デミング賞のしおりの改訂が行われます.従来のしおりの内容を2分割し, 「デミング賞のしおり」と「デミング賞応募の手引き」に分けています.
前者は応募前に,後者は応募後に利用して頂くためのものです. 昨年1年をかけ委員各位の鋭意検討の結果,1999年用として成案がみられましたので,ここでご紹介を致します.
「しおり」は,デミング賞とその内容としてのデミング賞本賞,実施賞,事業所表彰について述べ,実施賞の効果, TQM診断および日経品質管理文献賞を説明しています.
「応募の手引き」は応募の方法,提出に必要な実情説明書の書き方,実地調査についての詳細な内容等, さらにデミング賞委員会委員によるTQM診断,日経品質管理文献賞の応募の仕方等が説明されています.
改訂の大きな点は,TQCをTQMとしたこと, デミング賞実施賞における従来のチェックポイントを「審査の視点」に改訂したことです.
この点に焦点を当て説明致します.
日本のTQCは1980年代米国に逆移転され,米国企業の復活に大きな役割を果たしました. 「日本のTQC」は欧米で訳語としてTQMとされ,日本でも国際慣行に従ってTQMとしましたが,名称変更に止まらず,
21世紀に通用するものとすべく,ここ数年多くの討論が行われました. 特に日科技連のTQM委員会から「TQM宣言」が出され,多くの反響を呼び,
当学会品質誌や品質管理誌での誌上討論も活発に行われてきました.
以上をふまえてTQMの定義を定め,審査の視点の概念を示しています. 視点は「TQMのねらい」と「TQMのフレームワーク」からなり,前者は「企業目的の達成への貢献I」であり,
それを目指す後者は「全社の組織を効率的・効果的に運用する体系的活動」であります.
その内容は次の「視点」群から構成されています. 前者はコア技術・スピード・活力をもつ「組織力(9)」をベースに“顧客”の視点,“質”の視点から
顧客満足の高い品物・サービスの提供を目指して企業目的の継続的実現を計るものであります. 後者は,「経営トップのリーダーシップ,ビジョン・戦略(1)」を受け,「TQMの考え方・価値観(7)」,
「科学的手法(8)」等の基本的考え方と手法を基礎とし「人材の育成(5)」,「情報の活用(6)」により主要経営基盤の充実を計り,
「品質保証システム(3)」,「経営要素別管理システム…(4)」の「TQMの中核管理システム(2)」を 管理・改善・改革していくこととしています.
デミング賞への挑戦企業は,時代の要請や経営環境に応じた新たな品質管理の方法を模索・開発し, 次に挑戦する企業がこれを学び,発展させるという波及効果で日本的TQCが構築されてきました.
こうした自己成長を促すメカニズムは,デミング賞の審査の仕組みにあったとされます. それは逆に審査の採点基準が不透明・不明確という指摘の一因でもありました.
審査は委員会の提示する品質管理モデルへの適合を求めるのでなく, (1)積極的な顧客指向の経営目標の策定状況, (2)それに向けた自らの課題を組織をあげて改善・改革していくTQMの適切な実施の過程,
(3)結果としての効果,将来にわたる有効性などを評価しています.
その企業にあった課題を設定し,実情に相応しいTQMの取組がなされてきたかを総合判断によって判定しております. これは勿論チェックリスト無しで総合判断をする大学における学位論文審査に類似しています.
「応募の手引き」には参考として審査の視点の小項目を示していますが,チェックリストとしての利用ではなく, 何に重点を置くかは,企業の方針で決めることを求めています.
実情説明書の記載内容も,章だては自由で,審査の視点を参考にしても,平等に考えるのでなく, むしろ重点は企業側で決め,形式的でない自社の「TQMの特徴(俗称で光り物)」が示される内容が望ましいとされます.
受審各社の挑戦の過程で,受審側と審査側の相互啓発によるTQM自体の継続的発展をも期待しているものであります.
6月中旬デミング賞委員会から発行予定ですので,学会広報委員長からの依頼によりご紹介させて頂きました.
最近,厳しい社会情勢に対処するために企業においては組織のフラット化や人事制度の改革など 企業の実態に応じて何らかの改革を行っていることがメディアを通して報じられており,
特に学生の就職担当をしていて,各企業の人事担当者にお会いするたびに企業の厳しさを切実に感じている. また,このような変化は大学にも及んできている.
大学受験の対象となる高校生の人数は1991年から93年頃をピークに減少してきており, やがて2010年頃には大学全入という事態になるといわれている.
特に,私学としては厳しい生き残りをかけて一定の受験倍率を維持するために, 受験生にとって魅力のあるような人的・物的な研究・教育環境を整えること,
魅力あるカリキュラムや社会人,留学生,帰国子女の受け入れ,セメスター制の導入などを含めた入試制度の改革, 新学部の創設や産学共同研究の推進など,
社会や時代の要請に答えるとともに大学としての質を向上のための努力がなされている. その中でも学生による講義評価は大学や学部により取り扱い方は異なるものの,
教員の自己研鑽の資料として多くの大学で活用されるようになってきた.
小生の属している大学においても例外ではなく,自己点検・自己評価が義務づけられ, 各学部や多くの委員会などから自己点検・自己評価委員会委員を選出して,年度毎の評価を行っている.
その内容は,大学運営や経理に関わることから,各学部の教育内容や教育職員の研究成果・事務運営内容まで含み, 一般にも公表されている.
さらに,財団法人大学規準協会からも大学の相互評価の認定を受けるが, 勧告を受けた場合はそれに対しての改善報告書を提出するという仕組になっている.
以上のような大学の取組みに対して,当学会の品質教育研究会において最近, 綾野克俊氏(東海大学教授)から教育関係機関に対する国際品質規格であるISO10015に関する資料提供を受けた.
大学の質を高め,社会のニーズに対応できるようにするための何らかのヒントになることと, 今後の詳細な報告に期待している.