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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2011年 6月 No.309

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■トピックス:中国におけるソフトウェア品質管理への意識の高まり
■私の提言:医療の質マネジメントにおける工学技術開発の必要性と重要性
・PDF版はこちらをクリックしてください →news309.pdf

トピックス
中国におけるソフトウェア品質管理への意識の高まり

(株)東芝 ソフトウェア技術センター 小笠原 秀人

 昨年12月、SQuBOKの中国語版完成を機会に、SQuBOKの宣伝および日本のソフトウェア品質管理の普及・展開を目的に、中国・上海で開催されたソフトウェア品質関連のシンポジウムへ参加するとともに、日科技連SQiPで提供している「ソフトウェア品質技術者初級セミナー」を開催してきました。

 SQuBOKガイド(Guide to the Software Quality Body of Knowledge:スクボックと読む)は、ソフトウェア品質に焦点をあてた、これらの概念と方法論に関わる知識体系へのアクセス手段となっています。これは、日科技連SQiP(Software Quality Profession)と日本品質管理学会ソフトウェア部会との合同部会の形で活動が進められ、多くの方々の協力を得て、2007年に発行されました。
  SQiPでは、このSQuBOKを日本だけにとどまらず、世界に広げるという目的を持って活動を続けています。それは、日本におけるソフトウェア品質技術を広く知ってもらい、活用してもらうことによって、高品質なソフトウェア開発に貢献できると考えているからです。
 このSQuBOKですが、世界に発信する最初の一歩として、今まで以上にパートナーシップを強固にして進んでいかなければいけない中国で発行しました。
 訪中1日目、2日目のシンポジウムでは、東京大学の飯塚悦功氏による「プロセス改善の基本」と電気通信大学の西康晴氏による「SQuBOKでビジネスに勝つ!」の2つの講演を行いました。
  参加者は約300名で、満員札止めという状態でした。これは、中国におけるソフトウェア品質管理に対する意識の高まりを現していると思います。

 また、このシンポジウムの期間中、上海地区での1年間の取り組みに対する表彰や優秀論文の表彰も行われていました。配布されたプロシーディングスは中国語だったので詳細な内容は理解できませんでしたが、章構成や図表を見ると、ソフトウェア品質管理に対する活動がかなり積極的に行われており、データによる分析なども着実に進んでいるという印象を受けました。

 訪中3日目、4日目は、SQiPで提供している「ソフトウェア品質技術者初級セミナー」を開催しました。当初、人が集まるのかと心配しましたが、有料セミナーにもかかわらず、定員一杯の約30名の参加がありました。
 セミナーでは、マネジメント概論、レビュー技法、テスト技法、メトリクスの講義を実施しました。すべてのセッションで活発な質疑応答がありました。最後の講義が終わったあと、セミナー全般をとおした質疑応答の中で、「ソフトウェアの品質管理に未来はありますか?」という質問がありました。ソフトウェア品質管理活動に悩み、苦戦し、実践していることの裏返しの質問だろうと思い、とても印象的でした。
  この質問に対しては、西氏が、開発プロセスに関する基本的な考え方や日本における品質管理の歴史などを説明したうえで、自分たちの開発プロセスをさらに進化・発展をさせるためには「ソフトウェアの品質管理こそ未来です」と回答しました。この回答には、多くの出席者が大きくうなずいていました。何かを持ち帰ってもらえたセミナーになったと思います。

 シンポジウムへの参加、セミナー開催をとおして、中国におけるソフトウェア品質管理に対する意識の高さを実感しました。世界に対し、アジアにおけるソフトウェア開発能力の高さを示すためにも、日本と中国は今まで以上に密接な取り組みをしなければいけないと思います。我々の経験を伝え、お互いに学び、成長・発展していきましょう。

 ここで紹介した概要は、以下のサイトから参照できます。
SQiP:ソフトウェア品質のホンネ
http://www.juse-sqip.jp/honne/index.html



私の提言
医療の質マネジメントにおける工学技術開発の必要性と重要性

東京大学 水流 聡子

 医療は高度複雑なサービスである。医療を提供している臨床現場では、患者状態の認識技術と、患者状態を変化させる医療介入技術を、患者状態適応型で設計・生産・提供して、目標とする患者状態に到達させる。患者状態の認識レベルが本来わかり得るレベル(標準)まで到達できなかった場合、目標とする患者状態の判断を誤ることになり、目標状態に到達するために用いる手段の選択や投入量を誤ることになる。状態認識レベルが正しくとも、本来目標状態として設定できるレベルを誤った場合には、選択する手段は最初から一定の誤りを有していることになる。次に、患者状態の認識と目標状態が正しく、それにもとづく手段も正しく選択されたとしても、当該手段を計画通りに実施することができなかった場合、設定した目標状態に到達困難な状態となる。さらに計画実施時には生体侵襲のある医療介入の実施による問題となる患者状態が発生する可能性があるため、それらを状態監視し、必要時未然防止のための効果的な介入を行うことが、計画内に組みこまれ適宜実施されるしくみを有していないと、実際には困難となりやすい。
 このように臨床における質を追求していったとき、医療の業務プロセス設計時に、医療業務の特性を強く意識する必要があることが理解できる。医療サービスの研究をとおして以下の医療の7つの特徴を導出した。(1)患者個別性がある、(2)患者状態が変化する、(3)侵襲・苦痛を伴う、(4)やり直しが利かない、(5)緊急性がある、(6)専門性を要する、(7)職能別組織によって行われる。
 以上から、医療の質マネジメントには精緻な観点と実現するための緻密な管理技術が必要とされており、工学的観点からの医療サービスの設計と提供のための理論化が必要と思われる。このような研究をすすめ、現実社会に実装していくことで、医療を社会技術とすることが可能となる。
 他方これらの知識は、社会に存在する様々な活動に関して状態適応型記述モデルとして、また異常状態・病的状態となった組織活動を正常状態・健全な状態に移行させていく際の戦略モデルを構築し利用・運用する際の貴重な知識基盤として、最適な構造と標準コンテンツを与えてくれる可能性を秘めている。質マネジメント工学における「医療」という素材の価値を再認識したいと考える。


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