹介されている. 大会テーマの「TQMと実践と成果」の出版物によるアウトプットとしても位置付けられる.
現在TQM委員会では,討論会で指摘のあったような新しい方法論や評価尺度の開発テーマをリストアップし,既に検討をはじめている.
さらにこのような開発を産学協同で有効に進めるような推進組識設立も計画している. また外に向かって発信のためのパンフレット作成や,TQMをやさしく要約した出版物の刊行も予定されている.
TQM委員会でのこのような取り組みに並行して,何より重要なのが企業での取り組みである. 世界モデルとなったTQCも,その時代にあった企業のベスト・プラクティクスを随時加えることによって形成された.
TQMについてもそのようなベスト・プラクティスを発掘し,それをTQMに同化,体系化していく努力こそ重要であろう. さらにTQMでは"管理技術の融合"の必要性を言っている.
QCの活動に垣根を作らず,原点に戻り良いものをどんどん学ぶという姿勢こそ今求められていることと考える.