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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2010年 9月 No.303

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■トピックス:設計開発における再発防止・未然防止のための知識マネジメント
■私の提言:今こそよみがえれ日本的経営
・PDF版はこちらをクリックしてください →news303.pdf

■ トピックス
  設計開発における再発防止・未然防止のための知識マネジメント

(株)構造化知識研究所 代表取締役 田村 泰彦

 不具合の未然防止には豊富な知識が必要である。FMEAやFTAなどの手法はよく知られているが、不具合を予測し設計で対策を取るための知識がなければ、これら手法の効果的な運用は難しい。設計開発を取り巻く状況が厳しくなる中、設計品質を確保するために、知識マネジメントの質を高めることが重要である。

不具合を防止する固有技術の不足
  製品不具合が新聞・テレビで報道され、日本の品質管理力の低下がしばしば指摘されている。これら不具合のなかには設計開発のまずさに起因するものもある。機能、安全性、信頼性、製造容易性などの多様な観点から技術仕様を導出する設計開発現場の品質管理力は、本当に過去に比べて“低下”しているのだろうか。設計開発環境が厳しいなか、妥当性の高い技術仕様を決めることが今まで以上に難しくなっているにも関わらず、それにあわせて現場の技術力を十分に高められていないことが問題だと筆者は感じている。
 製品の複雑化、多機能化、使用環境の多様化、開発期間短縮、コストダウン等に伴い、設計不具合を防ぐために技術者が知っておくべき技術要素や使用条件の知識は膨大に増えている。その一方、設計開発の現場では、ノウハウを豊富にもつ団塊世代の技術者・マネジャーの退職が進み、また即戦力の派遣スタッフの参画による人材流動の高まりによって、現場で知識を蓄積し、不具合を防止する固有技術を増強することが難しくなっている。この状況で起きる設計不具合に対し、「デザインレビューが機能していない」と管理技術の問題を過大に指摘することは適切ではない。無理な設計をして検討すべき事柄が多いなか、ひとによっては常識と思われる個々の不具合を防止する設計・評価技術(固有技術)が、社内のあちこちで不足しているのである。
知識マネジメントの重要性
 このような背景もあり、不具合を防止する知識マネジメントの重要性が増している。再利用性の高い知識を体系化し、それを適切に現場に提供する仕組みを作り、不具合を防止する固有技術を高めるのである。「技術は人についてくる」といわれるが、少なくとも不具合の再発防止・未然防止のための知識は、その性質上、組織にしっかりついてくるようにしなければ、組織の技術力を底上げできない。
  再発防止知識の運用は、不具合発生が出発点である。この場合、読者諸兄はご存知の通り、「どのアイテムで発生するどのような事象を再びどこで発生させないようにどんな教訓を残すのか?」という知識運用の方針を明確にすることが大切である。しかし実際の不具合情報は当該製品への暫定対策の記録であったり、当該部署の当該部署による当該部署のための再発防止事例になっていて、会社全体として再発防止できるはずの望ましくない技術事象が別の部署で再発している場合がある。発生した技術事象の知識をモジュール化・一般化し、再発防止策を対応付け、複数部署間での共有・活用を徹底できる知識ベースにしておきたい。
 未然防止知識の運用は簡単ではない。大なり小なり設計には新規性がある。過去の設計標準に頼るだけでは未然防止を徹底できない場合が多く、ドラフト仕様の問題点摘出と予防処置の試行錯誤のプロセスによって出来る限り最適な技術仕様にしてゆく必要がある。このためには、FMEAやFTAなどのリスク解析手法は有効だが、技術者に考えさせる知識がなければ形骸化する。各設計分野の技術要素における一般不具合知識や過去のFMEA表やFT図などの内容を一元的に知識ベース化し、様々な設計での不具合予測に使えるようにしておくことが大切である。
  知識は、それを使う現場の文脈で役立つものでなければならない。即ち知識は活用の場を広げるとともにその限界を考慮する必要がある。使える知識ベースを運用することは容易ではないが、知識ベースを運用できれば、不具合を防止する技術はかなり向上する。
学会からの情報発信
 JSQCでは、知識マネジメント研究が行なわれている。筆者が取り組んでいる知識の構造化アプローチもその一つである。品質誌、研究発表会、JSQC選書などを通じて関心を高め、実務に取り入れて頂ければ幸いである。



■私の提言
  今こそよみがえれ日本的経営

オリンパスメディカルシステムズ(株) 常勤監査役 松浦 強

 リーマンショック以降7割経済といわれる程までに回復傾向の日本経済だったが、ギリシャ経済危機に端を発した景気の二番底リスクが懸念される状況である。周知のように我が国は“失われた10年”と言われたここ十数年間、製造拠点のアジアシフト、国内での雇用環境の悪化に伴う製造現場での活力の落ち込みといった負の連鎖から中々脱却できない状況である。また少子高齢化が加速し、若者の理系離れは次世代を担うべき技術者育成という観点からは大変深刻な課題である。一方、現況のデフレ経済下での金融資本主義への懐疑、BRICSに続くMENAに代表されるような新興国市場の勃興と喫緊の課題である地球環境問題への対応など、新たな競争力のある経営への質的転換が迫られていることは申すまでもないことである。
 このような厳しい経営環境においてこそ、あらためて歴史を振り返り、虚心坦懐に日本的経営の強みを活かすことが大事であると思う。何といっても日本的経営は“品質第一のものづくり”であり、これらの基本は中長期視点での人づくりである。同時に新興国需要、BOPビジネスの出現など新たな局面での成長戦略のコアとなる技術イノベーションによる新事業創成が欠かせない。そのためにはグローバルかつ顧客の視点にて製品、サービスの品質のみならず企業価値の源泉となる研究開発段階から市場まで一貫したバリューチェーンでの経営全体のトータルクオリティを高める改革が不可欠である。
  現在、強い閉塞感が漂う我が国であるが、全体を俯瞰すれば世界経済は西洋から東洋への大きな潮流に沿った転換期である。明治時代以降の強い危機感をばねとして脈々と先人達から引き継いだものづくりを基盤として、今日まで弛みない努力の結果、経済的にも文化的にも豊かになったことは諸外国から見れば羨ましい限りであろう。グローバリゼーションにおける創造的破壊は、リーダが熱い想いを持ち、日本的経営の特質を活かした改革を本気で日々実践できる現場力を涵養することが原点ではなかろうか。かつて日本的経営をベンチマークしたP.Fドラッカーが、強い組織とは「一人ひとりが考えて学習する組織である」と言っていることは、日々のマネジメント面から大いに教訓に値する。今こそ、リーダ自ら“悲観の中に楽観あり”の気概で内外の変化へ果敢に行動するのみである。


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