1.はじめに
ISO 9001は2015年9月に発行されたので、ISO 9001の認証組織は3年間で2015年版に移行完了する必要がある。このため、要求事項の意図を十分理解したうえで対応することが必要である。
2.改定の趣旨
今回の改訂では、(1)変化する世界に適応する、(2)顧客を満足させる組織の能力を強化する、(3)将来に向けて一貫性のある基盤を提供する、(4)組織が置かれているますます複雑になる環境を反映する、(5)すべての利害関係者のニーズを反映する、(6)他のマネジメントシステムと統合することを主眼としている。
3.2008年版との相違点
主な変更点は、(1)規格の構造にISO/IEC専門業務用指針の附属書SLを採用、(2)リスクに基づく考え方を導入、(3)QMSの方針及び目標と組織の戦略との密接な関係付け、(4)文書類に対する一層の柔軟性を持たせている点である。規格の構造は、4組織の状況、5リーダーシップ、6計画、7支援、8運用、9パフォーマンス評価、10改善となっている。
4.1組織の事業環境及びQMSの能力に影響する外部・内部の課題を理解すること、4.2顧客及び法令・規制要求事項だけでなく、QMSに密接に関連する(QMSの運営管理に重大なリスクを与える)利害関係者及びその要求事項を考慮すること、6.1QMSの計画策定では、リスク及び機会への取組みを行うこと、トップマネジメントのリーダーシップに関する役割が強化されている。
以上のことから、QMSのみで運営管理することは組織の事業運営に効果的かつ効率的でないので、事業プロセスとQMS要求事項との統合を行うことが明確にされている。
これ以外にも、7.1.6組織の知識に関する新たな要求事項も追加されており、その他の要求事項も一部追加修正されているので内容を把握することが大切である。
4.移行にあたっての注意点
(a)QMS運営管理担当者の規格の理解
社外・社内研修で要求事項の意図を理解する。特に、ISO 9000の箇条2の基本概念(品質、品質マネジメントシステム、組織の状況、利害関係者など)と品質マネジメントの原則(顧客重視、 リーダーシップ、人々の積極的参加、プロセスアプローチ、改善、客観的事実に基づく意思決定、関係性管理)を理解することで、ISO 9001の理解が高まる。
(b)トップマネジメントへの説明
2015年版の規格改正の考え方とトップマネジメントの役割が強化され、さらに事業活動との一体化が図られていることを重点的に説明する。説明にあたっては、ISO 9001の序文を中心に説明する。特にQMSのPDCAサイクル(方針管理)とプロセスのSDCAサイクル(日常管理)が、より明確になったことを説明する。
(c)社員への教育・訓練
要求事項の考え方とその意図を中心に置き、特に仕事との関係を示しながら解説する。
(d)内部監査員の教育・訓練
QMSのPDCAサイクルとプロセスのSDCAサイクルの知識及び有効性に関する監査技術の教育・訓練を実施する。
(e)規程類の改訂
今回の改訂では、品質マニュアルの作成及び6つの文書化要求事項は削除された。しかし、標準化の体系に基づいて要求事項に関連する規程類の見直しを行うことが大切である。
なお、品質マニュアルを作成する際には、要求事項の項番どおりに作成する必要はなく、事業プロセスとの統合を考慮して、事業活動の実態に合った構造にすることが効果的である。
(f)移行計画の作成
規格発行後、3年間で移行完了させる必要があるので、移行計画を早急に作成することが大切である。