標記規格の制定に際しては、日本品質管理学会(以下、学会)の会長である中條先生が原案作成委員会の委員長として全体のとりまとめをされた。筆者も委員の一人に加えていただいたことから制定の経緯と要点を紹介する。
品質管理に必須な要素を規格化し、社会に広く発信することは、学会の重要な使命と言える。今回「日常管理の指針」が、「品質管理用語」(2011年10月制定)に次ぐ2つ目の規格として制定された。学会として日常管理の重要性を改めて多くの企業、組織に発信したということに、大きな意義があると考えている。
原案作成委員会の第1回会合は2012年3月25日(日)に中央大学キャンパスで開催された。委員長である中條先生と8名の委員(専門家4名、企業4名)という構成であった。その後、ほぼ月1回(ほとんどが日曜日)のペースで開催、内容についての議論を重ね2012年12月の第9回会合をもって原案がほぼ完成した。
審議委員会は学会標準委員会の委員長である平林委員長のもと10名の委員で構成され2013年の5月までに計3回開催されている。この間パブリックコメントの募集も行われ、1か月間に31項目のコメントが寄せられた。
これらへの対応を協議するため第10回の原案作成委員会が2013年5月4日に開催され、その直後の同月7日の第3回審議委員会にてすべての審議が終了した。そして検討開始から約1年2ヶ月を経て、2013年5月22日に学会規格として正式に制定されたのである。
日常管理(SDCAサイクル)の意義および重要性については、論を俟たないであろう。ところが日常管理の理解についてはさまざまである。特に、「日常業務」と「日常管理」の違いを説明することは難しい。どちらも普段当たり前に使っている言葉のため、明確な使い分けがなされず同じ意味合いで用いられてしまうことが多い。
例えば営業部門では、新規顧客への訪問、販促イベントの開催、代金回収など、さまざまな業務があるが、一般的には業務の標準化は困難とされている。実際は少なからず標準(取り決め)があるはずなのだが・・・・・・。同様に、企画部門、開発・設計部門、サービス部門などでも、必ずしも標準を正しく理解しているとは限らないのである。
また多くの組織では、仕事のプロセスが定められている。それぞれが、「品質は工程でつくり込む(自工程完結)」「プロセス保証」を目指して取り組んでいる。こうしたことをより効果的・効率的に行う管理のシステムこそが日常管理なのであるが、そのように認識している人も少ない。
多くの人にとって、日常の業務は認識できても、日常管理が意識されることはあまりないのである。
また、日常管理では異常への気づきと対応が重要となる。このため、「異常」と「不適合」の違いを正しく認識しなければならない。本規格では、管理限界の意味するところを解説している。ここに品質管理の本質があり、問題発見(改善)につながる考え方が凝縮されている。また、異常の発生をすぐに共有するためには、何でも言える職場風土でなければならない。SDCAのサイクルを回すのは第一線のメンバーであり、人材育成と職場風土づくりに取り組まなければ、このサイクルは回らないのである。
「標準なくして改善なし」と言われるように、日常管理はすべての基本である。多くの企業、組織が、本規格を活用して、日常管理を一層充実、徹底させることで、パフォーマンスレベルの維持向上を図り、持続的成長を実現されることを願っている。微力ではあるが、本規格の制定に携わった一人として、その実現は密かな喜びとするところである。
学会では本規格の講習会を以下のとおり計画している。
・日時:9月18日(水)13:00〜17:00
・会場:日本科学技術連盟千駄ヶ谷本部3号館2階講堂
多くの方が日常管理への理解を深めていただければ幸いである。