中谷宇吉郎は『科学の方法』(1958)で、“自然科学の本質と方法を分析し、今日の科学によって解ける問題と解けない問題を明らかにし、自然の深さと科学の限界を知ってこそ、新しい分野を拡大する”ことを主張した。この考えが真理の追求、学問の発展につながることは論を俟たない。企業であろうが、製品であろうが、なにごとも継続して世の中に存在し、社会の発展に寄与することなくして存在意義はないというのは言い過ぎであろうか。
当学会の役割は、真実を明らかにすること、混沌とした状況の中から真の姿を見いだしていくこと、そのために品質・クオリティという側面で、社会のニーズや新しい経営環境に合致する方法論を研究し、社会の発展に寄与することにあると思う。社会環境、経営環境に合わせて、組織は変わらなければ衰退する。そのために自ずとマネジメントの方法を変えなければ、組織は生きていけない。その組織が品質を中核とした経営を行うためのいろいろな方法を当学会が研究し、管理技法として社会に普及すること、そして、どのようなマネジメントの方法が効率的で効果的であるかというガイドラインを示すのが、その役目ではないだろうか。
もともと品質管理の分野は、工学的アプローチ、すなわち統計データを解析していくことにより事実を発見していく科学的方法として発展してきた。先人の卓見により広がってきたこの分野が、ますます進展することを願うのみである。
ただ、他の方法、社会科学的なアプローチも必要であり、定量的な分析だけでなく、定性的な方法として言語データの分析も行いながら、より事実を明らかにしていく方法論の発展を願いたい。再現性が確保されなければ、学問あるいは学術論文としての価値がないのであろうか。この考えには、首肯することはできない。
社会や組織は生き物であり、いっときとして同じ状態はない。工学系の専門家だけの研究枠を越えて、非工学系の専門家も取り込むことで、研究がより広くそして深くなり、結果的に、他分野の専門家・研修者が当学会に対する関心を高めることにつながるのではないかと感じている。世の中に役立つ学会としての、さらなる発展を期待したい。