JSQC 社団法人日本品質管理学会
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学会誌「品質」
JSQCニューズ
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JSQCニューズ 1997年12月 No.201

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巻頭言「第17期日本学術会議から」
私の提言「科学的品質管理のすすめ」
わが社の最新技術「日本ではじめての無菌充填の紙製飲料缶「カートカン」」

■ 巻頭言  第17期日本学術会議から

中央大学理工学部 久 米  均

今回はからずも,日本学術会議第5部の経営工学研究連絡委員会から第17期の学術会議会員に選ばれました.学術会議の会員として何ができるか,経営工学研連にどのような貢献ができるかあまり自信はありませんが,できる限りしっかりやりたいと思っておりますのでよろしくお願い致します.

経営工学研究連絡委員会

日本品質管理学会,日本オペレーションズ・リサーチ学会,日本経営工学会の関係者が集まって経営工学関連学会協議会(FMES)を設立し,経営工学研究連絡委員会を日本学術会議の中に設けるべく,いろいろ努力を重ねた結果,やっと経営工学が日本学術会議で認知されたのは10余年前のことです.筆者も及ばずながらそのお手伝いをさせて頂きましたが,当時そのために尽力された多くの方は既に第一線を退かれております.この活動がもとになって,毎年FMES主催,経営工学研究連絡委員会共催でシンポジウムを開くことになりましたが,これは関連学会の交流を進める上で大きな役割を果たしてきています.

経営工学研究連絡委員会は現在,日本品質管理学会,日本オペレーションズ・リサーチ学会,日本経営工学会,日本開発工学会,日本設備管理学会,日本信頼性学会,研究・技術計画学会の7つの学会で構成されており,会員数は延べで約12,000名になっています.

第17期第1回総会

第17期の第1回総会はさる7月22日から24日の3日にわたって,乃木坂にある日本学術会議の建物で行われましたが,7月22日の午前,17期会員全員が総理府の講堂に集合,そこから首相官邸ホールに移動して,辞令の交付を受けました. 22日の午後は会長副会長の選挙が行われ,会長には吉川弘之前東大総長(第5部)が1回の選挙で選ばれました.副会長には人文科学系からは柏崎利之輔早稲田大学教授(第3部),自然科学系からは佐々木恵彦日本大学教授(東京大学名誉教授)(第6部)が選出されました. 続いて各部に分かれて部長,副部長,幹事の選出が行われましたが,第5部では部長に大橋秀雄工学院大学長(東京大学名誉教授)、副部長に松尾稔名古屋大学教授,幹事に冨浦梓新日本製鉄顧問,古田勝久東京工業大学教授がそれぞれ選ばれました.

第17期第2回総会

第2回総会は10月22日から24日の3日にわたって行われましたが,そこでの課題は第17 期の活動計画を定めることです.吉川会長の提案に対して活発な討議が展開されました. 第1部の文学,哲学などの分野から第7部の医学にわたる学術の全ての分野からの人達による討論はなかなか面白い.工学的感覚ではあまり問題ではなさそうな事項についても他の立場ではなかなか重要なこともあり,いろいろな考え方に触れることができました.

研究連絡委員会の改組

第17期発足にあたって第5部において研究連絡委員会(以下研連と略す)の組織が大きく変りました. 従来,第5部では「基礎工学」,「応用物理学」,「化学工学」,「機械工学」,……,「経営工学」,「建築学」の17の研連で構成されていたのですが,技術の発展の激しい現在の状況においては従来の構成では世の中の進歩に弾力的に対応していくことが困難であるとの判断から,従来の研連を推薦研連(領域別研連)として,これとは別に非推薦研連(課題別研連)を設立しました. 非推薦研連は「工学共通基盤」,「人間と工学」,「社会環境工学」など13の研連で構成されますが,各研連の下部に専門委員会が設けられ,従来の研連の活動は実質的にこの専門委員会において行われることになります. 紙面の都合でこれを紹介することはできませんが,経営工学関連学会は「人工物設計・生産」研連の中の「経営管理工学専門委員会」を中心に活動を行うことになります. 学術会議の運営はすべて法律によって行われるので,従来の組織を変えることは究めて困難で,従来の枠のなかで可能な限り,世の中の変化に対応させようとしたのが今回の組織改正です.この組織をどのように運用していくかは今後に残された課題です.

■ 私の提言  科学的品質管理のすすめ

東京理科大学理工学部 助教授  尾島 善一
品質管理は,統計学を応用した管理図や抜取検査から発展してきました.母集団とサンプルを区別して取り扱うこと,アクションの対象は母集団であることが統計学から第一に学んだ点でしょう.そして,偶然原因による変動と異常原因による変動を区別することも,統計学に由来する品質管理の基本原理となっています.

品質管理は,統計学からの基本原理に加えてPDCAやユーザー指向,QCサークル,QCストーリー,方針管理,品質機能展開などを導入し,また独自に開発して発展してきました.これらの方法論的な手法とは異なり,活動に客観性を与えるのが,「データでものをいう」あるいは「事実に基づく」という基本原理でしょう. 思い入れや思い込みの呪縛から逃れ,客観的に科学的に論証を進めていくことが重要なことは明白です.このように統計学は品質管理に客観性と論理性を与えてきました.また逆に,品質管理が役に立つ統計的方法の開発を促してきました.

統計学は,実際の問題に適用されるという特徴を持っています.品質管理のみならず,農学,遺伝学,医学,経済学など広範囲に利用され,研究の客観性を高めてきました.因子分析や実験計画法などに,それぞれの分野に由来する用語が残っていることからもそれが伺われます.

しばらく前から,品質管理の統計的な部分を軽視する風潮が感じられます.確かにTQC は重要ですし,品質管理の重点が変化することも自然なことでしょう.しかし統計的な部分は品質管理のバックボーンで,不可欠なもののはずです.それどころか最近ではSQCなしの品質管理といった統計を全く無視する動きがあるようです.

いま品質管理に必要なのは,科学的な一貫性や客観性です.計量品質学といった科学に発展すべきです.もちろん旧態依然のSQCでは不充分で,品質管理で用いられる統計がもっと発展しなければなりません.「もっと科学的な品質管理に」というのが私の提言です.

客観性を欠いた品質管理はどこに行ってしまうのでしょうか.この傾向はバブルの始まった頃からのような気がします.

■ わが社の最新技術
日本ではじめての無菌充填の紙製飲料缶「カートカン」

凸版印刷潟pッケージ事業本部 小原 國葆
カートカンとは

飲料缶と同じ形をした紙容器.中身の保存機能がしっかりしているので,無菌充填することにより長期保存ができ,自動販売機にもかけられ,飲用後の廃棄処理もリーズナブルというもの.
開発の背景

当事業本部は包装資材を扱う所で,紙,プラスチックフィルムのコンバーティングや容器成形の技術がある.またその包装資材を使うための包装機や充填機の開発も行ってきた.特に液体紙容器とその充填システムに力を注いできた.

カートカンはフィンランドとドイツの共同開発によるもので,5年前に紹介された.当時は(現在もそうだが)飲料缶のポイ捨てが目立ち,自動販売機の回りには空き缶が散乱し,同じ包装容器を生業とする我々にとって違う分野とはいえ苦々しい思いであった.このときのカートカンは未成熟なものであったが,将来有望なシーズであった. そこで我々は「飲料用金属缶と同じ機能を有し,環境保全対応可能な紙製飲料缶+α」を目指した.因みに飲料缶は400億缶/年売られており,その自動販売機は200万台以上設置されているといわれている.また包装容器リサイクル法により2000年4月には紙容器の適用がなされる. 当事業本部は包装資材を扱う所で,紙,プラスチックフィルムのコンバーティングや容器成形の技術がある.またその包装資材を使うための包装機や充填機の開発も行ってきた.特に液体紙容器とその充填システムに力を注いできた.

何をどの様にしたのか

先ず内容物の保存機能であるが,内容物劣化に重大な影響を及ぼす酸素が容器内に透過しないようにする酸素透過性を押える必要があったが,アルミ泊は廃棄処理性が悪く,それに近い酸素透過性を有し,廃棄処理に全く問題のないセラミック蒸着フィルム(当社製品名GLフィルム)を用いた. このフィルムと樹脂臭の少ない特殊ポリエチレンフィルムをラミネートしたもので容器内表面のみならず,紙の端面やのみ口の端面等液に触れる部分全てをカバーしている.その後数回の改質改良を経て現在中身品質を180日以上保持できるという得意先評価を得ている.

腐敗や人間に害を及ぼす微生物については金属缶の場合は加熱充填や充填後のレトルト処理によっているが,カートカンの場合は無菌充填方式を採用している.一般的に無菌充填の場合加熱殺菌処理時間が極めて短く中身品質の劣化が少ないため新鮮さを維持できる. 無菌充填機はオリジナルマシンは比較的菌の繁殖が少ない果汁(酸性飲料)を対象としており,コーヒー,茶系飲料,乳製品等の中性飲料については更なる改善改良を加え万全な信頼性を付与する必要があった. そこに当社の20年に及ぶ無菌充填技術が生かされ,カビ・酵母のみならず耐熱性芽胞形成菌,さらには同耐熱性菌のなかでも高温繁殖菌に対する微生物制御技術を確立した.これら包装材料及び加工技術と無菌充填における微生物制御技術により常温流通・長期保存可能なカートカンシステムが確立した.

金属缶の機能には自動販売機にかけられるという重要な機能がある.従来の紙容器では現在使用されている自動販売機には容器の変形による詰まりや擦り抜け(2個一度に落ちて来る)その他の問題で適用できない事を知った. そこで先ず容器の強度(剛度)アップを計るべく紙質の改良を行った.更にホット販売を可能にするため紙そのものを加工し温度変化のない紙を完成した. また前述のように高温繁殖菌にたいする微生物制御技術を確立し,結果としてチルド及びホットでの自動販売機への適用を可能とした.また電子レンジで温めて飲用する事もできるわけである.

むすび

カートカンは環境保全対応を主題に商品開発を行い,関係省庁や団体の了解の下に牛乳パックと同じリサイクルルートに乗せられる.そして飲用後は一般ごみとして焼却処理ができるためオフィス等に設置するインドア自動販売機や金属缶が持ち込めない競技場あるいは処理に手間の掛かる列車内販売などに採用が進んでいる. 当社はカートカンの展開を図るために受託充填工場を設立し,果汁,コーヒー,茶系飲料及びミルク入り飲料,その他を生産し,数多くの実績を持った.今後は更なる容器の改善を行い一層機能的で環境に優しいものとし,高能力の無菌充填機の開発と相俟って,日本の各地のみならず海外にも充填基地を作り,展開を図って行きたい.


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