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学会誌「品質」
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JSQCニューズ 2005 2月 No.258

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■トピックス:医療の質向上の取り組み
■私の提言:自己適合宣言のすすめ
・PDF版はこちらをクリックしてください →news258.pdf

■ トピックス
  医療の質向上の取り組み

東北大学大学院 医学系研究科国際保健学分野
医療のTQM推進協議会 代表幹事 上原 鳴夫
いま医療の質のあり方が問われています。これは日本の医療だけの問題ではなく、欧米の医療界においても医療の質と安全がいま最もホットなテーマになっています。

米国医学研究所の報告書は、米国で毎年44000人から98000人の患者さんが医療事故で死亡しており、これは乳がんや交通事故による死亡の数をも上回るものだと指摘しました。

ここ数十年間の目覚しい医療技術革新が医療の役割を広げる一方で同時にその不確実性を増大させ、いわば古い革袋のまま新しい酒を無理やり詰め込んできた結果が随所にほころびとして現れているのです。欧米各国はいま、医療の質とは何かを改めて問い直し、組織を挙げて医療を提供するシステムの改革に取り組んでいます。

日本では1980年ごろから病院でもQCサークル活動が行われるようになりました。日本は欧米のどこよりも早く「医療における改善」を始めたのです。しかし、病院経営者や医師の理解や関心が得られず、看護や検査、事務が中心になっていたために、「臨床的な質」をテーマにすることが難しく、主としてサービスの質や業務効率がテーマになっていました。また、同じ理由で、トップのリーダーシップがないために組織を挙げた取り組みとならず、TQMに発展することはありませんでした。それでも、地道にサークル活動を続けたところでは、患者本位の考え方が浸透し、さまざまな改善を実現してきました。

「TQMの医療への展開」研究会(日本品質管理学会)の提唱により1997年と1998年の2回にわたって病院QCサークル活動を考えるワークショップが開催され、参加した病院やサークルからこのような交流機会を続けたいという希望が多く寄せられたため、活動交流を支援する母体として1998年1月に「医療のTQM推進協議会」が設立されました。協議会は患者本位の質の確立を目指す病院と医療者の自主的なネットワークで、毎年秋に全国フォーラム「医療の改善活動」を開催するほか(今年は10月27−28日に札幌で開催されます; http://www.tqm-health.gr.jp参照)、医療事故防止に関するシンポジウムやワークショップ、セミナーなどを開催し、医療における質の改善とTQMの考え方の普及に努めています。

患者本位の質を確立し向上させるためには、また医療事故防止のような臨床的な質不良の問題を解決するためには、職種や部門を越えた改善の取り組みやシステムの改革が不可欠です。病院QCサークルは優れたモデルがすでにできていますが、病院TQMの優れた実践モデルはまだありません。このため、厚生科学研究の一環として、医療者と企業の品質管理専門家の協力による「医療版TQMのモデル作り」プロジェクト(NDP=医療のTQM実証プロジェクト;URL:http://www.ndpjapan.org/)が2000年にスタートしました。NDPを通じて病院の中にQエキスパートが育ち、医療の質不良をなくすためのさまざまな取り組みが進められるようになりました。

医療は、とりわけ、産官学が緊密に連携して不良品の低減に真剣に取り組んだ草創期の「QC」「TQC」にこそ学ぶべきことがたくさんあると考えています。産業界のQCを支えたものの一つで医療界が欠いているものがあります。それは、質を選ぶ消費者です。顧客が質を求めない限り、医療はプロダクト・アウトから脱することができないでしょう。

ほとんどすべての人が、いつかは必ず医療を必要とします。あなたが病気になったら、あなたはどうやって病院を選ぶでしょうか? どんな医療を求めるでしょうか? 日本品質管理学会の会員の方々にはぜひ医療の現実と医療が直面する問題に目を向けていただき、質を求め質を選ぶ「賢明な医療消費者」という立場から医療の質改革運動に加わっていただきたいと願っています。


■ 私の提言
  自己適合宣言のすすめ

(財)日本規格協会 監事 竹下 正生
わが国のISO9001の審査登録件数は約4万件(JAB)で、既に伸び悩みの状況である。英国では減少傾向にあると聞く。漸く審査登録ビジネスに対して、市場が冷静に対応できるようになったのであろう。

巷間では“ISOを取得しても品質はよくならない”と言われていると聞くが、この表現は、さもISO9001規格がよくないような印象を少なからず与えている。しかしながら、実際には、審査方法も含めて審査登録制度の運営そのものがよくない結果だと考える。規格の内容と運用方法を一緒にして議論するのではなく、ここは“層別”して議論してもらいたいものである。そのためかどうかわからないが、登録返上がそのままISO9000体制の放棄へと短絡してしまう現象が生じていると聞く。本当に残念なことである。

ところで、飯塚会長は、品質誌34巻第4号の「Q-Japanよ再び」の中で、“自律型精神構造の獲得”を唱えている。ここで言う“自律”とは、カントが唱えた“自律”と恐らく同義であろう。カントは、“自律とは、自ら進んで〜せずにはいられないので、行う”という行為で、道徳性と人格の尊重が成り立つ行為であるとし、更にこのような行為を生み出すものを、「悟性」と名付け、理性と悟性を結びつけるものとして「反省的判断力」というものを考えた。反省的判断力とは、具体的な事象から法則性を探っていくようなことで、既に存在する規則や法則・原理といったものに当てはめていくようなことではない。

話を元に戻して、審査登録制度のような適合性評価の方法には、“自己適合宣言”という方法も広く認知されている(ISO17050)ので、登録を返上してもISO9000体制を維持し、自己適合宣言をできるような体質を身に付けてもらいたいと考えている。いわば“有言実行”である。もちろん大変なこととは思うが、それこそ自律型精神構造を獲得すれば容易である。

このことが一般的になれば、第三者審査は、顧客に今以上の付加価値を与えなければならなくなり、必然的に第三者審査の質向上が期待できる。

第三者審査のみという市場から、自己適合宣言を含めた市場への拡大転換を支援するために、当学会が“自律的ISO9001自己適合宣言ガイドライン”を作成してはどうだろうか。


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