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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2012年 5月 No.316

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■トピックス:QMSの医療界への普及・促進の現状と将来
■私の提言:“SDCA”再考・再興・最高!
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トピックス
QMSの医療界への普及・促進の現状と将来

東京大学 水流 聡子

 医療サービスを国民全員が享受できるような国をつくるために、健康保険制度が1922年(大正11年)に制定、1927年(昭和2年)に施行、1961年(昭和36年)に国民皆保健が達成された。これによって医療サービスの大量生産と品質管理が必要となったといえる。同じ時期、1960年代の北米では、医療サービスを量的に充足させる段階から質を重視する段階に移行する必要性が提言され始め、アベディス・ドナベディアン(Avedis Donabedian)が、医療の質の定義と評価方法を、構造・プロセス・アウトカムの枠組みで提唱した。
 他方、医療安全については、米国医療の質委員会/医学研究所が著した「To Err is Human」が日本で翻訳出版された2000年以後、日本でも横浜市立大学病院で起こった患者取り違え事件をきっかけに、医療事故/医療安全に関する注目度が上がり、医療安全に対する病院内組織化、委員会や医療安全室の設置、などが展開されるようになった。2012年現在、多くの病院では、医療安全管理室や管理者を設置しているが、医療品質管理部・医療品質管理者、にまでは至っていないのが現実であろう。わが国ではこの10年間に、医療安全に対する組織化・諸活動が各病院で普及・促進されていったが、医療の質マネジメントについては未だ弱い状況といえる。
 病院機能評価という観点で、外部機関による評価が普及していった。典型的なものは、日本医療機能評価機構(1995年設立)による病院機能評価事業(1997年開始)である。規模の大きな病院・公立公的病院・地域基幹病院がこぞってこの病院機能評価を受審し、認証される努力を続けた。病院機能評価事業の認定基準は、医療QMSモデルのひとつといえるかもしれないが、病院や医療者は医療QMSモデルだと認識していない場合が多いと考えられる。
 近年、医療の質向上に積極的な病院では、国内の病院機能評価事業の認証から、国際的な認証であるJCI(Joint Commission International)から認証取得しようとする動きが始まっている。JCIとは、米国のデファクトスタンダードとなった医療機関評価認証合同委員会JCAHO(Joint Commission on Accreditaion of Healthcare Organizations)の評価基準から発展し,1989年から外国の審査/認定を行っている国際版の病院機能評価である。審査は、1000を越える広範な審査項目が文書として規定され、さらにそれがどのように実践・評価・改善されているかというPDCAサイクルを、病院スタッフ、患者等に対するインタビューなどによって確認評価するという方法で行われる。
 国際的な質保証・質マネジメントの認証規格としてISO9001があるが、その取得病院数は、国内では約9000件存在する病院のうちの数百にとどまり、取得した病院でもQMSの形骸化が問題となっているところもある。ISO9001は、あらゆる産業・事業に適用可能なQMSモデルとして開発されているため、抽象度が高く、当該規格を病院にあてはめた場合の条件特定/具現化がむずかしいと感じる病院・医療者が多数存在するようである。その点、日本の病院機能評価やJCIは、医療に特化しているため、受け入れられやすいのかもしれない。医療への質要求が高まっているアジアの大規模病院でもこぞってJCI取得をめざすところが多くなってきている。
 医療QMSにおける標準化とプロセス管理を考えた場合、臨床プロセスと業務プロセスを意識する必要があり、両者の設計には「状態適応」という医療の特性を組み込む必要がある。著者に対して、JCI認証取得をめざしている某病院の担当者が、JCI認証にPCAPS(患者状態適応型パスシステム)が貢献する可能性があると発言したことは興味深い。JCIは、プロセス管理の対象として、臨床プロセスと業務プロセスの両者を設定することを求めている可能性がある。国際的な医療の質評価には、両プロセスの質管理が求められているといえるのかもしれない。
 以上、国際的にみても、医療界がQMSを必要としている状況にある。よりよい医療QMSモデルの開発、普及/促進の方法論開発、推進活動の支援が、品質管理学会に求められているといえるのではないだろうか。


私の提言
“SDCA”再考・再興・最高!

トヨタ自動車(株)(中部品質管理協会) 古谷 健夫

 最近あちこちで「SDCAを知っていますか?」と尋ねている。残念なことに、ほとんどの人が「知りません」と答える。PDCAと比べて、あまりにもギャップが大き過ぎるのではないかと感じている。
 問題解決は、その重要性が認識され、学校教育にも順次導入されてきた。PDCAの考え方をベースに、自ら考えて行動できる人材を育成することは、確かにこれからの我が国にとって必要なことだ。ところが、どのような組織でも、何が問題なのか、問題解決の前提として問題を発見する力が、先ずは必要とされる。
 組織に属するほとんどの人は、分掌業務によって規定される業務に携わっている。そして毎日の業務遂行の中で、様々なことに遭遇する。「不良品が増えた」「異音がする」「やり直しが生じた」「お客様が少なくなった」などから「今日は顔色が悪い」まで、まさに千差万別。これらに共通することは「いつもと違う」という異常への気付きなのである。異常なのか正常なのか、その判断の拠り所となるものが標準であり、S(Standardize)‐D‐C‐Aは問題発見のマネジメントサイクルと位置付けられる。問題解決のサイクルであるPDCAとは区別して考えたい。
 現在、お客様にご満足いただいている価値は、日常の業務プロセスから生み出される。日常業務こそ価値の源泉であり、事業の継続性を担保する重要な役割を担っている。ところが、組織の内外に潜む様々な要因に生じる、ばらつき・変化は、提供する価値に大きな影響を及ぼす。ばらつき・変化にいち早く気付いて、的確に対応(改善)できるのかどうか、組織の力が問われている。
 また日頃から、お客様に応対しているメンバーは、お客様の期待や嗜好の変化を敏感に感じ取っている。「いつもと違う」という異常への気付きが、将来のお客様への価値創造にもつながっていくのである。
 このようにSDCAのサイクル(日常管理)は極めて重要なのだが、地味で目立たない。我が国のものづくり力が低下したと言われて久しいが、種々の問題の背景には、SDCAが回っていなかったことも大きな要因ではないかと考えている。
 SDCAの再興によって、多くの組織に活力が漲り、発展していくことを願って止まない。SDCA最高!


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