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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2012年 12月 No.321

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■トピックス:サービス品質の見える化・ビジュアル化
■私の提言:作業標準書を通じた人づくり
・PDF版はこちらをクリックしてください →news321.pdf

トピックス
サービス品質の見える化・ビジュアル化

(有)サービス経営研究所 所長 金子 憲治

サービスの仕事や商品の最大の特徴は、製品やモノと違ってその内容や形が目に見えにくいことといえます。
 そのために買い手(お客さま)と売り手(サービス企業)、作り手(作業者)のコミュニケーションがうまくゆかないケースが多々あり、対策が必要です。

サービスは提供後には見える
 購入前に見えないサービスの内容が、サービスを受けて気に入れば良いのですが大きく期待を外れると不満足となり、時には失望となってお客様の脳裏にしっかりと記録されてしまいます。この時点で、サービスは「見えにくい」から「見えた」に変わります。
 顧客の不満足が続けばサービス提供企業は生き残ることができません。

サービス品質の見える化
 したがって、提供前にサービス品質の見える化ができれば、買い手の事前期待を明確にして、その期待値を実現するためのプロセス(ベストプラクティス)を見つけて確実に提供する手順が構築できます。
 幸いにも品質機能展開(QFD)の考え方を適用することでサービスの仕事や商品の機能と品質は明確に記述できます。サービスの対象顧客の最重要品質と期待するレベルを事前に把握することができます。
 購入前にサービスの内容が見えるようになれば、サービスを買う人にも大きな利点となります。なぜなら、安いからという理由だけでサービスを買うことはなくなり、売り手や作り手にサービス内容の注文をつけやすくなるからです。
 サービスを受けた時の事後評価が事前期待と合致して顧客の満足を保証できる仕組みができます。

サービス品質のビジュアル化
 サービス品質は人的対応を基本とするため、心がこもった誠実さや優しさなどが要求されます。買い手が要求する誠実さや優しさのレベルを、売り手と作り手が確実に理解することが必要です。しかし、従来の文字やイラストや静止画など紙面による作業手順書では人的対応や適時さの重要ポイントや期待レベルを的確に表現して伝達することに限界がありました。そこで、映像マニュアル(ビジュアルマニュアル)の開発が行われ仔細な映像・音声など具体的なイメージを駆使してそれらを表現し、伝達し、作り手(作業者)に理解してもらう手段が生まれました。
 例えば、ホテルフロントでの応対業務などのビジュアルマニュアルです。

見える化・ビジュアル化の効用
 これらのビジュアルマニュアルは、サービス提供プロセスをベストプラクティスとして標準化するための決め手となります。これで教育訓練を行うと短期間に新人を戦力化できます。作業指示のみならずマナーやルールの普及にも威力を発揮しています。
 また、事務・営業などの間接部門でもやるべきこと・やってはいけないことを明確に表すことにより日常管理の基礎となる業務の標準化が進みサービス品質の保証が実現できます。

見える化・ビジュアル化の国際化
 この10年間、日本科学技術連盟、日本規格協会、海外技術者研修協会(現・海外産業人材育成協会)などの国際セミナーやタイ、マレーシア、ベトナム、ブルネイなどでサービス品質の見える化・ビジュアル化のセミナーや支援を行ってきました。いろいろなサービス企業でビジュアルマニュアルが制作されて活用されてきました。
 この数年は、インド、中国において営業部門のプロセス改善の道具として注目され、来年はアメリカでのセミナーが計画されるなど関心が広がっています。

見える化・ビジュアル化の課題
 業務プロセス管理のツールとして、サービス企業はもちろんのこと、製造業においても製造現場の非製造部門の標準化などに普及されることが望まれます。
 また、サービス品質の見える化・ビジュアル化は、品質管理・映像技術・情報技術の3つの技術の融合が要求されるため各分野に精通した人たちの協働によってさらに強力なツールに成熟することが期待されます。


私の提言
作業標準書を通じた人づくり

(株)kanjie Associates 代表 田中 孝司

 最近は「見える化」というブームが起きているのかもしれない。
 このブームの背景には、「見える化」という手法を仕込むと企業内の改善活動を容易に進めることができる、という思い込みがあるのかもしれない。
 もともと「見える化」は標準化に向け可視化の要素を強めることによって、理解しやすくする取り組みといえる。
 本来の「見える化」の狙いは、標準作業を徹底するために見える化し、この標準作業をもとにして改善活動を進めていくことが基本となっているはずである。
 そして、現場でつくり込まれた作業標準書だから、本当に使えるものになっているはずである。
 “私、作業標準作る人、あなたは作業標準実践する人”という状況が生まれていないだろうか、という懸念がある。懸念であれば幸いだが。
 企業が改善活動に期待しているのは、もちろん品質面や業績面での向上もあるが、より大切なことは改善活動を通して人を育て、育った人が改善のサイクルを回し続けていける企業を築いていくことではないだろうか。
 改善活動と人づくり、言い換えれば標準作業を実践していく活動の中で人づくりを目指していく考えを研究していく必要があると感じ始めている。
 具体的には、作業標準書の作成過程に参画したメンバーは、作業標準書に記述されている内容(いわゆる形式知)を十分に理解できているし、記述に至った過程で討議された内容や経過、背景などの内容(いわゆる暗黙知)も理解している。
 作業標準書の作成過程に参画できなかったメンバーは、記述できなかったさまざまな知識(暗黙知)を、どのように習得していけばよいのだろうか。
 形式知化された作業標準書を基にして、本来身につけて欲しい組織の暗黙知習得へのヒント、方向性などを示すことができれば、メンバーの能力向上に大いに役立つだろう。
 作業標準書を通じての人づくりという取り組みを目指していくことが必要ではないだろうか。
 そのためには品質管理の教育内容に他の領域の研究、たとえばナレッジマネジメントや各種心理学、認知工学などを積極的に取り入れていく時代になってきているのではないだろうか。


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