平成20年に中央教育審議会(以下審議会と略す)で「学士課程教育の構築に向けて」答申案が了承された。また、日本学術会議では「大学教育の分野別質保証のあり方に関する審議」が始まった。これら一連の動きの背景には以下の課題認識がある。(1)21世紀はグローバルな知識基盤社会、学習社会である、(2)学習成果を重視する国際的流れの中で我が国の学士の水準の維持・向上のための教育内容の充実の必要性、(3)少子化、人口減少の趨勢の中で、大学全入時代に対する教育の質保証システム構築の必要性、(4)学士水準の教育を担当する大学は知性ある21世紀型市民として職業人としての基礎能力を持ち、創造性のある人材育成に対する社会からの信頼に応え、国際通用性を備える必要性、(5)そのためには大学間の連携・協同化に加え審議会、学術会議及び学協会を含む大学団体のネットワーク化が必要である。
一方、平成3年の大学設置基準大綱化以降の大学改革の経緯に基づく問題認識として、大学の個性化に伴い(1)学位が保証する能力水準の曖昧化、(2)学位の国際通用性喪失、(3)組織や専攻分野名称の多様化に伴う混乱、(4)学習成果の未実質化、(5)教育内容・方法、学習の評価を通じた質の管理の緩さの指摘がある。
これらの認識を基に、問題解決の方向として(1)「学士教育課程」の概念に基づく改善と(2)学習成果の指針としての「学士力」の明示、(3)出口、入口とプロセスの3つの方針に基づくPDCA管理を、教職員の能力開発を中心として展開すると共に、(4)分野名称のあり方のルール化を提言している。これは学部・学科という枠組みを前提に「教える」視点のシステム作りがこれまでの姿であったものを、学習者が学位を得るための「学び」の学習支援システム作りへの変化の要請である。
これに対し、大学は(1)個性化で多様な人材育成という質創造と、(2)その質水準の高度化・安定化という質確保を、(3)活性化を通じて競争優位を確保するための継続的改善努力をすることになろう。
このような人材育成に関する国家的課題に加え、質に起因する様々な社会的問題を見聞きすると人材育成の質問題の重要性を実感する。この問題解決に対する本学会への社会的期待に対し、どう応えて行くかを大いに議論し、情報発信することは学会発展の好機ではないだろうか。