毎年、箱根ホテル小涌園で年2回開催されてきた品質管理シンポジウムが、今年6月に100回目を迎えた。日科技連では、産業界に品質管理を普及・展開することの一環として、継続して開催してきたが、この積み重ねが、ある意味ではわが国の品質管理の歴史を物語っていると言っても過言ではない。
第1回の品質管理シンポジウムは、1965年(昭和40年)6月に開催され、テーマは「品質管理の導入・推進・定着」であった。昭和30年代に開発・展開された様々な品質管理の考え方や手法が、世界に先駆けてTQCとして集大成され、多くの企業に導入されていった。日本の高度経済成長期と重なり、大量生産による高品質な日本製品は、瞬く間に世界中に広まっていったのである。
この間、品質管理シンポジウムは、産業界に広く品質管理に関する今後の方向性を示す場として、企業経営者に大きな影響を与えてきた。企業を取り巻く環境は絶えず変化しており、顧客の要求・期待も一律ではない。こうした変化に的確に対応して、顧客の満足を獲得し続けることで、はじめて企業は持続的な成長が可能となる。品質管理は、企業が新たな顧客価値を創造し、生み出した価値を保証するための考え方・手法を提供してきたのである。
学と産の専門家が箱根に泊まり込み、熱のこもった議論を重ねてきたことが、新たな品質管理の考え方・手法の確立へと結びつき、企業での実践を通して日本の国際競争力を高めていった。品質管理は、第二次世界大戦後の復興から高度経済成長へと、まさに日本の発展を支えてきたのである。そして、半世紀に及ぶ品質管理シンポジウムの果たしてきた役割も、極めて大きなものであったことは論を俟たないであろう。これからの50年も、世界をリードできる日本発の品質管理が創出される場となっていくことを期待したい。
一方で、現在の日本を取り巻く環境はかつてないほど厳しさを増している。直近ではアベノミクス効果で企業業績も一部持ち直してはきたが、中長期的には、環境・エネルギー問題、少子高齢化、イノベーションへの取り組みなど、多くの課題を抱えている。また、製品安全に係わるリコール、医療事故、航空機・鉄道のインシデントなど、基本の徹底が出来ていないと思われる事故や事件が後を絶たない。
さらに、日本のホワイトカラーの生産性は、諸外国に比べて劣っているというデータもある。産業界の中でも主に製造業の現場で培われてきた品質管理の基本が、今まさに日本のあらゆる企業・組織に求められているのである。ところが、大変残念なことだが、組織的な品質管理の導入・実践は、極一部の企業・組織に留まっていることも厳然たる事実なのである。
1980年代、国際競争力が低下した米国は、日本のTQCの特長である「改善」「全員参加」などの状況を調査して自国に取り込んでいった。そして「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞」が設立され、製造業だけでなくサービス業、病院、学校、官公庁などあらゆる組織に品質管理の実践を奨励したのである。このことが、その後の米国の競争力回復の原動力になっていったと言われている。
現在の日本は、かつての米国のように、あらゆる組織に品質管理を普及して、その実践を促さなければならない状況にあると言える。今日まで、品質管理の普及・展開に取り組んできた組織は日本には数多く存在しており、日科技連もその代表的な一つである。1946年の創立以来、日本の品質管理の発展に中心的な存在としてその役割を果たしてきた。今後もその使命を果たし続けていくためには、環境変化に応じて、新たな分野に挑戦していかなければならない。今までのやり方を見直して、多くの他の組織との連携を図り、総合力として日本全体の底上げにつなげていきたいと思っている。
第100回記念品質管理シンポジウムにおいて、日本品質管理学会の大久保会長が、品質関係団体のアンブレラ的連合(JAQ(仮称)Japan Association for Quality)の形成を提唱された。非製造業および中小企業も含めた日本のあらゆる分野の企業・組織に品質管理を普及していくためにも必要なことと、日科技連、中部品質管理協会の立場からも賛同し、積極的に取り組んでいく所存である。オールジャパンで、品質の向上に努めていくことこそが、日本の明るい未来を約束できる唯一の道であると確信している。