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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2010年 2月 No.298

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■トピックス:統計教育の必修化について〜問題解決力向上への学習指導要領改訂
■私の提言:夢と希望に満ち溢れた「究極的なありたい姿」が企業にさらなる飛躍をもたらす
・PDF版はこちらをクリックしてください →news298.pdf

■ トピックス
  統計教育の必修化について〜問題解決力向上への学習指導要領改訂

東洋大学 渡辺 美智子
 科学技術および産業技術の革新を担う人材育成の重要性は広く国際的に認知されており、そのための初等中等教育から高等教育に至る理数教育推進の方向性は、どの国においても明確に位置付けられている。日本でも、小中学校から高校に至る初等中等教育の指針となる学習指導要領が昨年度改訂され、その重要な柱の一つに理数教育の充実が挙げられた。

1.新しい学習指導要領と統計教育
 その改訂のポイントとして、統計に関する内容の必修化と知識・技能を活用する学習や探究する学習の重視が明記され、現行の学習指導要領では小学6年生で平均の計算の仕方を教える程度でほとんど取扱われていなかった統計に関する内容が、約30年ぶりに充実の方向に向かったことになる。具体的には、小学校算数で、図・表・グラフが取り扱われる「数量関係」領域が1年生から位置付けられ、中学校では、統計と確率を扱う「資料の活用」領域が新たに設置された。さらに、高校の数ソ(必履修)の中に、「データの分析」という単元が設けられたことで、小中高と一貫してすべての生徒がグラフやデータ分析を通した系統的な統計教育を受ける環境が整ったことになる。
2.問題解決力の育成を目指した新しい統計教育の枠組み
 学習指導要領では、旧来の計算練習ではない、データに基づく科学的な問題解決力をコンピテンシー(態度)として定着させる、新しい枠組みの下での統計教育を謳っている。統計教育の方法の刷新は、国際的には20年ほどまえから行われており、そこでは、計算方法と手順を教えることが主であった旧来の教育法から離れて、統計的思考力(Statistical Thinking)を科学・産業の発展のための第3の腕(the third arm:無くても生きる上で困らないが、あると飛躍的に効率があがる手段)として位置付け、その育成こそが重要としている。そのため、学校教育の早期より、生徒に、身の回りの課題や問題の解決にデータを結びつけて思考させ、解釈させ、更に新しい仮説の創造に至る大きな流れを繰り返し経験させる教育方法を採用している。
3.品質管理教育を実践する海外の統計教育
 最近の統計教育研究でも、統計的思考力の涵養は、実証分析を行う研究者や技術者が日常行っている問題解決のためのサイクル:
(@)課題の発見
(A)統計的なデータの問題への帰着;何を測定すべきか?
(B)データの収集
(C)データの記述と分析
(D)結果の統計的解釈
(E)解釈された結果をもとの課題の文脈で考察し、他人に伝えること
(F)結果に基づくアクション(予測、標準化、管理など)の想定
を学年や生徒個人の統計スキルのレベルと関心に応じて主体的に経験させる、問題解決型のプロジェクト学習によって達成されるとしており、実際に、アメリカ、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、カナダなどでは、小学校から高校に至る各学年のカリキュラムやガイドラインで、このサイクル PPDAC::Problem→Plan→Data→ Analysis →Conclusionが分かり易く明記され、その流れに沿った実践的な指導が1990年代以降、継続的に行われている。
  このサイクルは勿論、日本における品質管理のQCストーリ的問題解決法から来ており、海外は積極的にその枠組みを評価し、学校教育に巧みにそれを組み入れていたのである。
4.学協会の支援の必要性
 今回の指導要領改訂の背景には、2005年に日本品質管理学会を含め日本統計学会、日本マーケティングリサーチ協会等の17の関連学協会が会長名で文科省に提出した「21世紀の知識創造社会に向けた統計教育推進への要望書」がある。学校における新しい統計教育の実を上げ、世界に伍する人材を育成するためには、関連する学協会の果たすべき役割と責任は大きく、昨年末、指導主事を含む教師100名弱に対して統計的問題解決授業の研修が統計数理研究所と日本品質管理学会の協力の下で開催されたが、今後も連携した取り組みが期待されている。


■私の提言
  夢と希望に満ち溢れた「究極的なありたい姿」が企業にさらなる飛躍をもたらす

名古屋工業大学 大学院工学研究科 准教授 加藤 雄一郎

 かつての"追いつけ・追い越せ"の時代、企業は徹底したベンチーマーキングと業務プロセスの持続的改善によって競争優位を確立することができました。しかし、それだけで勝てる時代は終わりを告げつつあります。
  最大の鍵は、自らを徹底的に考え抜くこと。競合や市場など「周囲」を分析する以前に、「自らがどうありたいのか?」ということを徹底的に考え抜くことがなによりも重要な時代になりました。夢と希望に満ち溢れた究極的なありたい姿を、全員一丸となった学習(組織学習)を通じて実現する……これこそが企業にさらなる飛躍をもたらす突破口なのだと考えています。
  その際、私が注目しているのは、ブランドマネジメントとTQMの融合による「インターナル・ブランディング」です。それは、ブランドが目指す姿を組織内部に浸透させるための取り組みをいいます。しかしその現状はロゴやスローガンの開発に終始した1980年代のCI活動と大差がない。つまり単なるイメージ戦略や意識高揚策に過ぎないという指摘もありました。このような実態の最大の原因の一つとして、現行のブランドマネジメントは、魅力的なコンセプトをプランニングすること(What to do)に強い一方で、組織的な取り組み(How to do)に関する方法論を十分に持ち合わせていなかったことが挙げられます。
  "What to do"に強いブランドマネジメントと、"How to do"に強いTQMの融合は、これからの時代に相応しい新しい経営のあり方を予感させます。それは、企業自らが掲げる"究極的なありたい姿"の実現に向けて,全員一丸となって高度な価値創造の仕組みを確立し,優れた製品・サービスという実体に結実させるというマネジメントです。競合を分析して自分の立ち位置を決めるのではなく、自らの意思をもって夢と希望に満ち溢れた究極的なありたい姿を描ききっていただきたい。己を考え抜けば、その結果は自ずと差別化されているはずです。答えは、自分たちの心の中にあるのです。


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