2002年ヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」において、世界各国は、化学物質の生産や使用による人の健康及び環境への悪影響を2020年までに最小化することを合意しました。
このWSSD合意を受けて最初に動いたのはEUです。2007年に、EU域内で年間1トン以上製造・輸入される原則すべての化学物質を対象とする「REACH」と呼ばれる規制が発効しました。
一方日本でも、2009年に化学物質審査規制法(化審法)が改正され、年間1トン以上製造・輸入される原則すべての化学物質について、製造・輸入量等により優先順位をつけながらハザード情報の収集やリスク評価等を行うこととされました。さらに、日欧に続いて米国においても、現在、TSCAと呼ばれる有害物質規制法の改正強化の検討が議会で進められています。
こうした世界の動きのなかで、今年(2011年)は制度が大きく変わる節目の年となります。本年4月には改正化審法が本格施行され、年間1トン以上の製造・輸入を行った原則すべての化学物質について、その製造・輸入量や用途を届出る義務が生じます。
また、REACHは既に段階的に施行がはじまっていますが、本年6月には製品含有化学物質への規制がはじまります。すなわち、製品中に含まれる有害性高懸念物質(SVHC)が重量比で0.1%以上含まれ、年間1トン以上が製造・輸入される場合には届出が義務づけられることになります。
これまでの世界の化学物質規制は、新たに開発された「新規化学物質」の上市前の安全審査規制に重点が置かれていたように思われます。
しかし近年、化学物質が人や環境に与えるリスクを科学的・定量的に捉えて削減する規制へと考え方が変わってきました。人や環境に与える「リスク削減」の観点からすれば、現に社会で大量に流通・使用されている「既存化学物質」対策に規制の重点を拡げるべきとの考え方に変わっています。
また、ユーザーへのハザード情報の伝達義務や、製品中の含有化学物質に対する規制など、上流の化学企業にとどまらずサプライチェーン全体の化学物質管理対策を強化することで、人や環境に対するリスクを削減していくことが重要視される方向にあります。
こうした変化は、今後の化学物質管理対策が、(対象物質数の増とサプライチェーン全体への拡がりという意味で)縦と横に大きく拡がることを意味していると思います。
そしてそれは同時に、化学物質管理規制の対象が、従来の上流の化学企業のみにとどまらず、中小企業を含むサプライチェーン上の企業すべてに拡がる方向にあることを意味しています。
特に、ヨーロッパとのビジネスを行う企業にとっては、自社で調達する資材・部材にどのような化学物質が含まれているかを十分管理しないと本年6月からの製品含有化学物質の規制に対応することができなくなります。さらにこうした規制の動きは、将来的にはヨーロッパ以外の国々にも広がる可能性もあると思われます。
したがって、これからの企業内における化学物質管理対策業務は、従来の環境管理部門に閉じた業務から、材料の調達管理から製品の製造管理、販売管理情報と統合された、まさにビジネスと一体となった化学物質情報システム管理業務へと変革する必要があります。さらに、サプライチェーンの企業間においては、ビジネス取引と同時に、売買する材料や製品中の化学物質についての膨大な情報をやり取りする必要が生じて来ると思われます。
このため、これから社会で流通するであろう膨大な量の化学物質の情報交換を効率化するために、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)のMSDSplusやAISと呼ばれる情報伝達プラットフォームの普及を促進していく必要があると考えています。こうした化学物質情報伝達手段の普及を進めることが、アジア域内を含むこれからのビジネスインフラとして非常に重要になってくると考えています。