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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2009 2月 No.290

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■トピックス:ソフトウェア部会の活動が目指しているもの
■私の提言:人材育成の質創造と確保に向けた継続的挑戦
・PDF版はこちらをクリックしてください →news290.pdf

■ トピックス
  ソフトウェア部会の活動が目指しているもの

JSQCソフトウェア部会 部会長 兼子 毅
「日本的」品質管理へのこだわり
 日本品質管理学会の中でソフトウェア部会が動き出したのは、2005年春のことである。当初は参加しているメンバーが交替で話題提供する、サロンのような活動から開始した。わが社ではこのような活動をしている、最新の技術動向はこうである、こういうことに困っているのだが知恵を貸してほしい、などなどの雑然とした話題が交わされていた。
 そのような議論の中から、そもそも「日本的品質管理」とはいったいどういうことだろう、というテーマが浮かび上がってきた。日本で生まれた「日本的品質管理」の背景には、日本の風土、文化、習慣などが深くかかわっているのだろう。
 「日本的」とはいったいどういうことか、話を深めていくにつれ、現在のソフトウェア品質管理がおかれている状況、言い換えると欧米からISOだCMMだと新しいフレームワークが提唱され、その学習や適用に躍起になっている状況、これは「日本的」とは完全に対極にある、ということに気がついた。
 ソフトウェア開発の世界では、しばしば「銀の弾丸」という言葉が用いられる。「銀の弾丸」とは、狼男や悪魔を一撃で倒す不思議な力を持った弾丸のことである。「銀の弾丸」は存在しないはずなのだが、なぜか今でも、多くの管理者や技術者が「銀の弾丸」を捜し求めているように見える。欧米から発信される様々なフレームワークは、まさに「銀の弾丸」のように怪しい光を放って見えるのだ。
 私たちソフトウェア部会は、「日本的」な何かを世界に発信することが、われわれの役割であると考えた。もともと「日本」が不得手な、新たなフレームワーク作りではなく、ボトムアップで多くの事例を集め、今まで私たちが「日本的品質管理」として実践してきた多くの事実を纏め上げていくことにした。
暗黙知の形式知化
 1980年代の日本のソフトウェア産業は、メインフレームメーカーを中心とした重厚長大な大規模開発が主であり、極めて高い品質を誇っていた。われわれは、1980年代当時の開発者が持っていた、高い品質を実現するさまざまな「知」を記述し、整理し、後世に残すべきであると考えた。それらが現在でも有用か、将来でも役に立つのか、それは読む人が決めればよい。議論の結果、以下のようなステップで作業を進めることにした。
1) 既に論文、学会発表などで公開されている「形式知」を集め、それらを記述するための枠組みを考える。
2) 集まった「形式知」をいろいろ並べ替え、より探しやすい分類方法を模索する。
3) 2)で作成した「分類表」に収集した「形式知」を布置していく。
4) 「分類表」は隙間だらけになるであろうから、そこに埋めるべき「暗黙知」を探しに出かける。
  最終的には、「暗黙知」を「形式知」化することまで狙っているので、「暗黙知の形式知化」プロジェクトと呼ぶことにした。しかしながら、80年代に最前線の現役技術者は、そろそろ定年を迎える時期であり、誰言うとなく、部会内では「遺言」プロジェクトと呼ばれている。
 部会長にプロジェクト・マネジメントの能力が欠落しているため、遅々として進んできたが、現在(2008年末)では、上記ステップの3)に入ったところである。今までの検討過程でも、極めて有益で示唆に富んだ議論が行われた。この会合にほぼ皆勤で参加している若手エンジニアのI君なども「いつか自分がプロジェクト・マネジメントをするときに役立つ知恵がたくさん」と参加の意義を認めている。ソフトウェア部会には、「研究」などと肩肘張らず、自分のために勉強してみよう、くらいのつもりで参加して欲しい。ただ、英語でも「ギブ・アンド・テイク」というように、まずは「ギブ(=与える)」が先である。すばらしい知見を皆に披露する、以外にも、議論に参加して議事録を作る、資料のアーカイブを作ってくれる、飲み会のアレンジをしてくれる、これすべて「ギブ」である。自分にもできる「ギブ」を一つ携えて、ソフトウェア部会へどうぞ。



■私の提言
 人材育成の質創造と確保に向けた継続的挑戦

金沢工業大学 石井 和克

 平成20年に中央教育審議会(以下審議会と略す)で「学士課程教育の構築に向けて」答申案が了承された。また、日本学術会議では「大学教育の分野別質保証のあり方に関する審議」が始まった。これら一連の動きの背景には以下の課題認識がある。(1)21世紀はグローバルな知識基盤社会、学習社会である、(2)学習成果を重視する国際的流れの中で我が国の学士の水準の維持・向上のための教育内容の充実の必要性、(3)少子化、人口減少の趨勢の中で、大学全入時代に対する教育の質保証システム構築の必要性、(4)学士水準の教育を担当する大学は知性ある21世紀型市民として職業人としての基礎能力を持ち、創造性のある人材育成に対する社会からの信頼に応え、国際通用性を備える必要性、(5)そのためには大学間の連携・協同化に加え審議会、学術会議及び学協会を含む大学団体のネットワーク化が必要である。
 一方、平成3年の大学設置基準大綱化以降の大学改革の経緯に基づく問題認識として、大学の個性化に伴い(1)学位が保証する能力水準の曖昧化、(2)学位の国際通用性喪失、(3)組織や専攻分野名称の多様化に伴う混乱、(4)学習成果の未実質化、(5)教育内容・方法、学習の評価を通じた質の管理の緩さの指摘がある。
 これらの認識を基に、問題解決の方向として(1)「学士教育課程」の概念に基づく改善と(2)学習成果の指針としての「学士力」の明示、(3)出口、入口とプロセスの3つの方針に基づくPDCA管理を、教職員の能力開発を中心として展開すると共に、(4)分野名称のあり方のルール化を提言している。これは学部・学科という枠組みを前提に「教える」視点のシステム作りがこれまでの姿であったものを、学習者が学位を得るための「学び」の学習支援システム作りへの変化の要請である。
 これに対し、大学は(1)個性化で多様な人材育成という質創造と、(2)その質水準の高度化・安定化という質確保を、(3)活性化を通じて競争優位を確保するための継続的改善努力をすることになろう。
 このような人材育成に関する国家的課題に加え、質に起因する様々な社会的問題を見聞きすると人材育成の質問題の重要性を実感する。この問題解決に対する本学会への社会的期待に対し、どう応えて行くかを大いに議論し、情報発信することは学会発展の好機ではないだろうか。


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