1.はじめに
2015年12月18日、総合科学技術・イノベーション会議(議長:安部晋三首相)は「科学技術基本計画」に対する答申を行い、1月22日閣議決定しました。本計画の中では、まず日本の目ざすべき姿として、
1. 持続的な成長と地域社会の自律的発展
2. 国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現
3. 地球規模課題への対応と世界発展への貢献
4. 知の資産の持続的創出
と定めています。そしてこれらの項目を具現化・実現化するためには、以下で述べる領域への取り組みが最も重要であり、今後5年間で約26兆円をかけ積極的に進めるとされています。ここでは、2016年度から始まる第五期科学技術基本計画について品質の観点および日本品質管理学会(以下JSQC)の立場から検討してみます。
2.第五期科学技術基本計画の重点領域
基本計画では、ICTの進化等により「大変革時代」が現在到来しているという基本認識の下、世界に先がけて「超スマート社会の実現」(Society 5.0)を目ざすとされています。すなわち未来の産業創造・社会変革に向けた新たな価値創出の取り組みとして、人類がたどってきた4つの社会(狩猟、農耕、工業、情報)の先に年齢、性別、地域、言語等の違いを越えて多種・多様な質の高いサービスが受けられる社会の実現を図るとのことです。具体的には、先行して11の分野の科学技術イノベーションを行い、社会変革を図り未来社会を切り拓くとのことです。中でも、新たな物づくりシステム、おもてなしシステム、スマートフードチェーンシステム、スマート生産システム等の分野は、まさに品質という観点から扱うべき分野と考えられ、今回の基本計画の中にはJSQCが関与すべき活動領域が、実に数多く含まれています。
3.第五期科学技術基本計画と品質
基本計画では、超スマート社会の実現を目ざすには、まず一連の取り組みである「Society 5.0」の深化が必要とされています。奇しくも2014年11月大久保尚武前会長が会長就任時に掲げられたキーワードである「シンカ」が重要語として使われているのです。今回、新木理事に基本計画案中のJSQCに関連するキーワードを検索していただき、その数を調べると、品質(3)、質(29)、サービス(53)、標準(26)、安全(42)、データ(50)となっていました。このキーワードの出現傾向は、従来の製造業だけでなく、今後は食料、農業、医療、サービス産業など新規分野の質・品質も重視していこう、という椿広計会長以下JSQC理事会が推進している学会中長期計画の方向性とも一致しており、まさに学会にとってチャンス到来です。
4.日本品質管理学会の最近の動き
現在、JSQCはさまざまな活動を行っていますが、その中で横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)と情報交換を行い、第五期科学技術基本計画の実現に向けてシナジーを高めていこうと考えています。またJSQCは、2018年までに日本科学技術連盟、日本規格協会と質・品質に関するアンブレラ中核組織(JAQ)を構成し、今後日本におけるQualityに関する総合的・俯瞰的活動の一角を担おうと考えています。さらにJSQCは、学会中期計画で高等教育研究機関における品質管理活動を支える研究者・専門家育成を謳っており、東京大学や滋賀大学などにこの分野の拠点を形成すべく努力しています。JSQCは会員の皆様と共に今回の第五期科学技術基本計画をチャンスと捉え、その活動をさらに活発化させていきます。会員の皆様の御協力・ご支援よろしくお願いいたします。
内閣府・科学技術基本計画URL
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html