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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2008 12月 No.289

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■トピックス:医療の質・安全部会の活動状況
■私の提言:倫理教育の重要性
・PDF版はこちらをクリックしてください →news289.pdf

■ トピックス
  医療の質・安全部会の活動状況

早稲田大学 医療の質・安全部会長 棟近 雅彦

 医療の質・安全部会は、2005年12月の第1回部会総会以来、3年が経過しました。当初100名の部会員で活動を開始しましたが、現在は約210名の部会員が登録されています。3年後の目標値としては部会員300名でしたので、目標には到達していませんが、まずまずの規模を維持することができています。本稿では、最近の本部会の活動と今後の計画について述べたいと思います。

 研究テーマとしては、医療の質マネジメントシステム(医療QMS)と患者状態適応型パス(PCAPS)を柱にしています。前者は、2007年5月に開始したQMS-H研究会と2007年3月から部会内に立ち上げた医療QMS研究会という2つの研究会で研究を進めています。いずれも研究の目的は、医療QMSモデルおよび導入・推進方法の確立です。QMS-H研究会では、7つの病院と共同で医療QMSモデルの開発を行いながら、各病院へ導入・推進しています。既に5つの病院でISOの認証取得まで進んでいますが、認証取得が目的ではないので、継続的な改善をいかに行うべきかについて研究を継続しています。来年3月8日には成果発表のシンポジウムを予定しています。
 医療QMS研究会は、約40名の部会メンバーが登録され、3つのワーキンググループ(WG)に分かれて議論を行っています。WG1はISO9001の医療分野での解釈、WG2は内部監査、WG3は管理指標について研究を進めています。全体会合だけで18回の会合を持ち、各WGは、中間成果を今年5月の研究発表会で発表しました。WG2は11月の研究発表会でも報告しました。今後は、来年3月までにまとめを行い、5月の研究発表会で最終報告を行う予定です。
 PCAPSは、標準的な診療行為を記述した工程表であるクリニカルパスの新しい形態で、患者状態をもとに臨床経過をいくつかの適切なユニットに区切って、ユニットからユニットへ次々と移動していくパスです。適用率が低い、電子化に対応していないなどの従来のパスがもつ欠点を克服し、診療の質保証に効果的なツールと期待されています。このテーマに関しては、毎年3月と9月にシンポジウムを開催し、成果報告を行ってきました。PCAPSは電子化システムを用いて運用することになりますが、昨年度末にプロトタイプを作成することができました。現在は、そのプロトタイプを実際に病院で試行する段階まで進んできました。来年3月7日に今年度の最終成果報告シンポジウムを予定していますが、その際には、この試行で得られた様々な知見について報告できると思います。
  本部会では、これまでに述べた研究活動に加えて、教育・啓蒙活動も重要な柱と考えています。これに関しては、2006年5月から7月に、「医療のための質マネジメント基礎講座」を開催しました。この講座では、医療QMSを構築、運用していくために必要な基礎概念、技法などを初心者にもわかりやすいように解説するものです。具体的には、質マネジメントに関する基礎概念、事故分析手法、医療QMS、KYT、5S、エラープルーフ、PCAPSなどを取り上げました。諸事情で、この講座をしばらく中断していましたが、来年4月からリニューアルして再開する予定です。
 当学会では、3年前から中期計画を立案して学会の活性化を図る活動を開始しました。この10月で、1期目の3年間が終了しました。この3年間は、研究活動は順調に進んでいたものの、教育・啓蒙が不十分で、そのために部会員増加も進まなかったと分析しています。これからの3年間では、部会員300名、テキストの出版、セミナーの開発、新たな研究会の立ち上げと成果の発信、現医療QMS研究会の成果報告を品質誌に掲載、を成果目標として掲げ、活動を進めていく予定です。
  本部会の活動は、年次大会で総会を開催し報告するとともに、JSQCホームページ中の部会のページに掲載しています。ぜひご覧いただき、忌憚のないご意見をお聞かせいただければと存じます。



■私の提言
 倫理教育の重要性

株式会社日立製作所 新家 達弥

 不正表示、偽装、データ改ざん、内部告発など製品品質以前の人や組織の品質の劣化に係る事件が目に付く。社会の品質が劣化していることが大本にあるという意見もあるが、どちらが先かは「ニワトリと卵」の話になってしまう。ただ、倫理が重要な課題となっていることは論を待たない。
  倫理は、行動の規範としての道徳観や善悪の基準と定義されているが、法が制裁を付随した他律的規範であるのに対して、社会のモラルに従い各人が自主的に遵守する自律的な規範と位置付けられている。
 ここで、「我々の持つべき倫理とは何か?」との問いかけに的確に答えられるであろうか。その時の自分の立ち位置で答え方が変わる。例えば専門家としての技術者倫理や医者の倫理なのか、組織人・職業人としての企業倫理に係るものか、または社会人としてあるいはもっと基本的な人間としての倫理なのかなどである。いずれにしてもそれぞれの倫理を踏まえて、我々はより高いものを求められる状況になっている。
 ところで、製品の開発・製造に係っている技術者の倫理について考えてみる。技術者は科学技術を活用して、社会を豊かにする使命を持っているが、その為には、社会に対して安全・安心なものを提供する責任、更には地球環境の維持や資源の有効活用などの責任を有している。これらの社会の期待と信頼に応える為にも技術者は高い倫理観が求められる。
 この為には、技術者の倫理教育は極めて重要であるが、実態は十分な倫理観の醸成がなされているとは言いがたい。例えば大学の理工学部における技術者の倫理教育は十分であろうか?企業は技術者の倫理教育システムを整備して、継続的な教育や自己研鑽を十二分に支援しているであろうか?「チャレンジャー号の爆発の悲劇」の様に技術者が打上げ中止を勧告しても、上司が経営的判断で勧告を無視する時に、技術者はどの様な行動を取るべきかを自律的に判断できるようになっているであろうか?
 科学技術が人類に与える影響が大きくなるに従い、安全性・信頼性の高い製品やシステム作りとともに、倫理教育の質の更なる向上が求められてきており、倫理教育は産学官が協同して取り組まねばならない重要な課題である。


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