品質月間の意義
毎年、10月は工業標準化推進月間で、続く11月が品質月間です。2010年で第51回目を迎える品質月間ですが、2007年の品質月間からSDCAサイクルの重要性を強調してきました。
それは、維持管理と改善管理の繰り返しによって確実な品質向上が図られるからです。アジア諸国の製品品質は、日本のそれと比して遜色ないといわれていますが、果たして本当でしょうか。日本の品質は本物品質ですが、日本以外のアジア諸国の品質は、そこそこ品質ではないでしょうか。
「創造の手段は模倣である。ただし、それは結果の模倣ではなく、プロセスの模倣である」とは、湯川秀樹博士の言葉ですが、日本のモノづくりでは、SDCAサイクルとPDCAサイクルを繰り返すプロセスを着実に実行して日本品質を実現したのではないでしょうか。
一方で、品質月間活動によって一般消費者に、品質の重要性を理解して頂き、一般消費者の品質に対する厳しい目によって、日本品質が実現したのです。ここに品質月間活動の必要性があると思います。
品質の原点
第51回目を迎える品質月間のテーマは「品質の原点にかえり 先駆者の知恵に学ぶ」に決まりました。品質月間委員会では「品質の原点」とは何かという議論がされました。第50回目の品質月間テーマでは「今、あなたにとって品質は?」という投げかけのテーマも考えました。
これは、「品質」について議論がされていないのではないかという懸念からの発想です。何故、石川馨博士が品質管理月間とはせずに品質月間としたのかについても関連します。
近藤良夫博士の『品質とモチベーション』の中に、「W. A. シューハートは、1931年に品質を(1)人間の存在に無関係な客観的実存、(2)客観的実存の結果として我々が思い、感じ又は知覚する主観的実存、とに分類した」という記述があります。
品質は価値ある何かなのか、品質にコストはあるのか、品質は安全より優先すべきことなのか、品質と納期とを比較すべき事柄であるのか、そもそも品質とは何かを考える機会が品質月間なのではないでしょうか。
先駆者の知恵
経験経済という考え方がありますが、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉もあります。過去の苦い経験は、素晴らしい知恵を残してくれます。
温故知新は「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知らば、以(もっ)て師と為すべし」という言葉からきており、前半部分の「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る」という解釈が普通ですが、「故(ふる)きを温(あたた)めて新しきを知る」という解釈もあります。
教育の育は「はぐくむ」という字ですが、親鳥が卵を羽で包み、卵を温めるという意味です。先人の知識を自らのものとするためには、「学びて思わざれば則ち罔し」という言葉にあるように、「思う」ことが大切なのではないでしょうか。この思うということが温めることだと思います。
このようなことから、第51回目の品質月間テキストNo. 373は朝香鐡一博士に執筆を頂きました。このテキストは三田征史氏と田中貢氏のご尽力によって実現されたものですが、副題に「先駆者からのメッセージ」とあります。
このテキストのまえがきに「消費者に喜んで買ってもらえる製品を生み出す「品質保証」とその手段である「品質管理」は、トップの強力なリーダーシップと、それを支える部課長の考えと行動が不可欠であり、極めて重要であることは、時代が変わっても不変であります」という一文があります。
半世紀を超えた、第51回目の品質月間を機に、品質管理と品質保証の違い、品質と「質」の違い、そして、そもそも品質とは何か、品質管理活動の意義は何か、などについて、課内で、社内で、公の場で議論してみてはいかがでしょうか。