私が品質管理学会理事ならびに関西支部長に就任してから、3年が経とうとしている。本年6月の弊社株主総会では、取締役相談役に就任し、今までの経験を活かした経営全般の助言や業界活動を行なっている。
今般は、創業以来55年住宅一筋の私の経験から、お客様との関係構築と品質の考え方について提言をさせていただきたい。
品質管理が「品質」の概念を拡張してきてから久しく、日科技連がTQCをTQMと名称変更して9年が経つ。この間、品質の概念は様々なものを包含し、今も拡大しつづけているのではないであろうか。また、顧客との関係性においても顧客満足(CS)から顧客感動(CD)そして今では顧客信頼(CT)の実現が叫ばれている。
しかし、このような進展を正しく理解しないと、誤解した品質の追及にひた走ってしまうのではないであろうか。
JR西日本の脱線事故については様々な分析が行なわれているが、過密ダイヤを組まざるを得ない背景に、利益優先や企業間競争の激化があるのは言うまでもない。
しかし、我々が注目すべきは品質の概念を製品からサービスを含み、そのアウトプットとして利益を生むシステムを対象としてきたのではないかということである。当然、企業は適切な利益が無ければ永続的な発展は見込めない。しかし、一方でJR西日本の乗客の一部が便利さとは裏腹に、スピードに恐怖感を覚えていたという事実も見逃せない。この時点で顧客の信頼を著しく欠いている。
私ども住宅産業においても高額耐久消費財という商品特性から「家を建てる」人そのものが減少傾向にあり、かつその多くが一生に一回の買い物であるなかで、顧客との信頼関係を構築しなければ商売の広がりはない。そしてその信頼とはデザインや最新の設備だけではなく、「住まいは家族を守るシェルターである」という考えに立脚して安心・安全が優先されなければならないことは言うまでもない。
このような弊社での経験を踏まえ、筆者は品質の概念をあまりに広げすぎ、より利益にフォーカスの当たった品質を求めることに不安を感じる。今一度、「品質」の意味を正しく理解し、品質保証の重要性を再認識すべきではないであろうかと痛感する次第である。