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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2007 9月 No.279

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■トピックス:食の安全・安心は「品質管理の実践」から
■私の提言:品質管理の存在感向上
・PDF版はこちらをクリックしてください →news279.pdf

■ トピックス
  
食の安全・安心は「品質管理の実践」から

食品安全ネットワーク 会長 米虫 節夫


 2007年1月に起こった不二家の事件に引き続き、ミートホープ社事件や中国産製品の安全問題など、食品分野の品質管理に関係する事件が続いている。これらの事件に対して色々の論評がされているが、いずれも「トップの姿勢が悪い」「品質管理がなっていない」「ISO9001の認証をとっているのにプロセス管理がなっていない」などの批判ばかりの後ろ向きの「論」ばかりである。ここでは、「ではどうすればよいか」を不二家事件を例に紹介したい。

不二家事件の発端
 不二家事件の発端は、「消費期限切れ」の原材料を用いていたという内部告発から始まった。食品分野で食の安全・安心、食品衛生などに関連した仕事をしている者にとっては、1日2日の消費期限切れの原材料使用は食の安全上それほど大きな問題とは考えられず、もっと大きな問題が隠されていると考えた。案の定、その後の新聞報道などによると、不二家はトップの姿勢をはじめ数多くの問題を抱えていた。
 新聞報道では2007年1月31日にSGSにより次のような是正事項が提出されたとされている。品質管理の基本が出来ていなかったと見るべきだろう。
●管理責任者の権限が不明確、従業員と意思疎通が図られていない
●不良品が適切に処理されていない
●品質マニュアルを含む文書管理、記録に不備がある
●従業員教育が不十分
●取引先に選定基準が曖昧
●製造工程の検査態勢が不適切
●内部監査が徹底されていない

不二家事件を知って何をすべきか
 この事例を他山の石として、とらねばならない行動を考えると、企業内における立場・役職により異なってくる。例えば、企業の代表権を持つトップ・経営者や重役会のメンバー、トップ・経営者の指示により企業活動の一部分を統括する執行役員、中間管理職、現場の主任や職長などといったライン・地位によりとるべき行動に大きな差が存在する。
 一方、製品品質全般に責任を持つ品質保証担当者、品質管理(検査・試験)担当者、原材料の購入や保管を担当する購買・保管・物流担当者、商品生産を担当する製造担当者、設備・機械などの保守・点検などを担当する生産設備や技術担当者、顧客と直接応対する営業担当者、新製品などの開発担当者など企業活動の機能別に見ても、それぞれの部署で行うべき行動は異なってくるだろう。

トップ・経営者はどんなことを行わなければならないか?
 ここでは、例としてトップ・経営者がこの事件を契機に何をなすべきか考えてみよう。
 ISO22000では、「経営者のコミットメント」という要求事項が、さらに、「緊急事態に対する備え及び対応」において、トップマネジメントが何をなすべきかが記載されている。経営者・トップマネジメントは、品質方針・食品安全方針を設定し、具体的にそれらに対してコミットメントしていることを示さなければならない。不二家の事件は、このようなコミットメントの証拠を残すのには格好の事件と捉えねばならない。
 このように考えると、トップ・経営者はこの事件を契機に食品安全に関連した行動をとるべきである。行うことは次の2つである。
1)全従業員並びに利害関係者に自社が食品安全の確保に努め、法令・規制要求事項に適合した(complianceのある)行動を今後共にとるということを内容とする食品安全宣言を公表すること。
2)出来るだけ早い時期にマネジメントレビューを行うことを予告し、それに向けた全社点検活動をするようにという指示を出すこと。
 JSQC会員の皆さんは、このトップ・経営者の例を元に、一つの事件が起こったときに、各階層、各機能の立場で何をすべきかをぜひ考えてほしいものだ。それにより更なるTQMの発展が図られることであろう。


■私の提言
  品質管理の存在感向上

元・コニカ(株) 山崎 正彦

 TQM奨励賞はISO9001の認証を取得し、TQMのレベルアップを計るために、日本科学技術連盟が2000年に創設した賞で昨年度までに22社が受賞している。受賞会社の中には受賞後もTQMを継続的に推進してデミング賞を受賞した会社もあるが、逆に受賞後に停滞している企業も見かける。なぜだろうか?受賞後にTQM活動を継続している企業には、(1)オーナ社長の企業、(2)親会社の指導、(3)QCコンサルタントの長期指導、などいくつかの共通点が見出せる。即ち、TQM奨励賞を受賞した後も継続させていく仕組みが備っているのである。
 企業経営では、財務諸表の作成とその開示が法律で決められ、違反者は処罰を受ける。これ程の強制力はないが、ISO9001でも認証取得後のフォローアップとしての第三者評価が実施され、不適合企業は認定取り消しなどの処置が講じられる。企業の中にTQMを継続的に定着させるにはどのような方法があるか。法規制は現実的でないので、その他の方向を1、2述べてみたい。
1)経営トップの協力を仰ぐ
 数年前に品質管理の分野でCQO(Chief Quality Officer)を企業に置く働きかけをする議論があった。品質管理を専門に担当する役員の任命である。一部の企業では実施されたようだが、ほんの数例に過ぎず、その議論も消えてしまっている。TQMを経営の質向上というならば、経営の中での存在感を高めていく必要がある。最近、品質問題により企業が破綻をきたす事例や多くの企業でCSRの高まり傾向が見られ、今が、品質管理についてトップの理解を得る絶好のチャンスと感じている。
2)TQM定着ツールの開発
 TQMを継続させるツールとして「方針管理」がある。経営理念、長中期計画、年度計画、実施、フォローアップ、次期課題といった繋がりの中で近年、戦略が加わったが、冒頭に述べたように、経営者が変わると推進の勢いが弱まり更なるツールが必要と考える。経営者が後任を選ぶ際の要件の中に品質管理の継続が盛り込まれる仕組みが開発できないものだろうか。
 企業から「品質管理部」が減り、大学から「経営工学部」がなくなっていく現実をみて、なんとか品質管理の存在感の向上について、力添えができれば良いと考えている。


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