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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2010年 3月 No.299

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■トピックス:原子力発電の安全性と品質管理
■私の提言:品質教育で日本のモノづくり再興を
・PDF版はこちらをクリックしてください →news299.pdf

■ トピックス
  原子力発電の安全性と品質管理

原子力安全特別委員会 委員長 中條 武志

 原子力発電の安全性を確保するために、品質管理の分野からの積極的な貢献が期待されている。

原子力発電の安全性を脅かすもの
 昨年の終わりは、柏崎原子力発電所の運転再開、玄海原子力発電所におけるプルサーマル営業運転の開始など、原子力発電に関する話題が多かった。そんな中、色々なところで原子力発電の安全性について議論が交わされている。しかし、品質管理屋の目から見ると、論点がずれているように感じることも少なくない。
 日本の原子力発電のトラブル件数は確実に減少しており、技術的な要因によるトラブルは着実に少なくなっている。一方、人に起因するトラブルについてはほとんどその数が変わっていない。高速増殖炉もんじゅのナトリウム漏洩事故、輸入MOX燃料ペレットの出荷検査データの捏造、ウラン加工工場臨界事故、タービン建屋復水配管破損事故など、近年の原子力発電に関する事故・不祥事を見ても、その殆どは人の意図しないエラーや意図的な不遵守に起因するものである。
 このような現状を受けて、2003年に原子炉等規制法に基づく実用炉規則が改正・施行され、品質マネジメントシステムの確立が求められるようになった。しかし、現場の実態を見ると形式が先行し、必ずしも有効に機能しているとは言えない部分もある。
 原子力発電所の安全性を確保するために、人に起因するトラブルをいかに防ぐか、この点に関する研究・実践が求められている。
原子力安全特別委員会の設置
 JSQCでは2007年より「原子力安全特別委員会」を設けている。その主な活動は、(1)日本原子力学会ヒューマンマシンシステム部会/社会環境部会などと共催による「原子力発電の安全管理と社会環境に関するワークショップ」の開催(毎年3月と9月)、(2)原子力安全基盤機構による「原子力安全に関する技術マップ」作成への協力、(3)総合資源エネルギー調査会の安全管理技術評価ワーキンググループ、日本電気協会の原子力規格委員会品質保証分科会、日本原子力学会の返還廃棄物確認分科会や地層処分対象放射性廃棄物品質マネジメント特別専門委員会への参加、などである。
  このうち、(2)については、ねらいを(a)原子力施設の安全性を確保する、(b)原子力発電に対する国民の信頼を獲得する、の二つに分けた上で、それぞれを達成するために必要な要素技術を系統的に展開し、既存の研究成果を整理している。例えば、(a)については、業務の標準化、業務に関する知識・技能の教育訓練、トラブル予測とリスク評価、エラー対策、ルール不遵守・違反行動の防止、目標・方針の策定・展開・管理、小集団改善活動、マネジメントシステムの評価・改善などが要素技術としてあがっている。また、このような議論・整理の中から、電力事業者が品質マネジメントシステムを適切に運用していることを規制当局がどのように評価・指導していくか、国民の信頼感を得るためにどのような情報発信やコミュニケーションが必要かなどの点について研究が必要なこともわかってきた。
品質管理分野からの貢献
 原子力発電の安全性を確保する上で、原子力発電に関する技術的なバックボーンがしっかりしていることは重要である。この部分については、原子力分野の長年の研究・実践によって着実に成果があがっている。
  反面、このような技術に基づいて決められた業務を確実に実施できなければ、どんなにすばらしい技術であっても絵に描いた餅にしかならない。原子力発電という巨大で複雑なシステムを、協力業者を含めた多数の人が運転・保守している中で、この当たり前のことをいかに確実に行えるようにするかが課題となっている。
  製造業の分野で発展してきた品質管理の考え方・方法論を活用することが必要であり、まさにこの面において品質管理の分野からの積極的な貢献が期待されている。



■私の提言
  品質教育で日本のモノづくり再興を

クラリオン株式会社 皆川 昭一

 昨今、日本製品のリコール問題がマスコミに取り上げられるたびに品質神話の危機が叫ばれている。技術、製品システムの高度化に対して結果として品質保証が十分に機能しなかったことへの真摯な振り返りは必要であろう。例えば、グローバル・オペレーションにおける品質確保の課題などが再検討の対象となる。
 従来、国内での開発・生産において、日本人同士は暗黙知を共通基盤として業務システムの不備を補ってきた。企業活動の海外現地化は、言葉の問題もあり、業務マニュアルの整備から始めるとされているが、“すべきこと”と、“してはならないこと”を明示すると共に、“何故そうでなければならないのか”という理由を根拠に遡って教え、いつも見える状況に置くなどして、マニュアルに書かれていない状況への対処に於いても、大きな間違いを起こさない仕組みを作る必要がある。
 振り返って考えると、日本においても若者への品質教育には同様な配慮が必要となっている。すなわち、過去培ってきた技術を伝承する際にすべきことの背景と因果関係を理解させる努力が必要である。メーカー各社の技術資産である“過去トラ”情報もトラブル事象の本質を理解させなければ再発防止に結びつかない。
 一方、日本の若者の考える力や問題解決力の不足が懸念されている。
 過去には会社が提供した答えに従って規定路線上を一生懸命頑張る社員が必要とされた。そのため、答えを暗記する勉強法で試験を勝ち抜いてきた若者が“なぜ”を求めないという風潮になっているのではないか。
 現在は自ら考え抜いて答えを創造する総合的人材力を持つ社員が求められており、グローバルな企業環境に投げ込まれる若者にはあらかじめ十分な教育を施し、競争能力を与えてやる必要がある。そのため長期的に見れば小・中・高校で問題解決能力の育成を目指し統計教育の強化を進めるとの学習指導要領の改定は歓迎すべきであり、本学会もその推進に協力する立場をとっている。
 ともあれ、今こそ若い力を信じ、日本の未来を託すために、品質管理手法を活用してグローバルに通用する能力を育成するしくみを作る努力を進めるべきではないだろうか。今ならまだ間に合うと信ずるものである。


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