■ トピックス
国際的に認知された日本発の質マネジメントシステムモデル
〜JIS Q 9005/9006〜
東京大学 飯塚 悦功
2005年12月20日、質マネジメントシステムに関する以下の2つの日本工業規格(JIS)が制定された。
- JIS Q 9005 質マネジメントシステム −持続可能な成長の指針
- JIS Q 9006 質マネジメントシステム −自己評価の指針
これらについて解説する。
新QMSモデルのJIS発行
JIS Q 9005は、学習及び革新を通じて持続可能な成長を実現するために、顧客に提供する製品・サービスの質の改善・革新を図る質マネジメントシステム(QMS)を自律的に構築するための指針であり、JIS Q 9006はQMSの改善・革新の方法として位置付けられる自己評価の方法を定めた指針である。
JIS Q 9005は、わが国の中堅企業の競争力向上に資する、時代に即したQMSモデルを提示していることに加え、国際的にも、ISO 9004の2008年改訂における重要な文書と位置付けられているという意味でも注目される。
TQM標準化ニーズへの対応
JIS Q 9005/9006開発の着手は1999年に遡る。日本規格協会にTQM標準化調査研究委員会(前田又兵衞委員長)が設置され、端的に言えば、TQMの標準化に対するニーズを調査した。この結果、時代が求めるQMSモデルの標準化ニーズが明らかとなり、引き続き、産業界に提示すべきQMSモデルの研究を行った。目処がついたところで、このモデルをJISにすることを視野に入れ、品質マネジメントシステム規格委員会(e橋朗委員長)を設置し検討を行い、2003年1月に、2つのTR(標準報告書)を発行した。今回発行されたJISは、これら2つのTRを改正しJISに格上げするものである。
JIS Q 9005/9006の基本概念
JIS Q 9005/9006の基本概念のうち最も重要なものは「持続可能な成長」である。長生き組織が良い組織であるという価値観のもと、長生きであるためには組織及び個人の学習能力を高め、革新を可能とする組織運営により変化に対応することの重要性を説いている。
またQMSは、ただ漠然と構築すべきものでなく、事業戦略を実現するために最適なQMSを考察して設計・構築すべきであるとしている。このために「組織能力像」という重要な概念を提示している。組織能力像とは、製品・サービスを通じた顧客価値提供のために組織が保有すべき能力のうちで、組織の特徴を踏まえた競争優位要因の視点から、重要な能力として抽出され、明確にされた、組織のあるべき姿としての能力像のことである。これを明確にすることにより、どのような能力をどのQMSの要素に実装すればよいかを適切に考察することができる。
さらに、新たな時代に求められる質マネジメントの原則として、現在のISO 9000の8原則に、社会的価値重視、コアコンピタンスの認識、組織及び個人の学習、俊敏性、自律性を加えた12の原則を提示している。
自己評価の指針JIS Q 9006は、通常の自己評価とは全く異なる方法を提示している。すなわち、自己評価の目的を、組織が自らを洞察しQMSの革新の必要性を決断し自らを変える判断材料を得るためとし、自ら評価基準を定める評価法を提示している。組織能力像により重視すべきQMS要素が明らかにされているが、これを基礎に自ら評価基準を定めて現状を評価する。
自律的QMS構築のすすめ
TQC、TQMは、品質立国日本を可能にしたわが国が誇るべき品質管理のモデルであった。時代が変わり品質及び品質管理の求心力が低下するなか、組織の競争力の構成要因としての品質の意義を考察すれば、これまでの品質論を基盤としつつ、時代の要請に応える質マネジメントシステムモデルが必要なことは明らかである。
JIS Q 9005/9006は、組織能力像の明確化により、組織に必要な指針のみに焦点を当てるように促す指針であり、ポストISO 9004:2000をねらうばかりでなく、競争力の視点で質を再考することにより品質立国日本の再生をめざし、何よりも「自律せよ」との強いメッセージを発するJISでもある。
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■ 私の提言 “動機づけ理論”を意識したTQM活動にしよう
朝日大学 教授 國澤 英雄
TQM活動で大切にしていることは、各自が持っている能力を出しあい、一致団結し企業目標を達成することであります。しかしこのような全員参加が大切だとわかっていても、問題は「皆が業務への高い意欲を持ってくれるか」であります。
従来からの「動機づけ理論」は、「人間は自己の能力を高め、自己実現し、その結果他人より有能と思われたいという生来の欲望を持っている」という哲学的思考に集約できそうです(右図参照)。つまり、人間は「自分の仕事を通じて自己成長を図るとともに、能力の高さを多くの人に認めてもらいたい」という本性を持っている訳です。このことを実際の職場で考えてみるなら、「その仕事をすることが、いかに能力向上に結びつくかを理解してもらい、そして得た仕事の成果や、携わった人の能力の高さをアピールする場を作るなどの一連の仕組み」が、勤労意欲の高い職場を作るということになります。
TQM活動では、問題解決の進め方やSQC手法を使って、困難な課題を解決し、その成果を発表するなどのやり方の普及を積極的に進めてまいりました。このようなTQM活動は、「動機づけ理論」に沿ったものと言えますが、TQM活動を一層効果的な活動にするためには、これらの「動機づけ理論」を意識したメリハリのある活動が必要と思われます。
(参考:『勤労意欲の科学=活力と生産性の高い職場の実現=』成文堂,3月刊行)
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