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JSQCニューズ 2012年 8月 No.318

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■トピックス:「理想追求型QCストーリーの確立に向けて」
■私の提言:シューカツに思うこと
・PDF版はこちらをクリックしてください →news318.pdf

トピックス
「理想追求型QCストーリーの確立に向けて」

名古屋工業大学大学院 産業戦略工学専攻 加藤 雄一郎

 TQMとブランドマネジメント(BM)の融合はいま、新たな力を発揮しようとしています。それは、目的に基づく新規目標の継続的創造。「現状把握力」と「原因究明力」に関する深い知見を有するTQMは、BMとの出会いによって新たに「目標創造力」を高めようとしています。この実践を支える新たな思考技術が産声を上げるのはもう間もなくです。現状把握力、原因究明力、そして、目標創造力が三位一体になった時、最強の問題解決が本領を発揮すると確信しています。

一般的な問題解決の現状
 QCストーリーなど一般的な問題解決の思考手続きは、「はじめに既存目標ありき」という立場のもとで、その目標に達していない現状に焦点が当てられます。しかし、明日の事業を切り拓くという観点から見た時、達成すべき目標は所与なのでしょうか?私の問題意識の原点はここにあります。

ありたい姿はどこからやってくるのか
 TQMから「問題」と「課題」の違いを学び、目から鱗が落ちました。なるほど。問題とは、「既にある目標(あるべき姿)と現状のギャップ」であり、課題とは「これから新たに設定する目標(ありたい姿)と現状とのギャップ」なのですね。しかし、それならば新規目標(ありたい姿)というのは何処からやってくるのだろうか。何を根拠にありたい姿は設定されるのか。そのような新たな疑問が生まれました。

目標の上位には「目的」がある
 ありたい姿の登場方法がわからず悶々としていた中、「三人のレンガ積み」というお話に出会いました。ヒントは目的と目標の関係にありました。目標の上位には目的がある。目的さえあれば、次の目標は自ずと生まれる。この大原則が、「目的に基づく新規目標の継続的創造」に主眼を置いた理想追求型QCストーリーの根幹となっています。

将来ニーズづくりは顧客と共に
 最近のマーケティングでは、エンゲージメントというキーワードが注目されています。「婚約」ではなく、ブランドと顧客が深い絆を築き、両者の間に切っても切れない「われわれ意識」が形成されている状態をいいます。近年のヒット商品の傾向として「応援したくなる」という特徴があります。これはまさにブランドとの間に強く深いエンゲージメントがあるといえます。
 今日の複雑化・多様化・個別化した市場環境において、将来のニーズを捉えることは困難を極めています。次世代の要求品質は何か。この問いはもはや企業が単独で考えることではないと思っています。目的(ビジョン)に賛同する共感者とともに、新規目標(次世代要求品質)を編み出していくものなのではないでしょうか。
 将来のニーズは顧客自身も知らない可能性が高い。顧客が言えることは、現行パラダイムにおける「今のニーズ」にすぎない。「顧客にニーズを訊く」という姿勢ではなく、「顧客とともに、将来のニーズを創る」という姿勢が必要なのです。これを地で行く企業がいます。コマツです。幾度にも及ぶ対話を通じて、双方から見て魅力的な目的を作り、その実現に向けて両者が力を合わせて何を達成するか、という「目的と新規目標」を丁寧に詰めていきます。

目的に基づく新規目標の継続的創造。
理想追求型QCストーリーの確立に向けて
 BMはTQMから多くのことを学びました。特に、現状把握と原因究明に関する優れた方法論は衝撃をもたらしました。これからはBMの立場からTQMに恩返しをしていきたいと思っています。その象徴が理想追求型QCストーリーの確立です。事業に関わる人々の内発的動機付けをあますことなく引き出し、目的に基づき新規目標を継続的に創造するための新しい思考プロセスの確立を目指しています。今秋、この確立と普及を目指す研究会が発足します。ケースを積み上げ、また次の機会にご報告したいと思っております。研究会概要や進捗は下記研究室facebookでも発信して参ります。 www.facebook.com/brand.design.lab


私の提言
シューカツに思うこと

関西大学 経済学部 橋本 紀子

 少子・高齢化と人口減少の下で、日本の成長戦略は「人的資本」の充実以外には考えられない。
 このため近年、さまざまな教育に関する取り組みが行われている。しかし、それらは必ずしも目的に応じた成果に結びついていない。なぜだろうか。
 まだ大学教育が社会のニーズや変化のスピードに対応できていないという問題も残る。一方、すでにさまざまな教育改革が行われ、社会で必要とされる力を身につけるための工夫が行われているが、それが「現実」に即した学生のニーズに合わず受け入れられていない状況もある。大学や社会の考えるニーズ(正論、タテマエ)と学生のニーズの間にズレがあるからである。
 さて、最近の若者は元気がないという声をよく聞く。たしかに、促しても自分の意見を言う者は多くなく、課外行事を示しても興味を示す者は少ない。
 しかし、学生が発言しない、行動しないのは、それが得にならない(と思っている)からである。彼らが情報収集力に優れ、順応性が高く、極めて合理的に行動した証拠でもある。
 大学生にとって、何よりもシューカツは大事である。では、どんな学生が評価されるのだろうか。たとえば経団連が企業会員545社から回答を得た新卒採用に関するアンケート調査(2011年度)を見ると、重視されるのはコミュニケーション能力(80.2%)や協調性(55.0%)であり、論理性(25.6%)、専門性(21.7%)、創造性(14.0%)を大きく引き離している。語学力や学業成績はそれぞれ6.0%、5.4%しか考慮されていない。この「現実」(実際、このアンケート結果は、我々が感じている就職状況と合致している)を見れば、学生の行動を非難することはできない。
 このような状況で、たとえグローバル時代における問題解決能力について熱く語り、考える力を身につけようと訴えても、学生たちは冷静に自分にとって得な選択をしていくだろう。
 こう考えると、企業が人材育成の、教育の大きな鍵を握っていることがわかる。決して責任転嫁ではない。今後も、教育の場に立つ者は、長い目で見て役立つ知識やスキルを教授していく。一方、企業では、どうか真の意味で意欲的な学生を採用し、育てていただきたい。その両輪が回って始めて、これからの厳しい時代を日本が乗り越えていくことができる。


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