2007年1月に起こった不二家の事件に引き続き、ミートホープ社事件や中国産製品の安全問題など、食品分野の品質管理に関係する事件が続いている。これらの事件に対して色々の論評がされているが、いずれも「トップの姿勢が悪い」「品質管理がなっていない」「ISO9001の認証をとっているのにプロセス管理がなっていない」などの批判ばかりの後ろ向きの「論」ばかりである。ここでは、「ではどうすればよいか」を不二家事件を例に紹介したい。
不二家事件の発端
不二家事件の発端は、「消費期限切れ」の原材料を用いていたという内部告発から始まった。食品分野で食の安全・安心、食品衛生などに関連した仕事をしている者にとっては、1日2日の消費期限切れの原材料使用は食の安全上それほど大きな問題とは考えられず、もっと大きな問題が隠されていると考えた。案の定、その後の新聞報道などによると、不二家はトップの姿勢をはじめ数多くの問題を抱えていた。
新聞報道では2007年1月31日にSGSにより次のような是正事項が提出されたとされている。品質管理の基本が出来ていなかったと見るべきだろう。
●管理責任者の権限が不明確、従業員と意思疎通が図られていない
●不良品が適切に処理されていない
●品質マニュアルを含む文書管理、記録に不備がある
●従業員教育が不十分
●取引先に選定基準が曖昧
●製造工程の検査態勢が不適切
●内部監査が徹底されていない
不二家事件を知って何をすべきか
この事例を他山の石として、とらねばならない行動を考えると、企業内における立場・役職により異なってくる。例えば、企業の代表権を持つトップ・経営者や重役会のメンバー、トップ・経営者の指示により企業活動の一部分を統括する執行役員、中間管理職、現場の主任や職長などといったライン・地位によりとるべき行動に大きな差が存在する。
一方、製品品質全般に責任を持つ品質保証担当者、品質管理(検査・試験)担当者、原材料の購入や保管を担当する購買・保管・物流担当者、商品生産を担当する製造担当者、設備・機械などの保守・点検などを担当する生産設備や技術担当者、顧客と直接応対する営業担当者、新製品などの開発担当者など企業活動の機能別に見ても、それぞれの部署で行うべき行動は異なってくるだろう。
トップ・経営者はどんなことを行わなければならないか?
ここでは、例としてトップ・経営者がこの事件を契機に何をなすべきか考えてみよう。
ISO22000では、「経営者のコミットメント」という要求事項が、さらに、「緊急事態に対する備え及び対応」において、トップマネジメントが何をなすべきかが記載されている。経営者・トップマネジメントは、品質方針・食品安全方針を設定し、具体的にそれらに対してコミットメントしていることを示さなければならない。不二家の事件は、このようなコミットメントの証拠を残すのには格好の事件と捉えねばならない。
このように考えると、トップ・経営者はこの事件を契機に食品安全に関連した行動をとるべきである。行うことは次の2つである。
1)全従業員並びに利害関係者に自社が食品安全の確保に努め、法令・規制要求事項に適合した(complianceのある)行動を今後共にとるということを内容とする食品安全宣言を公表すること。
2)出来るだけ早い時期にマネジメントレビューを行うことを予告し、それに向けた全社点検活動をするようにという指示を出すこと。
JSQC会員の皆さんは、このトップ・経営者の例を元に、一つの事件が起こったときに、各階層、各機能の立場で何をすべきかをぜひ考えてほしいものだ。それにより更なるTQMの発展が図られることであろう。