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JSQCニューズ 2009年 12月 No.297

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■トピックス:ソフトウェア部会「遺言プロジェクト」完了と成果公表について
■私の提言:マネジメントの質向上へ
・PDF版はこちらをクリックしてください →news297.pdf

■ トピックス
  ソフトウェア部会「遺言プロジェクト」完了と成果公表について

ソフトウェア部会 部会長 兼子 毅

「他社事例から学ぶ」ことの難しさ
 JSQCニューズNo.290のトピックス「ソフトウェア部会の活動が目指しているもの」でご紹介した、ソフトウェア部会の「遺言プロジェクト」がようやく完了した。学術誌に掲載された論文、国内外のシンポジウムなどの予稿など、何らかの形で「形式知化」された改善事例や分析事例を集め、それらの事例が持っている値打ちを再検討した活動の集大成である。
 いつ、誰の言葉なのかも確かな記憶がないのだが、「賢くなければ他社事例から学ぶことはできない」というせりふを聞いたことがある。「人間が犬に噛み付くと記事になる」という言葉もあるが、事例で報告される内容は「自分たちにとって新しい試みや経験」が中心となり、「自分たちにとって当たり前のこと」は書かれない。これは、現場に根付いた事実に基づく報告がもつ、根本的な制約なのだと思う。聞き手が、このような制約のある情報から、有用な何かを取り出すには、「自分たちにとって当たり前」であるがゆえに語られなかった何かを推し量らなければならない。この部分が、極めて困難で、豊富な知見と経験、好奇心が必要となるのであろう。
 今回の「遺言プロジェクト」では、産が提供してくれた事例に対し、学や、他の産のメンバーから、「そもそもなんでそれを思いついたの?」など、第三者から見たストーリーの再構築がなされた。事例を提供したメンバーは、「なぜそのようなことを聞かれるのだろう」という驚きすらあったのではないだろうか? そのような議論を通じて、何が本質的で、何が重要か、ということが浮き彫りにされてきた。この「遺言プロジェクト」は、事例から学ぶための新しい方法論を提供した、と自負している。

「遺言プロジェクト」全体の遺言
  このプロジェクトを通じて、問題解決に必要な王道が見えてきた。問題が起きているかどうかを知るためには、継続的に「測る」。管理指標の異常は、問題の発生を教えてくれる。しかし、どのような問題が起きているか、を管理指標は教えてくれない。その答えは「現場」にしかない。現場に赴き、現場の声を聞き、現場の隅々まで観察する。そこから、問題が見えてくる。その問題を解決するためには、頭を振り絞って、持っている知識と経験を総動員して、「考える」。そこから問題解決の糸口が見えてくる。
  至極当たり前のことを言っているように聞こえるかもしれない。しかしながら、「遺言プロジェクト」を通じて痛感したのは、今の品質管理が「考えなくなってきている」のではないか、ということである。欧米流フレームワークで語られていることの実体は、「品質の分野で成果を挙げている企業の活動を調べてみたら、押しなべてこのようなことをしていた」というリストに過ぎない。それらの企業は、地道な品質管理活動を通じて、様々な試行錯誤の末、今の姿に至ったのである。喩えて言えば、鬼が考えに考え抜いて、自らに最適な武器、金棒を開発した、ということだ。金棒は、極めて重量が重く、扱いにくい武器である。金棒が効果を発揮するためには、絶え間ない筋力トレーニングが必要だ。基礎体力もなく、トレーニングも怠っている素人が、金棒だけを入手しても、相手を倒すどころか、その重量で自分がつぶされてしまう。現在の日本の品質管理は、まさに、金棒に押しつぶされたひ弱な人間の姿に見えて仕方がないのだ。

「遺言プロジェクト」成果の公表
 「遺言プロジェクト」に区切りをつけるため、不完全ではあるかもしれないが、今までの検討成果をまとめて公表することにした。まずは、JSQCのWebページを通じて、電子的な形で、無料で公表する。多くの人に見ていただき、ご意見を賜るとともに、何かの役に立てていただきたいと考えてのことである。その際、「せっかくだから、本にしてみないか」という話になった。もともと出版を考えた活動ではないが、3社が興味を持ってくれている。もし、めでたく出版の運びとなったら、別途何らかの手段でお知らせしたい。印税は、部会メンバーの忘年会費用に当てようか、と目論んでいる。



■私の提言
  マネジメントの質向上へ

(財)日本適合性認定協会 井口 新一

パティシエの話
  3、4年前だったか、日本人パティシエの番組がテレビで放映されていた。そのパティシエが、パリの著名なパティスリーの店先に並ぶ洋生菓子を眺め、この店には特別なレシピがあるのだろうと修行に入ってみたところ、ありふれたレシピであったという。曰く「味を飛躍的に高めるための裏技などない。地味な作業を、手を抜かずにやること。あたり前の事が一番難しい」
  世界から注目され賞賛を浴びる洋生菓子作りには、勿論味を描くという創造的な活動が不可欠である。しかし、それを実現する技は、一つ一つの食材の確認から始まって、指定された作業を、指示された温度と保持時間を厳密に守って行った結果であるという。このパティシエの仕事のなかに、品質管理と共通の意識があることを知って大いに驚いた。
マネジメントの質
  現代は、多くの情報が容易に手に入り、品質管理もパソコンの助けを借りてずいぶんと安易に高度な管理が可能となった。しかし、このことが品質と品質管理に向き合う姿勢を「上手くこなす」という方向に押し流していないだろうか。
  標準化は、みんなが知っている作業を紙に記録することではなく、現時点でのベスト・プラクティスを、関係する人々が共通認識できるようにすること。そして、この標準は、作業する全員が確実に実施できるようにすること。この標準作業の徹底の度合いが、次の品質改善の成否に大きく影響する。これらの事柄は、ことさら目新しいことではない。しかし、これまでの標準化とその徹底の方法論は、グローバル化が広がる現在の環境にあっては再構築する必要にせまられてきている。すなわち、生活環境、労働意識、文化的背景、使用言語など様々な影響要因を充分考慮しながら標準化とその徹底を行わなければならないからである。この課題を乗り切るためには、ものの品質管理と同時にマネジメント(仕事を進める仕組み)の質の向上の検討も欠かせない。ものの品質管理とその業務執行の枠組みとしてのマネジメントの質。我々にとっては、特にマネジメントの質を向上させることを、地道に、手を抜かずに行い、ものの品質管理を盤石にしていかなければならないのではないだろうか。


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