日本品質管理学会会員の典型的な会員像
昨今、多くの学会で会員数減少が問題となっている。団塊世代会員の退職退会、少子化のため若い入会者が減ってきているなど、日本が抱える構造的な問題ももちろん大きな原因であろう。しかしながら、学会自体の努力で減少を食い止めるだけでなく、会員を増やしていくことができないだろうか。このような問題意識のもと、過去10年間の入退会者の分析を行ってみた。するといくつかの興味深い事実が明らかとなってきた。正会員の入会時年齢は平均46.7歳で、50歳代前半をピークとする一山分布、在籍期間は平均10.6年のきれいな指数分布となった。40歳代後半から50歳代前半、例えば品質管理部長などへの就任と同時に入会し、異動、退職などで退会、という平均的な会員像を描くことができる。学会全体で見ると、毎年1割の会員が入れ替わる。
30歳代入会者の特徴
入会時年齢で層別して分析したところ、30歳代の入会者だけに特徴的な傾向があることがわかった。全会員の約15%を占める30歳代入会者の在籍期間分布を調べてみると、半数は他の世代と同様の指数分布、半数は25年〜30年をピークとする正規分布が混合しているのである。つまり、30歳代で入会した会員の半数は異動などに伴い退会するが、残り半数は退職まで会員を続けていただいている。私達はこの現象を、「自らの立ち位置、プロフェッショナルとしてのあり方がほぼ明らかになってくる30歳代という時期に学会活動にコミットするようになると、退職するまで、言い換えるとその人が職業人として在り続けている間、学会というコミュニティーへの帰属意識を持ち続ける」と解釈できるのではないかと考えた。品質管理のプロフェッショナルたちのコミュニティーである日本品質管理学会にとって、このような会員を積極的に増やしていくことが今後の品質管理の発展に極めて重要である。翻って、学会の各種行事や出版物などを眺めてみると、そのような人たちのニーズに応えるものが極めて貧弱ではないか、と思い当たったのである。
イブニング・アカデミー
このような議論の中から、「イブニング・アカデミー」のアイデアが生まれてきた。この新しい試みは、初めて品質管理担当・推進担当となった30歳代の実務者を対象としている勉強会であり、サロンである。
市中には多くのセミナーが開かれているが、この「イブニング・アカデミー」はそれらとは一線を画すものにしたい。専門用語や公式を覚えて計算ができるようになるだけではなく、それらの背後にある思想や哲学、少し難しいかもしれないが理論的な背景まで、きちんと伝えたい。比較的少人数のゼミナール形式で、納得の行くまで質問しながら、骨太なエッセンスや全体像を獲得してもらいたい。参加者同士が事例を持ち寄り、講師とともに皆で考えながら理解を深め、すぐに実務で役に立つような実践的な中身としたい。講師からの一方通行の講義だけではなく、受講者も含めた双方向の交流を通じて、品質管理のプロフェッショナルの有機的なネットワークの核になってほしい。
理事を中心にこの提案をしたところ、多くの方からご賛同いただいた。実は、在京の大学・研究機関に所属する先生方からは既に10テーマ以上集まっていて、そのどれもが、大変興味深く面白そうなテーマだった。とはいえ、いくつかの懸念もある。そもそも30歳代の若手の人たちに、そのような勉強会やコミュニティーに参加して自分の専門性を高めたいというニーズが有るのだろうか。本人にニーズはあるかも知れないが、上司や会社が参加を認めてくれるだろうか。休暇扱いにして自腹で参加するとしても、それだけの時間を作る余裕が有るのだろうか。理事たちの結論は単純だった。まずは始めてみよう。うまく行かなければやめればいい。多くの会員が参加していただけるなら、テーマを増やしていこう。まずは東京で始めてみるが、手応えを感じたら、支部でも同じような企画を検討してもらおう。
「イブニング・アカデミー」は新しい試みであり、参加者とともに作り上げていきたいと考えている。是非積極的にご参加いただきたい。